一本の電話

先日、某卸屋さんの専務から久しぶりに着信があり何だろうと思いながら電話に出た。。

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僕が造園会社のスタッフとして働き始めて3年ほど経過した頃、その頃としてはとても力が入る大きな作庭の遠征を前日に控えていた。

ぼくは遠征準備にバタバタしていて、その日の午前中は植木の卸屋さんへ木々を受け取りに向かっていた。
松たちを無事に積み終え、急いで会社に戻って最終準備に取り掛からなければと思いトラックに乗り込む。その矢先、
卸屋さんの専務に出会しちょっと事務所へ来いとなんだかものすごく機嫌の悪い様子で招かれたことを昨日のように覚えている。席に着くや否や、そこからは関西庭業界の未来について激怒する専務のお話を聞くこことなった。

専務曰く、
「若いものが誰一人育っていない。このままでは関西の庭は終わる。」という内容でそのお怒りの話を聞いていると、いつの間にか僕の話になり「お前は業界に入って何年になる?、3年?」「今まで一体何をしてきたんだ?全くなっていない。」「もう未来を託す人間は現れない」と、閻魔さまに雷を落とされるとはこういうことではないかと思うくらい怒鳴り散らされた。
突然のお叱りに慌てふためきつつ、自分がこの業界に入ってからの行為を思い返した。。
僕は全力で取り組み吸収しようとし、休日もプライベートも何もかも庭師としての厚みを増すために過ごしてきた。その思いは揺るがないし、何をみてそう思われたのか分からない疑問と自分への自問自答を頭の中で繰り返していた。

1時間ほど経っただろうか、散々怒鳴り散らされそのまま帰ることとなった。永遠に続くのではないかと思った時間だった。

その後、会社へ帰るトラックの中でさっきまでの出来事を思い返した。
大人になってここまで叱られたのは初めてのことで、
僕は悔しくて悔しくて気がつけば号泣しながら運転していた。

そのまま気持ちを引きずって帰ってしまい、明日からの遠征に士気が高まるメンバーに迷惑をかけてしまったことを覚えている。

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 それから何年か月日が経過し僕は庭師として独立開業し走り出した。
一年目からありがたいことにたくさんの庭づくりのお声がけをいただいて、その一つ一つの庭としっかり向き合いながら作庭に邁進している。

そして独立から1年ほど経過しお客さんの庭でのお手入れが終わり家に帰ろうとしていたときに、あの卸屋さんの専務から着信が入った。
久しぶりの電話に何かなと考えながら電話に出た。

「おうワレいい庭つくったやんけ。あのーあれや茨木のあれや。あれは大したもんや。ん、ん、じゃあな。」ブツっ。。
ものすごく一方的で嵐のように去っていった電話にすぐ心の整理がつかなかったけれど、段々と言っていただいた言葉を理解し、それと同時に昔専務から「お前は何をやっているんだ」と怒鳴り散らされたことを思い出した。

これまで心のどこかに引っかかっていた言葉、そんなひっかかりがストンと取れた気分になり、庭師を続けてきて僕のスタンスを守り通してきて良かったと思う電話になった。

庭師として独立して2年目が始まっている。今年も一つ一つの庭と向き合い、依頼してくれた施主さんが喜んでくれるよう精進して参りたい。

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