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マイナンバー制度をバージョンアップせよ!

10万円の一律給付の現状

国民に対しての現金10万円一律給付の受付が開始されてからしばらくたった。ネット上では入金が済んだという人もいる一方で、手続きの開始が自治体によって若干異なるなど、スムーズな給付が行われているとはいいがたい状況だ。とはいえ、当初政府は所得制限を行ったうえでの給付を行う予定だったことを考えれば、一律にしたことによってこれでもスムーズになったほうなのかもしれない。
今回のコロナ関連の給付のみならず、国や自治体からの支援制度は少なからずあるものどれも手続きが面倒であることが少なくない。手続きが面倒な理由は明らかで、紙ベースの申請が基本となっているからである。もちろん国民にとって負担が大きいばかりでなく、処理する行政側にとってもこれは大きな負担となっている。
今回はこれを機会に国と個人が情報やお金のやり取りをもっとスムーズに行うために何が障害となっており、どうすればこれを克服できるのかについて私なりの意見を述べてみたい。

その前にこんなニュースが入ってきている。国のマスク支給にせよ、現金給付にせよそれを実行するための委託先の選定プロセスが不透明だったり、委託先が怪しげな組織だったりするようでは我が国は先進国とは言えない。こうした手続きが公明正大でないわが国は、隣の独裁国家と何ら変わりがないと指摘されても反論できない。残念なことである。

マイナンバーカードに口座を紐づけするべき

もう一つ先にニュースを紹介しておこうと思う。今回の現金給付がスムーズにいかなかった反省を踏まえて、マイナンバーカードに預貯金の口座を紐づけすることを義務化することについての是非が論じられているようである。ニュースによると個人情報との兼ね合いであまり評判が良くないようである。

新型コロナ対策について政府の取り組みは不十分であると私は認識しているものの、全てがだめだというわけではない。大切なことは第一に国民にこの危機を乗り越えるための基本方針を理解してもらい、そのうえで戦術を逐次投入しながら現状に合わせて調整していくことである。そして第二に成功も失敗も次に活かすために制度の不備を見直していくことではないだろうか。後者について早急に見直しが必要なのはマイナンバー制度であろう。
マイナンバー制度はマイナンバーと預貯金の口座が紐づいていてはじめて本領を発揮することができる。これは間違いではないと私は考える。高齢者、子ども、障害者、失業者など国や自治体からの支援を受ける場合には少なからず手当や助成という形で金銭的補助を受けることになる。そしてそれは現金で受け取ることができないので基本的には口座振り込みという形で手元に届く。けっきょくのところ確実に本人に金銭的支援を届けることができる受け皿を国民が持っていることはメリットの方が確実に大きい。
しかしながら、これにたいしてアレルギー反応を起こす人は少なくない。

なぜ口座の紐づけにアレルギー反応が出るのか

その理由は、国に個人の資産状況を把握されたくないからという意見が少なからずあるという。少なくとも私は大きな金融資産を持っているわけではないので、国の監視対象にはならないと思われるが、国に資産を見られたくないというほどの資産家はそれほど多くはないのではなかろうか。であるにもかかわらず、こうしたアレルギー反応が出るのは個人情報保護についてプライバシーの尊重を理由にその活用についてのハードルが高すぎるのが一因だと思われる。監視カメラのを例にすると、防犯の機能強化と個人のプライバシーにはトレードオフの関係が少なからずある。監視カメラは市民の行動をチェックする代わりに、検挙率の向上や犯罪抑止、テロ防止などに役に立つ。自分がやましくなければカメラのある所で行動した方が安全とさえいえる。マイナンバーカードの口座紐づけて利便性を高めることと、個人資産の一部を透明化することはトレードオフの関係だと思う。しかしあくまでも一部なのだ。公権力の監視カメラが自宅の中にまで設置されることがないのと同じように個人資産についてもいつでも全て国がチェックできるようにするほどのものではない。
結局のところアレルギー反応が出るのは、政治や行政に対する信頼感の問題なのではないかと推察する。後ほど紹介するエストニアやインドにおいてマイナンバー制度に相当するシステムが国民全体に浸透しているのは、国家が信頼されているというよりはエストニアの場合はソ連時代の官僚不信を、インドでは役人などの不正により国の支援が国民に届かないという問題を克服するために、人間が運用するシステムよりもデジタルのほうが信頼に足るという考え方によるところも大きいらしい。
その点で、我が国においてもセキュリティーが十分機能すればむしろ安心して個人情報をゆだねることができると私が考えるのは楽観的過ぎるのだろうか。

