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学校がお休みの間に読む本の紹介vol.6

~子どもに読書をしてほしいならまず親が読もう~
今日紹介する本は『潮騒』三島由紀夫 
三島文学の中でも特異な“青春賛歌”を味わおう!

高校入試前最後の授業ののちに塾生を送り出し、一仕事終えたような気持で書店へ。新潮社文庫の背表紙の中で僕が一番好きな色である朱色の「三島由紀夫」の棚に足が止まる。これから広い世界で様々な葛藤と向き合いながら成長していく能登島の子どもたちを送り出したこの日にまた潮騒を読んでみたくなった。
レジに向かう途中で、「ああそういえば自分も三島由紀夫が自決した歳になったんだな」とか、「昨今のような政治の停滞が起きることをとうの昔に予言していた三島が存命ならこのコロナ騒ぎをどんなふうに論じるだろうか」などといろいろなことが頭に浮かんだ。

さて、潮騒は冒頭にも書いたように青春賛歌であり純粋なラブストーリーである。書かれたのは昭和30年ごろであるから僕が生まれる20年ほど前であるが、舞台となっている歌島の情景はまさに能登島のそれに通じるものがあり、能登島大橋もなく今とは比較にならないほど素朴だった自分の幼少の頃の情景に重なるものがある。

物語の中に出てくる台詞で僕が好きなものが二つある。一つ目は主人公である新治の台詞で少し長いが紹介したい。
「おれはいつか、働いて貯めた金で機帆船買うて、弟と二人で、紀州の木材や九州の石炭を輸入しようと思うとるがな。そいでお母さんに楽をさせてやり、年を取ったら俺も島に帰って、楽をするんや。どこを航海しても島のことを忘れず、島の景色が日本で一番美(え)えように、またぁ、島の暮らしはどこよりも平和で、どこよりも仕合せになることに力を協(あわ)せるつもりでいるんや。(以下略)」
もう一つは照吉が新治を婿として認めるときの台詞。
「男は気力や。気力があればええのや。この歌島の男はそれでなかいかん。家柄や財産は二の次や。そうやないか、奥さん。新治は気力をもっとるのや」
青春賛歌ともラブストーリーとも関係ないといえばないのだが、能登島に生まれ育った僕は何度もこのセリフにしびれた。

潮騒がずっと聞こえているような文章を通じて描かれる、純粋な恋、美しい情景、たくましい青年と可憐な少女の精神と肉体。いつのまにか自分の心もまた潮騒に揺られていることに気づくはず。そして、情報の過多や新規性を競い、なんでも理屈でとらえようとする日常から解放されるんじゃないだろうか。

三島文学の中では本当に読みやすいこの物語を、この機会に親子で味わってみてはどうだろう。
大人は懐かしさと青春の甘酸っぱさを思い出し、子どもたちは青春とは何か恋とは何かを想起させられ、そして親子で感想などを語り合うことができれば素晴らしい思い出となるはずだ。

子どもに本を読んでほしいなら、まず親が読む。
絵本を読んであげて以来、そんなことをしていないなら少し背伸びして親子で「潮騒」を手に取ってみてはいかがでしょうか。

ではまた明日~

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