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ケン・フォレットの大聖堂を読め

 日本最強の作家を紹介したので、世界最強の作家も紹介したい。
 ケン・フォレットだ。

 ケン・フォレット先生はイギリスの小説家だ。スパイもの・冒険小説で名を馳せ、その後歴史大河もの路線に舵を切った。できれば百年三部作を読んで欲しいが、さすがに尋常では無く重い。最初に読むなら、初期の読みやすいスパイもの『針の目』が推されることが多いが、ここはあえて『大聖堂』を読んでもらいたい。

 大聖堂は最高の群像劇だ。舞台は中世暗黒時代。架空の街キングズブリッジ。大聖堂の建築計画を中心にして、さまざまな階級の人間が活躍する。

 「こんなの無理だよ!崩れるでしょ!!!」と言われながら、最新技術で美しい聖堂を作ろうとする職人。権力闘争の中で必死に理想を守ろうとする聖職者。家族や今の生活を愛するからこそリスクを取れない旧来の技術者や、とにかく面子にこだわるギラついた地元領主。などなど。

 身分が違うとほんとうに見えている世界が全然違っていて、一つの場所を起点に世界が重層的に描かれている。
 この後、ケン・フォレットはより壮大に世界情勢を扱った百年三部作を書く。だがやはり、一つの街の中で交錯する大聖堂には特有の美しさがある。全てがここにある、と感じられる瞬間がある。

 中世。「同じ人間じゃないか」とは言い難いまでの分断。違う世界。その中で、誰もが直感的に同じ気持ちを抱ける『大聖堂』の荘厳さ。
 現代から見るのとは違うゴシック建築のイメージ。ありえない完全性。まるで異界のような作りを現実のものとすることの価値が恐ろしいまでに伝わってくる。

 職人、聖職者、貴族、それぞれの生きる世界が聖なる尖塔の先に集約される。同じものを見て感動できる。その事実に救われる。

 だからお前も、ケン・フォレットの大聖堂を読め。


 ※『大聖堂』の他に、『大聖堂-果てしない世界』『大聖堂 夜と朝と』『火の柱』などの続編があるが、まずは『大聖堂』を読め。『大聖堂』は単体で完結した話で、他のキングズブリッジシリーズとの繋がりは緩い。例えるならドラクエシリーズの各タイトルくらいに緩い関係だ。


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