「歌ってみた」のミックス依頼のあれこれを解説
■はじめに
初めまして。ニコとかつべとかでなんか色々音楽の事やってるgrief artと申します。たまに辛辣な事言わないと死ぬ病気です。
しょーもない事書いてるのに長いです。
時間を盗まれたい人だけ読んで下さい。
niconicoで育った文化「歌ってみた」は、今やYouTubeでも人気のカテゴリです。
全体の視聴者人数に対して活動者の数が尋常ではなく、ある程度のクオリティまで仕上げられるのであれば「横の繋がりと運が全てだ」なんて揶揄する声も上がるカテゴリです。馬鹿にしてないです。たたかないで。
そんな「歌ってみた」というカテゴリですが、歌い手以外にもこの界隈に属する様々な活動者がいます。
・ボーカルミックスをやる人
・PVを作る人
・カラオケ音源のアレンジを自作する人
・エンコードする人
・マスタリングする人
大きく分けると上記5つですかね。
私の記事では主に「ボーカルミックスをやる人」に関わる話をしていく予定です。たまに「マスタリングする人」の話もするかもしれません。
■ボーカルミックスについて
ボーカルミックスとは、カラオケ音源にボーカル音源を乗せる作業です。
ボーカルの音量差を整えたり、ピッチやテンポがズレているところを直してあげたり、エコーを付けてそれっぽくしてあげたり、まあ、そういうやつです。この記事読んでる人でわからない人いないと思うんで省きます。
「歌ってみた」カテゴリの中で特に作品クオリティに影響を与えるとされるボーカルミックスは、歌い手本人が自分でやる場合もありますが、プロアマ問わずそれを生業としている人に依頼する事が結構多いです。
歌ってみたのボーカルミックスを生業とする彼らをいわゆる「ミックス師」と呼びますが、僕はこの呼称が嫌いなので僕の記事では「ボーカルミキシングエンジニア」「ボーカルエディター」「ボーカルミックスをやる人」等と記述しますのでご容赦下さい。
ボーカルミックスの依頼は以下から ※9月限定半額祭り中
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ボーカルミックスの解説とかボカロオリジナル曲出してるチャンネル
■ボーカルミックスを依頼する
さて、私を含む彼らのようにボーカルミックスをする人は、大体の場合依頼に於いての「お願い」のような文章をクラウドソーシングサイトや個人のサイト、ブロマガ等に記載しています。
その中でよくある内容をピックアップしましょう。
・頭出しをして下さい
・音声はモノラルにして下さい
・データ形式は44.1kHz/16bit、未圧縮WAVにして下さい
・音割れしたデータはだめです
・リードボーカルは出来る限り1つのデータにまとめて下さい
・音が被る場合は別のデータにして下さい
・スマホで録音したデータは受け付けません
・ピッチ補正は します/しません/別料金です
このような内容を大体の人が準備しています。
オケとボーカルを別にするという当然の内容は省きます。
それでは、1つずつ見ていきましょう。
■頭出し
その名の通りデータの頭を合わせてズレがないようにする作業です。
では何故この「頭出し」が必要なのでしょうか。
とりあえずリードボーカルのデータは一本という事にしておきましょう。
頭出しをしていないデータでミックスして貰おうとした時の弊害を以下に記載します。
・本来の「頭の部分」を知っているのは録音した本人のみの為、ミックスする人が再度頭を合わせる時、録音時との誤差が生まれる。
・上記に加え、リズム感のないデータの場合どこで合わせてもズレてひどい事になり、クオリティに影響が出る。
とはいえまあ、リズム感のないデータであればクオリティは早い段階で頭打ちにはなるのだけれども。
頭出しのやり方はなんかもういっぱい転がってるのでここでは解説しません。というか文章で解説するのクソ難しいので調べて下さい。
とはいえまあ、ボーカルミックスをやる人のほとんどが「頭出しをこっちでやるのがめんどくせえ」と思ってるのがメインでしょうけどね。
やらなくていいわけじゃないけど絶対やれって程でもない。ただし完成品がズレたら責任とらねえよってくらいの話です。
録音に使ったソフトウェアの使い方や仕様がわかるから調べてやってみるのがよい。
あと楽曲のBPMも教えてあげると超親切。BPM出せる人なら頭出し余裕だろうけど。
■音声をモノラルに
これ、一番よく言われるんですけど、僕個人としては「ぶっちゃけどっちでもいい」です。Cubase使ってるからだろうけどね。
んでも一応デメリットを記載しておきます。
・データ量が2倍になる
・波形が見にくい
モノラルは波形が1つしかないデータ、ステレオは右から出る音と左から出る音の2つの波形があるデータです。だからデータ量が2倍です。僕は基本的に納品終わったら作業用のデータ消しちゃうのであんま関係ないですけどね。
大体のマイクはインプットが1つなので左右から全く同じ音が出ます。要は真ん中から音が出ます。なのでモノラルと出る音は同じです。
こういうデータを所謂「モノステレオ」と呼びます。
ステレオのデータだから再提出しろとかキレ散らかしてる人を稀に見ますけど、ステレオとモノラルの違いを理解していればそんな事は言わんのです。歌い手を見下すなよ。恥を知れ。
ちなみに、ボーカルの録音において、例外除きステレオにする意味は一切ないです。ステレオになってる人はだいたいモノ出力わからんだけの人なのです。そんな事でキレるな。
というか違いわからんだけの人もいるかもしれないですけど。
■データ形式
これもよく言われる奴です。だいたい44.1kHz/16bitです。たまに48kHz/24bitとか、それを超えるハイレゾを希望する人もいますけどね。
Hzがサンプリングレート、bitがビットレートです。
○サンプリングレートってなーに?
