エリートいとこ
私の父方の一番歳の離れた従兄弟の話をしてみましょう。
彼は私より10歳くらい歳上で、従兄弟の中でも特に出来が良く、いかにもエリートといった雰囲気がありました。反対に従兄弟の中でも特に出来の悪い私は、幼少の頃から親戚の集まりなどで顔を合わせるたびに彼によく叱られたものです。そんなこともあってか私は昔から彼を苦手としていたのでございます。
彼の家は私の実家から比較的近くにありましたが、私が小学生で中津川に引っ越して来た頃、彼はすでに東京の大学に進学して中津川を離れておりました。
中学か高校の頃、彼の家から要らなくなった古いステレオを譲り受けました。コンポもスピーカーも立派な木の箱に覆われており大きな家具のようで、いかにも年代ものといった雰囲気がありました。私の狭い部屋へ持ち込みますと、一気に部屋が狭くなった覚えがございます。ついでに古いレコードも要らなくなったとかで何枚か頂きました。おそらく東京へ進学した際に彼が残していったレコードに違いありません。
古いフォークのLPが何枚かありまして、五つの赤い風船のフォークアルバム第一集、赤い鳥のスタジオライブ、吉田拓郎の元気です等がございました。このような昔のフォークソングをレコードでまともに聴いたのはこれが初めてでしたが、どれもとても瑞々しくてすごく気に入りました。
その他に、金田正一や長嶋茂雄、三島由紀夫などのドキュメントといいますか実況録音盤レコードといったものがございまして、これがまた実に興味深いものでした。特に三島由紀夫は自衛隊市ヶ谷駐屯地のバルコニーでの演説が収録されておりまして、何を言ってるのかよく聞き取れない部分も多かったのですが、聴いていると当時の世相といいますか時代の雰囲気が伝わってきまして、非常に興奮した覚えがございます。そういえば従兄弟も昔は東京の大学で学生運動に参加していたそうで、いつだったかどこかのアジトに立てこもった体験を私に語ってくれたことを思い出しました。
このステレオはその後2、3年で音が途切れ途切れになり、最終的にアンプから煙が出るというまるでマンガのような壊れ方をして処分させていただきました。レコードは自分の持っていた物も含めて実家のどこかに埋もれている筈です。
先日も久しぶりに法事で会った彼は、すやと川上屋という中津川を代表する両老舗和菓子店の御曹司2人とクラスメイトだったことを豪語しておりました。そして相変わらず私はこのエリート従兄弟の前では何となく自然と直立不動になり、身構えてしまうような気持ちになるのでございます。
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