現状のセキュリティーでは課題も多い

インドのマイナンバーカードには個人認証として生体認証が用いられている。 インドの国民識別番号制度はアドハー( Aadhaar)と呼ばれており、インドの人口の99%が顔写真と指紋さらに虹彩が認証に用いられ、これまで銀行口座を持たなかった貧困層に対しては専用の銀行口座を提供しているという。その数3億口座ということで、日本の人口の三倍近い数になる。通信インフラの未発達などインドには課題も多いもののこうしたシステムを10年ほどで構築できたことと、インド系のIT人材が世界中で活躍していることとは関連が深いだろう。
一方で日本のマイナンバーカードは時代遅れともいえる暗証番号方式によって認証を行っている。しかもこの暗証番号を忘れてしまったために、カードを使うことができない人が今回少なからずいたことを思うと、未熟なシステムと言わざるを得ない。本人以外は持ちえない指紋や虹彩、静脈などによる認証が可能となり、さらにはブロックチェーンなどの技術の導入をもってしなければ日本人が安心して利用できる状態にはならないと考えられる。
個人情報をゆだねる対象への不信、セキュリティーへの不信など超えるべき課題は多い。

郵政民営化の弊害がここにも

郵便局が国民の生活基盤を支えるためのユニバーサルかつミニマムなサービスを提供することを国が維持していれば、マイナンバーカードへの口座の紐づけについてもゆうちょを活用することができたのではないかと考えられる。紐づけの口座についてはゆうちょ以外も可能とすることで選択肢をのこしつつも、誰もが加盟している金融システムを国が持つことはむしろ先進的だ。現在の金利状況であれば当座預金のように利息が付かない代わりに様々な手数料も安い口座を全国民が所有し、様々な金融サービスを受けることができるようにしておくことはむしろ今こそ必要だったのではないだろうか。
仮にこのシステムが動いていれば、今頃国民のすべてに10万円はとどいているはずだ。国民健康保険や国民年金についても同様のシステムに乗せて運用することができ、消えた年金問題も消えたのではないかと予想できる。
郵政民営化をはじめとした小泉改革は国民から大いに歓迎されて、選挙においても自民党に圧勝をもたらした。あの時に進められた郵政の民営化や雇用の流動化などの目玉政策は、その後の日本にとって雇用や地域、世代の間になど様々な格差をもたらしたといえる。そしてその傷跡は新型コロナ対策を迅速に行うことができないという制度的欠陥をもたらすことにまでなった。

もう一度言う、マイナンバー制度と預貯金口座の連動は必須だ

繰り返しになるが、ビッグデータの活用による様々なサービスの利便性向上と個人情報保護はある程度トレードオフの関係がある。またセキュリティシステムの教科とそれを破ろうとするハッカーの戦いは終わることがない。しかし、それでも私たちはもはや一定の個人情報を政府や民間企業に提供し、便利なサービスを享受するという社会から逃れることは出来ない。もしも我が国が個人情報保護を過度に保護しこうしたシステムの導入を遅れさせてしまうことは、第一に国際的にみて低レベルなサービスしか受けることができないこと、第二にいつまでも高い行政コストを強いられるという点で国民にメリットはない。
こうしたことを踏まえて、システム強化と口座紐づけの義務化(というよりそれを前提としたシステム構築)を進めていただきたいと思う。それこそが、ポスト新型コロナにおけるレガシーの一つとなりうるとさえ私は考えている。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
デジタルガバメントについて詳しく知りたい方はこの本がお勧めです。


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