1秒間に標本化処理を行う回数です。44.1kHzの場合44100回/秒行われます。
波形を拡大すればわかりますが、なめらかな曲線ではなく点と点を繋ぐ直線になっていると思います。これが多ければ多いほど波形はなめらかになります。三角形、四角形と頂点が増える程円に近づくのと同じと思って下さい。頂点が多いほど情報量も多いからデータ量増えますよね。そういう事です。
○ビットレートってなーに?
サンプリングレートは時間に対しての数値ですが、ビットレートは「音量」の分割量に対しての数値です。
ちなみに16bitは2の16乗なので音量を65536段階に分割できます。
サンプリングレートは時間(横)ビットレートは音量差(縦)と覚えるといいです。覚えなくても弊害はないです
ちなみにオーディオCDの規格は44.1kHz/16bitです。オーディオ業界では大体これが標準です。
映像業界では48kHz/24bitが主流らしいんだけどこれなんで違うんだろう。めんどくせえから統一してくれ。
んまあとりあえずこの形式に関しては指示に従えば大丈夫です。
基本は配布されてるオケが圧縮されたmp3データかつ44.1kHz/16bitで作成されてるんだからそれと同じでいいと思う。
ちなみにこれの差異がある場合の弊害はとてもわかりやすくて、48kHzの音源を44.1kHzで設定しているプロジェクトで読み込んだ時は音がなんだか遅れて聞こえてくる。
それもそのはずで、もとのデータは1秒あたりの標本数が48000個なのに、プロジェクトの方は1秒あたりの標本数を44100個で読み込もうとしてるんだから。本来1秒のはずのデータから3900個の標本が飛び出る。まあ余談。
なんかめっちゃ長くなりそうだからWAVの話は省略。
WAVは未圧縮のデータです。ちなみにMP3は圧縮されたデータ。
MP3の音声だと再提出しろって言う人いますけど、そういう人にMP3をWAVに変換したもの渡すと普通に受け取るんだよね。なんでだろうねー。不思議だなぁ。
■音割れ
割愛するけど音が割れてたらアウト。
ミキシングの作業は魔法ではないので、割れている音を割れていない状態にする事はできません。
一度削った鉛筆をもとの状態に戻せないのと同じです。
新品の鉛筆が必要なのに削った鉛筆渡されてもどうしようもないです。
あとエフェクターの適用もだめ。
鉛筆削ったり塗装したりしちゃだめ。まっさらな状態で下さい。
削ったものは戻せないし塗装剥がしてももとの新品の状態にはなりません。
どうしても音割れる人はマイクとかインプットの音量下げて、どうぞ。それでも割れる場合は声量でかすぎるから少しマイクから口離して下さい。マイク本体がその声量を受け止められてないです。華奢な女の子がデブのおっさんを持ち上げられないのと同じです。
音割れ以外のレコーディングの話は有料でやります。ワンコインね。
調べれば全部無料で出てくるやつね。買う人いるのかねぇ。
■リードボーカルを出来る限り1つのデータにまとめる事について
いやまあこれいいんだけどさ、僕はこの「出来る限り1つにまとめなければならない」という風潮が心底嫌いです。
本当にこのリードボーカル一本信者の文化なくなんねぇかなぁと思ってます。
というか本当になんでこのリードボーカル一本ねとかいうの流行ってるの?
