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[groovisions 100 works] 色

 groovisionsのデザイン・アーカイブをテーマごとに解説していく企画です。登場人物はgroovisionsのメンバー。第3回目は色について。



色彩のパレット

伊藤 groovisionsって色彩のトーンが共通しているイメージがあるようで、「使用する色のパレットが決められていて、ルールが決まっているんじゃないか?」とか、「使っている色彩のパレットを見せてほしい」みたいなことをずっと聞かれ続けてきたわけなんですが・・・
 ないですよね、パレット。
伊藤 ないですね。実際ほんとになくて。まあ、最初にはっきり言っておくとあまり色にこだわりがないというか(笑)「みんなこういう感じ好きなんじゃないですか?」みたいなそういう色を使っているというか。複雑な色彩計画をやっているわけではなくて結構シンプルですからね。
 「暗い」か「明るい」かでいうと明るい雰囲気のものを選んでいるし、ちょっと楽しそうな色を選んでいるかも。
伊藤 良くも悪くも、明るく楽しく健康的なトーンを選んでいて・・・色の選択でへんな垣根を作りたくないので、サラッと流して、次行きましょう、みたいな、そういう感じがどっかであるのかもしれないですね。逆に自分たちもそういう色はそんなに嫌いではない、みたいな。
 どうせ作るんだったらポジティブな感情が出てくるような色を選んでます、みたいなことですかね。
伊藤 そうね。そう言う感じを前提にやっているから、あんまり色そのものに思い入れがないって言ったら変なんだけど、色にメッセージを込めてないと言うか。
 「好きな色なんですか?」って困りますよね。
伊藤 困りますね。好きな色の組み合わせは? だったらまだありそうですけど。
 そんな感じでわりと感覚的だから逆に、その時代時代の影響がけっこう反映されてるとは思います。

2000年に発売されたフィギュア「S.M.P.KO2 STRIKES BACK!」のパッケージ  © Takashi Murakami/ KaiKai Kiki Co., Ltd. All Right Reserved.
2004年製作の「100%ChocolateCafe.」のパッケージ
DNP文化振興財団の活動報告書『Graphic Art & Design Annual』の2011-2012版表紙

伊藤 そうね。一つはパレットを作らない積極的な理由っていうのは、実はあると思っていてね。パレットで固定されてしまうと、それぞれの時代の雰囲気にあった微妙なチューニングを怠る結果になっちゃう。実際色は繊細で、その時々や場所の雰囲気が大きいから、例えば、CMYKの2%3%みたいなところはけっこう空気感に影響するじゃないですか。
 いつもチューニングする準備しておくというのはあるかもしれないですね。パレット作ると楽なんだけど、ちょっと危険ですよね。それくらい色は変わっていないようで、けっこう揺らいでいるっていう、そういう造形要素のような気がしますけれどもね。

グラデーションで並べた展覧会

伊藤 まあ、すべてのものに色はあるわけだから、逆に色をメインのコンセプトにしたデザインってうちの場合場合あまりないようなきがしますね。
 強いてあげるとすれば、グラデーションで展示するスタイル、RIP(RIP SLYME)の展覧会とか、dddでの展覧会とかですかね、床置きの。
伊藤 あのへんは確かにそうですね。あれはRIPが最初だったと思うんですが、なにか年代順に展示したりジャンルごとに展示したりするとつまらなく見えてしまうんですよね。なので年代もアイテムもごちゃごちゃにして色だけを指標に展示したらRIPの一番いいところが見えてきたという。

2010年に開催された「RIP SLYME 大博覧会」の会場。アートディレクションを担当


 dddも同じですね。groovisionsの場合、平面的なデザインばかりじゃなくて立体もあったり、成果物がとにかく雑多だから普通に展示するとカオスになってしまう。
伊藤 強引に色彩のグラデーションで展示したのは正解だったと思います。
 dddでのグラデーションって結構難しかったですよね。
伊藤 そう、あまりヌケよく見えなくて、重苦しくなってしまうところを、白のスペース作って。
 グラデーションの真ん中あたりに白を置くことで強引にヌケを作ったという。

2013年にdddギャラリー(当時は大阪)で開催した「dddg groovisions」展

伊藤 そうそう。こうやって作っているんだけど、結構グラデが成立するじゃないですか。これ多分groovisionsの特徴な気がしていて。なんかうち、割と満遍なく色を使っているような気がしないでもなくて。
 確かに意外でしたね。これやった時ね。
伊藤 そう。逆にいうとあんまり色に思い入れがないから、どっかの色相に偏らない。
 確かに。でもこの展示をみるとあまり使っていない、弱いところもわかりますよね。
伊藤 真っ赤、金赤付近とか。
 強いし、象徴しすぎというか。
伊藤 展示のグラデーションでも微妙なところに金赤コーナーを設置して弱さを補ってますね(笑)
 色を指標に展示するプランを採用するときは、すべてのアイテムのサイズを測り、そのアイテムの支配的な色を決めてから机上で設計することをおすすめします。
伊藤 遠回りのようで意外と一番早道ですね。

dddのフライヤーは設計図をモチーフに


色と素材

 風街図鑑FPMのように成型色、素材そのものに色をつけている場合も色がテーマと言っていいかもしれません。
伊藤 印刷の場合とは違って、色そのものが立ち上がってくるというか。色の存在感というか。

