レオの火消し

1

発火者による犯罪件数の増加、政府の対応は

スマホに映るニュース記事を男は無関心そうに眺めていた。
間接照明がオシャレに配置されたリビングは最小限の家具しかない。
男は静かに高級革のソファーに腰掛け持っているスマホに向かって呟く。
「犯罪ばっかり取り上げて、もっと明るいニュースはねーのかよ」
金髪を少しかき上げると、男は短い溜息をついて飽きたようにスマホをそのまま横に置いた。
リビングの窓からは曇りがかった夜空が見え、微かに電車の音がする。
殺風景なリビングには少しの観葉植物が置かれ、スマートな雰囲気だった。

突然、男のスマホに非通知の着信が入る。
男はスマホを手に取ると、慣れた動きで電話に出た。
「はい」
少しの間のあと、少し緊張した女性の小さな声が聞こえた。
「、、火の用心、、マッチ一本火事の元、、」
電話の声が聞こえると、男は目に少し力を入れた。
「場所は?」
「赤坂見附、、、」
「10分後に駅前で。」
男は一方的に電話を切ると、ソファーから立ち上がり、黒のロングコートを手に取り部屋から出た。

時刻は21:00過ぎ。
繁華街には仕事終わりのサラリーマン達が飲み屋を探し歩き回っていた。
男が赤坂見附駅前に到着すると、弱い風が通り過ぎた。
駅前で談笑するサラリーマンの団体の顔はほんのり赤く、威勢よく大声で何かのお祝いをしている。
その一行の裏にある商業ビルの前に、黒いビジネススーツ姿の細い女が緊張した様子で一点を見つめていた。
男はゆっくりと女に近づくと無関心な表情で声をかけた。
「こんばんは。今日は空気が乾いてますね。」
女は一瞬ハッとした後、緊張した面持ちのまま男に返事をした。
「えぇ、火事など無ければいいんですが、、」
女の返答を聞くと、男の顔は真剣になる。
「用件は?」
女はどこから話していいか分からなそうな顔をしながら、言葉を探すように話し始める。
「実は、、最近夫の様子がおかしくて、、以前は優しい穏やかな人だったんですが、最近は横暴になってしまって、、バーにも入り浸ってるようなんです、、」
男は呆れた様子で答える。
「おいおい、うちは家庭のトラブル解決家じゃねーぞ?うちが何屋か知って連絡してきたんだろうな?」
「もちろんです、、実は少し夫の事を観察してたのですが、、どうも手の形状が変わったような気がして、、」
女がそう言うと、男の顔が少し変わった。
「そうか、、今旦那はどこにいる?」
「今日は赤坂で飲むと言ってたのですが、、どこのお店までかは、、」
「分かった。じゃ、ここから先はうちに任せろ。前金で30万。」
女は提示された条件を聞くと、さらに緊張した様子で男に質問をした、
「あの、その、、もし”発火者”じゃなかったら、、」
「発火者じゃなくても返金は無しだ。嫌なら他をあたれ。」
男は目を座らせ、冷たく答えた。
「分かりました、、ではお願い致します、、」
女はそう答えると、バックから封筒を取り出し男に渡した。
「毎度。じゃあ1時間後にまたこの場所で。多分だけど旦那は発火者だと思うぞ。最近増えてきてるらしいしな。」
男は封筒をコートの内ポケットに入れながら、女に目を合わせず流れ作業の様に言った。
「分かりました、、では、よろしくお願い致します。」
「じゃあ後ろ向け。」
女は不審そうな顔をしつつ、言われた通りに後ろを向いた。
繁華街の喧騒はそのまま、ひゅうと風が音を立て女の背後を吹いた。
「あの、いつまで後ろを向いていれば?、、」
女は不安そうな顔で一度上半身と顔だけ正面に戻した。
男は消えていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?