猫を看取った
猫が体調を崩してから3か月ほど。
積極的な治療の成果もあり、一時は、もりもりとご飯を食べるようになり、膝に乗り喉を鳴らし、頭をなでろとねだるまでになっていったが、また徐々に血液の数値は悪化していき、徐々に食欲を落としていった。
そして2023年2月22日早朝に、静かに息を引き取った。
水も飲みこめなくなった朝。
ごく少量の点滴を行い、対症療法の薬を少し混ぜたのみにした。
無理に薬を飲ませれば、猫の心臓はまだ動いていたかもしれない。
もしかしたら生きてくれていたかもしれない。
何もしなければなかった3か月。できるだけ普段通りにした。
人間は、普段通り仕事をし、スノーボードにも行ったし、ライブにも行った。猫は普段通り、飯を食べて水を飲み、お気に入りの場所で寝て、人間になでられた。それまで過ごしてきた日々を少しだけ延長しただけの日々だった。
正直、治療開始のころは、QOLはあまり高いと言えなかった。治療の副作用で、猫はひどい下痢をしていて、動物病院の移動すらもままならなかった。人間も色々と工夫をしたが、ほとんどは成果をあげなかった。
だが、獣医師の綿密な治療計画のおかげで、ここ1年以上で一番体調が良いのではないかというくらい猫は元気になった。長く悩まされた下痢もすっかり治ってしまった。獣医師の尽力には感謝しかない。
そして猫と人間は、とても良いかけがえのない時間を過ごすことができた。
大嫌いだった病院も、とても優しくしてくれる先生や看護師さんのおかげで自ら進んでケージに入り1週間に一度の病院へ行くようになった。危ういバランスを取りながら普通の日常を取り戻した。
幸せだった。少なくとも人間はそう思っている。
猫はどうだったろうか。
猫が息を引き取った後、思い出の写真や治療中の様子の写真や映像を見て、彼の猫生を思い返してみる。
かわいらしい子猫の写真。
若く美しい猫の写真。
ちょっと太ったときの愛くるしい写真。
入院してひどく痩せてしまった写真。
たくさんの写真はたくさんの思い出を呼び起こして、全部涙と鼻水になった。
そして最近撮った写真に目が留まった。
猫は、カメラを向けるとすぐ顔をそむける。いい写真をなかなか撮らせてくれなかった。しかし、その写真だけはしっかりとカメラ目線だった。
元気を取り戻した猫がいつも通り膝に乗って来た時に撮ったものだ。思えば一緒に写真を撮ることは少なかった気がする。若く美しかった猫は、すっかり年をとり、痩せて毛並みも悪かった。
しかし、まっすぐこちらを見る姿は、とてもたくましく、強かった。
しおしおと泣く自分が急に恥ずかしくなってきた。
しっかりしろよ。と言われている気がしてしまった。
最期の日まで、水を飲もうとし、飯の前に立ち、ふらつく足でお気に入りのベッドに向かう。最期の一息まで懸命に生きようとする猫はとても美しく強かった。
大量の鼻水と涙を拭いて、とりあえず飯を食う事にした。どんどん箸がすすむような、上等な飯がいい。
猫がそうしていたように、腹いっぱい食べて仕事をして、そして遊びに行こう。
ありがとう
愛してるよ
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