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映画『夜明けのすべて』を見た批判的な感想

ご飯を食べに行きました〜!
(だからどうした)
映画を見に行きました〜!
(だからどうした)
久しぶりの診察で異常なしでした〜!
(だからどうした)

全部、そう。あんたが誰と何を食べようが、どこに行こうが、何の思想を持とうが、結局、こうなる。
(だから、どうした?)

自分自身にツッコミを入れ、余裕がない生活とも相まって、投稿の手が止まっている。いや、文章が思いつかない。

さて、そんな中、先日「夜明けのすべて」という映画を見に行った。一緒に行った人の希望だ。推しの松村北斗が出演していることと、原作を読んだことが大きな動機のようだ。

アニメや漫画を見たり、そして小説を読んだり、という文化的な趣味を持たない私がこれから述べるのは筋違いでしかないが、『セクシー田中さん』(私自身は原作もドラマも見たことはないくせにだが)の原作者が自らの命を絶ったあの事件の後に「原作モノ」を観るとなれば、やはりいろいろと考えさせられる。

一緒に行った人からの伝聞と自分の主観を元に偏った視点で述べる戯言と思って読んでいただきたい。

今まででもなんとなく「原作と違う」「原作とは別物と思った方がいい」など聞いたことはある。

この「夜明けのすべて」に関していうとまず主人公が勤める工場が違う。原作では金属工場だが、映画では科学(プラネタリウムなど)に関する工場。

PMSやパニック障害に関する詳しい症状は専門家を前に何も申し上げることはない。ただ、主人公藤沢さんがその時期に世間的な度を超して理不尽を必要以上に理不尽認定して怒り狂うところ、あれは自身にとっても恥ずかしいところを見られた気がしてつらかった。主治医に「またやっちゃった?」と聞かれるところを見て、正論を武器に何度も同じことを繰り返す自身の不甲斐なさを改めて思い知った。ちょうど職場で同じことをやらかした後だから尚更つらい。

一方、山添くんは発作を前にコッソリ頓服薬を探し、服用する。こちとらその筋のプロ(といえるほど自己研鑽していないが)だから、薬の名前を見れば事情はわかる。隠れて服用する感じがリアルだ。血圧やコレステロールの薬を飲むのとは様相が異なる。

世の中に少し引け目を感じながら、ほんの少し生きづらさを抱える人たちは、案外マイノリティではないのかもしれない。

ちなみに、主役の松村北斗はアイドルの域を越えてすでに立派な俳優だと思う。

ここで原作と映画の違いについて話を戻す。勤務先の工場が星にまつわる話と結びつけやすいプラネタリウムに関するものと設定すれば物語は広がる。星座や神話と結びつければロマンティックだ。

同行者によれば藤沢さんはもっとお節介だし、なんなら退職もせず介護のために故郷に戻ることはない。自死の経験を持つ人の集まりの設定もない。

原作者がそれでよしとするなら視聴者はそれはそれとして見ればよいが、そうした違いを知った上で映画を振り返って思うのは、まるでInstagramのように「盛る」ことを重視しているということだ。ありとあらゆる不幸をかき集めて、そして二人の男女の主人公を最後に引き離して、ふわっと余韻、というか物足りなさという「あと少しでハッピーエンド」感を残す。

映像は日常生活を温かく映し出し、落ち着いて見られる。しかし、「これ、何の時間ですか?」というかまいたちのネタのような、ただひたすら自転車に乗っているなど間延びするシーンがいくつかある。後のテレビ放映に合わせて120分に調節するためか、と浅はかな知恵を働かせる。

音に敏感な同行者はこの映画の音楽もまた温かそうで耳につくと言っていた。

要は、たくさんの人に感動して涙を流してもらうために様々な仕掛けが備わっている。視聴者も舐められたものだ。

0(ゼロ)を1にするのは大変な作業であり、創造であり、芸術であり、文化である。原作者が生み出す力は宝だ。

一方、一度生み出された1を2に、あるいは1+aに、いや10や100にするのは0から1にするよりも容易いはずだ。普段している仕事から想像する限りでは。

原作と異なる部分を探しに映画を見に行ったわけではない。原作を知らずに見たとしたらそれなりに雰囲気を気に入りそれなりに感動して帰っただろう。

しかし、先の『セクシー田中さん』のように原作者の尊い命が亡くなった今、そういう視点でこの映画を見ると、何か商業的な、大衆的な仕掛けに乗せられている感じがしなくもない。人を感動させるとは何か。映画とは、小説とは、漫画とは、アニメとは、音楽とは、お笑いとは…。一見、生活に必需ともいえない娯楽は何のために存在するのだろう。そんな根源的なことに思いが至った次第である。

この映画を見に行った偉い人の投稿では「いい映画でした」と高い評価がなされていた。おそらく私の感想は、世間的には不正解であろう。

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