見出し画像

男とロマン

何で男には金が必要なのか知ってるかい
ふふふ
お前らみたな若造にはまだ分かっちゃいないだろう。
ふふふ
男にはロマンがあるからだだから金が必要なんだ
ロマンって何だと思う
結局世界一番
いい女やわるい女やいい人間わるい人間ども
また動物達からも愛されたいんだよ
あいつスゲーあいつ最高あいつ格好いいって
でもって最愛の女からも同じくそう思われたいんだよな
男ってほんとロマンチストなんだ
父ちゃんは少し悲しそうにそう言って大好きな命の水を
いつもどうり舐めるように一口のんだ
でもやっぱり僕にとって父ちゃんはかっこよかった
もう母ちゃんはここにはいないけど
僕にとって父ちゃんはすんげーすんげーかっこよかった

ありがとな坊主!

父ちゃんはそう言うとゆっくり立ち上がり丁寧に身支度をして
あの女のところへ出かけていった
残念ながら母ちゃんのところではない女のところだ
分かっていたけどぼくは
自分を強くみせたくて
また
男たるもの独りや二人や三人四人は当たり前
それがいい男ってもんだと言い聞かせていた
だってそれくらい父ちゃんは僕にとっても大事な父ちゃんだから




有る日父ちゃんは本当に高いところに行ってしまった
びっくりするぐらい高いところに行ってしまった
僕はちょっぴりさみしかったけど
小さく小さく手を振って
大きく大きくジャンプして
僕の存在が父ちゃんに気づいてもらえるように
そんな願いも込めて
ジャンプした
父ちゃん良かったね
やっとたどり着けたね
そうあそこが父ちゃんのロマンって場所だったんだな


木枯らしが吹き出し僕はトレンチコートの襟に
すっぽりと頭を隠すような恰好をし
並木通りをあるいた
見上げるとそこには舞い降りるそして舞い上がりながら
あちこちからくるくると銀杏葉が僕を歓迎していた
黄土色に埋め尽くされた隙間に秋らしい天候をのぞかせる
ずっと遠くの空の上
やはり父ちゃんの姿が現れた
僕はやっぱり父ちゃんの足下にも及ばないや
そう思い
ふたたび襟に頭ごとうずめようとしたその瞬間
愚茶ん あー
やってしまった
ころがり立ての実を踏みつけて
ああこのかをり
そのままゴロンと僕もころがり
僕はそのまま大の字をかいて
並木道理で埋もれた


最高だった
あの高いところには父ちゃん
そして埋もれていく僕
萬良く降り注ぐ銀杏爸のおかげで
開けっぴろげになったトレンチコート
ああ
ありがとう
ありがとう
雄々い隠してくれてありがとう
僕はこのとき、気がついた
おとこのロマンは
もちろん高いところに有るけれど
ころがってしまえば
こんな足下にもぶら下がって居られるんだ
僕は
心ゆくまで
この地に溶け込んでゆく
安堵感にいつまでも実を預けて
逝けるのでした

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?