見出し画像

公益通報から一年後

公益通報して約1年が経過した。マスコミから注目されることがなくなった特別柵の雄鹿だが、通報以後エサが改善され、2024年1月から12月15日までの雄鹿の死亡頭数は25頭で、これまで年間50頭以上死亡していたことからすると、半分以下に減少した(なお特別柵に収容されている雄鹿の頭数は現在135頭で、以前と比べてそれほど大きな違いはない)。また死亡時の体重も平均で約55キロであり、これまでの死亡時平均体重が毎年30~40キロ台(雄の成獣の体重は通常60~70キロ)だったことと比べると、増加したことが見てとれた。こうして振り返ると、特別柵の雄鹿の悲惨な状況について声を上げてよかったとつくづく感じた。

しかし、一方で課題も見つかった。実は、死亡している25頭の雄鹿のうち、10頭が10月に死亡しており、この点に関しては改善する余地があると考えている。死亡頭数が多いのが発情期の時期に重なっていることや死亡した雄鹿の様子から、おそらく雄同士の闘争が原因で死亡したのだろう。だとすると、鹿苑のあり方検討部会の委員長が言ったように鹿苑の鹿の収容を一時的にすれば、つまり発情期の前に雄鹿を鹿苑から解放してしまい、頭数を減らせば死亡頭数は減ると思われる。

全体的に見れば、特別柵の雄鹿については、状況が大幅に改善されよかったのだが、「めでたし、めでたし、一件落着」とはとても言えないのが現実だ。愛護会側は私が通報した内容について、決して自分たちが間違っていたとは認めていない。つまり、状況次第で以前と同じ粗悪なエサに変更してしまうことだってありうるのだ。それに、特別柵の雄鹿の飼育環境について話し合うために立ち上げられた鹿苑のあり方検討部会とワーキンググループに対して、愛護会は「鹿の治療がどこまで必要なのか」について話し合ってほしいと要望している。奈良の鹿愛護会は、鹿の保護活動をしていると公言し、愛護会幹部にいたっては「奈良の鹿を愛している」とまで発言している。それが「どこまで治療」とは、これまで行ってる治療は「やる必要がない」と言っているようではないか・・・

そもそも愛護会では獣医師が私一人で動物看護師すらおらず、獣医療の知識がない職員が日替わりで治療を手伝うだけだ。治療頭数が多い日は、マンパワーが足りず、治療を手伝ってくれるボランティアさんが頼みの綱である。そして設備も十分でない環境では、命をつなぐため、鹿の治癒能力を引き出すための最低限の治療しかできない。検査機械も整っているとは言えず、血液検査は協力してくれる動物病院に外注している。愛護会が「鹿の治療を十分行なえていないから、きちんとやるように話し合ってほしい」と検討部会に要望するならわかるが、鹿のことを愛している人という人が最低限の治療しか行えていない中、それをさらに削る必要があるかのように「どこまで必要か?」なんていうのは、どう考えてもおかしいだろう。愛護会側が、鹿苑のあり方検討部会で、特別柵の飼育環境から奈良の鹿の治療方針へ、議論のすり替えを行っている意図が透けて見える。

公益通報の結果がめでたしとならない理由の二つ目は、私にとっての働く環境は、非常に居心地が悪いからである。このことは公益通報する前からある程度覚悟していたことだが、思っていた以上にひどい!面と向かって愛護会幹部から「あなたのことはみんなが嫌っている」と言われ(「みんなって誰?」「宝塚劇団で自殺した女性も劇団員から同じことを言われていたよね」と心の中で突っ込みつつ)、私が問題人物であるようなうわさを1年以上にわたって流され、こちらの話には耳も貸さず、証拠も出さずに一方的に悪者扱い、挙句に果てに「処分の対象になるから」と愛護会幹部から圧力をかけられる。

あまりにストレスを感じたために診療内科を受診したら、「ストレス反応ですね。今は動けていてもストレスが溜まって抱えきれなくなると、エネルギーが枯渇したような状態になって一歩も外に出られなくなりますよ」と言われてぞっとした。残念ながら、精神的に追い詰められて自殺するとかにならないと、なかなか周囲に伝わらないし、ニュースにもならない。でも何も言えない状態になるか、死んでしまったら、相手の思うツボではないか。

愛護会は自分たちの正当性をなんとか主張したいのだろう。だから、彼らは検討部会で論点をすり替え、私を問題人物に仕立てあげて、私が通報した内容は間違っていたともっていきたいのだろう。自分たちのプライドを守ることがとにかく大事で、特別柵の鹿がひどい扱いを受けていたことを全く反省していないようにしか見えない。それどころか、通報した私が愛護会の名誉を貶めた犯人とばかり、追い詰めて排除しようとする。本当に名誉挽回したいのであれば、特別柵の鹿の扱いをこれだけ改善していますよ、獣医師とも協力してうまくやっていますよ、とアピールする方がずっと効果的だと思う。奈良の鹿たちだけでなく人に対しても冷たい組織、それが愛護会という名前なのは皮肉としか言いようがない。

いいなと思ったら応援しよう!