解説ってタイトルのノートなんだけどこの内容だけ解説出来る事がないんですけど。
宅録技術ない人だと、一本のデータにしようとして部分リテイクがうまくいかず、変な継ぎ接ぎのデータになる場合も少なくありません。
できねえって言ってんのに無理にやらせて挙げ句、「データが継ぎ接ぎだからいいものにはならない」とか愚痴を言うの、端的に言って馬鹿では?
出来る人はいいけど、強制する事じゃないと思います。
確実なのは、Aメロ、Bメロ、サビって感じでセクション毎に録ったものを3つずつ準備する事。こうすればうまく継ぎ接ぎ感を出さずにこっちで編集できます。
どうしても一本に出来ない場合は
「納得行かなかった箇所を何パターンか録ったので、そちらで編集をお願いしたいです」
とか言えば、いいですよーってだいたいの人が了承します。そんな時間かかる作業じゃないし。それをダメとか言う人は正直信用出来ない。
あ、でもフルコーラスが3本くらいあったら僕は流石に追加料金必要になるって言います。
ちなみにですが、再録データの後出しは絶対やめてくださいね。全部やり直しになるんで。倍額とられますよ。
■声が被る場合
端的に言うと、声が重なっているデータは基本的に上手く編集する事が不可能なので分けて下さい。音声が被ったら分ける。簡単な事なので割愛。
■スマホで録音について
僕はトラブルを避ける為に出来る限りスマホによる録音データでのボーカルミックスはお断りしてます。ちゃんと録り方わかってる人ならいいんですけど、そうでない人が結構厄介だと感じてしまうので。
頭出し出来ないまでは容認するとしても、スマホだとちゃんとした環境よりも以下の状態がかなり高確率で有り得ます。
・ノイズがひどい
・音が割れてる
・スマホのマイクと口が近すぎて変な録り音になっている
・逆に遠すぎて部屋鳴りがめっちゃ聞こえる、アタック出てない
スマホ録音を否定するわけではないです。音質は良くないですけどね。
ただ、こういった事になった場合「一緒に」「無償で」原因を探り、録り方の工夫の仕方をいろいろと提案するのは正直オーバーワークなんですよね。
ノイズがひどいから、音が割れているからという理由で音声の再提出を求める場合、一生データが届かなくなるなんてザラなんですよ。
そうなった場合ここまでのやり取りの時間が全て無駄になる。
だから僕はトラブルを避ける為にスマホで録音したデータは基本的にお断りしています。
いやまあ、僕は音割れてようがノイズ酷かろうが再提出してなんて言いませんけどね。本人が納得したデータを渡されたはずなんで。それでクオリティがガタ落ちしても自己責任です。
■ピッチ補正に関して
そもそもの話なんですけど、ピッチ補正って「外れた音を正しい音にする作業」ではないですよ。それをピッチ補正と思って使ってる人は今すぐ「ピッチ修正」という言い方に変えて下さい。
補正とは「補う」事です。
ズレた音を直すのではなく、ボーカルのゆらぎや音の入り、ロングトーンのブレを「補ってあげる」のが補正です。
ピッチ補正ピッチ補正って鳴き声のように言ってる人程「ピッチ修正」が必要な人多いですよ。僕のクライアントには今まで一人もそういう人いなかったんですけどね。
それからピッチ直したからって歌が上手くなるってのは大嘘だし(聴きやすくはなるけど)、ミックスが全てとか言ってる馬鹿は正直張り倒したくなる。録り音の重要さを理解してからものを言え。
生歌じゃないと歌の上手さがわからんってのも僕は正直納得いかんとです。わからん人はもっといろんな人の歌を聴くべきなのです。
■最後に/ここまで書いてて思ったこと
なんか結構愚痴が混ざってしまって申し訳有りません。
ボーカルミックスやる人の依頼ページの傾向を見てると、ボーカリストに対して作業の必要な要求が多ければ多いほど、なんか変なステレオタイプで誰のデータでも同じような処理しかしないテンプレートなミックス作業しかやらなさそうだなとかいう偏見持ってます。
僕自身も完璧な自信あるわけじゃないですが、ボーカリストに対して下手だのボーカルピッチが酷いだのリズム感がなさすぎるだのって悪愚痴ってるような人よりはマシだと思ってます。
自分が出来るからってマウントとるのとりあえずやめような。
解散。
grief art