この手は君のため

 昔から、人の頭を撫でてしまう癖があった。
 お姉ちゃん気質ということと、好きな小説で、頭を撫でられて幸せそうにしてる登場人物を見て、自分もそんな幸せを与えられる人間になれればなぁという憧れが、根っこにあった。
 今思えばとんでもないことしてたなと思うが、撫でさせてもらって嬉しそうな子がいたのも確かで、その笑顔が見たくてやめられずにいた(調子のって本当にすみませんでした)。

 今では専ら息子の頭を撫でている。
 産まれて胸に乗せてもらって「お疲れ様。本当によくがんばったね。ありがとう」と声をかけながら、羊水でびしょびしょの頭を撫でたのが一番最初だ。
 その後は、寝ていたり、眠そうにしてる時、ギャーギャー泣いてる時、初めてのことができた時、なんとなく触りたくなった時と、振り返ると、手が空けば頭を触っているような気がする。

 その度に、息子の頭に対する自分の手の絶妙フィット感を覚える。
 息子のおでこや後頭部のカーブに、私の手のひらの窪みがぴったりハマり、頭から指先が離れるまで、滑らかに撫でることができる。
 「しっくり」という言葉があるが、今まで生きてきた中で、一番「しっくり」を感じるくらいのマッチングである。
 「私の手はこの子を撫でるためにこんな形をしていて、この子の頭は私から撫でられるためにこんな形にできたのではないか」と、だいぶ自惚れた特別感を感じてしまうものだから、ほっこり熱を持った頭頂部に手のひらで触れる度に、頬を緩まずにはいられない。

 だが、母がこれだけ感慨深く感じる一方で、息子は頭を撫でられても特に反応がない。ギャン泣きしてる時なんかは、手を払い除けられる始末だ。
 本当にあくまで自己満足だなぁと、ふわふわの髪の毛が手をくすぐる感覚を楽しむ。
 まぁでも、本気で迷惑そうに拒絶されるまでは、普段からお世話してることの特権として、息子の頭をじっくり堪能しようと思う。

  

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