2004年に発売された「松本隆 風街図鑑」の初回限定パッケージ
FPMのアルバム「too」(2003年)「IMAGINATIONS」(2006年)の初回盤パッケージ
2015年に発売したFPM「Momets」の初回盤


 ポリスチレンでもABSでも素材によってよく見える色とかありますからね。プラ素材の場合、ストレートな色よりも、ちょっと白を加えたり濁らせた色のほうがいい感じに見えることが多いです。風街図鑑の場合は6枚セットだから、あまり使わないような茶色を加えて全体のバランスとってますね。
伊藤 表面処理でもかなり色の見え方が変わるから、成型色だとほんとうに色だけでデザインしている気になりますね。このまえとりあげたアイデアインクシリーズも紙そのものに色がついているので成形色といえば成型色。

ideainkシリーズ

 この上質紙も他に色が結構あるんだけれども・・・
伊藤 選んでいる?
 6色選んでいますね。
伊藤 これもちょっと間違えると・・・
 成立しません(笑)黒で締めたりとか、なるべくデザインをシンプルにしてやり方を統一したりとか、ちょっと甘いパステルカラーに落ちるのをぎりぎりのところで止めているのはあるかもしれないですね。

パステルの闇、色の凸凹

伊藤 うちの場合「パステル調の色ですね」とか言われることも時々ありますね。それちょっと間違いで、色としてのパステルカラーは、絵具でいう白の混ぜ方が多くないとパステルカラーにならないと思うんだけど、パステル調っていうと、パステルカラーを多用しながら、それ以上に彩度が一定の範囲に収まってないとパステル調にならないわけじゃないですか。groovisionsの場合はかなり彩度に幅があるからね。
 かなり凸凹している。
伊藤 そこはだいぶ印象が違うと思っていて、かなり意図的に避けてるところがあるんだけど、時々うちらもいつのまにかパステルの闇に陥ってることもあって。

干支カード。groovisionsの年賀状として使っていたバージョン。


 年賀状、動物シリーズとかですかね。あの干支シリーズも、ああだこうだやっているうちにパステル調になってしまう時があって。けっこうギリギリ、紙一重なんですよね。使う色が多くなると調整しようとして彩度の範囲を狭くして納めようとしてしまう。チャッピーをたくさん並べるみたいなときも、たまにそういう時があって。途中ちょっと強い赤とかモノクロとか異物を入れる必要がありますね。たくさんの色をどう使うか、みたいなところは、割とチャッピーでトレーニングになります。
伊藤 デザインって、いかに色数を制限してコントロールするかってところがベーシックだと思うんだけど、チャッピーって比較的現実に近いというか、リアルというか、凸凹がないと逆に成立しないところがあって、そのコントロールがけっこう難しいところですね。

チャッピー

 たとえば、ダミアン・ハーストのドットの配置あるじゃないですか。あれもけっこうよくわかる感覚があって。色彩的に違和感があるのも加わっているじゃないですか。
伊藤 そうですね、あと、ダミアンのドット、昔のドットの色調と今の結構違うからね、今は明るくはっきりした色の感じになっているけれど、昔はもっと混濁していたしね。
 時代によって変えてきてますね。
伊藤 すごく変えてる。画材とかそういうものも含めてかなり違うような気がします。そういうふうに考えてみると結構観察してるだけで、色って、かなり学習が容易なジャンルのような気がするんだよね、あらゆる造形要素のなかでも。
 日々洋服選んだりするから、全ての人が無意識にやっていることでもありますよね。
伊藤 そうそう。結局いいと思える色の組み合わせを何処かから見つけてきたらいいんだから、そういうストックがあるだけである程度はできてしまうと思っています。
 ちょっと変な言い方すると、いいと思う色と、これが好きみたいな好みを分けて考えてみるといいのかも。私これ好きだから、で失敗している人とかいるんじゃないですかね。
伊藤 そうね。
 それに固まっちゃうとか。
伊藤 だから一番パーソナルなようでいて、客観的に距離を置いて良いジャンルのような気がしますけれどもね。
 今日の要点は・・・やっぱり、色にこだわりがない、ですかね(笑)

最近の使用頻度が高い色でカラーパレットをつくってみました。