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石神井川上流地下調節池は本当に計画規模が必要か?(その2)―上流には既に4つの調節池があり安全に治水が行われている-

 東京都は、貯水容量30万㎥の石神井川地下調節池を建設しようと計画しています。1000億円を投じる巨大工事であるとともに、立坑が設置される武蔵野中央公園の他、管理棟が設置される南町調節池(平常時は柳沢児童広場)、東伏見公園においても長期間の工事が行われる予定です。
 東京都は、河川の治水のためには護岸整備とあわせてこの地下調節池の建設が必要と説明しています。しかし、すでに環七の道路下には巨大な調節池も出来ています。そこで、石神井川上流の調節池の整備と近年の上流域における河川溢水の履歴を調べてみました。

【石神井川上流の調節池の整備】
・1972(S46)年 
      富士見池調節池(当初): 21,000㎥
・1980(S55)年 
      南町調節池:12,000㎥
・1981(S56)年
  芝久保調節池: 11,000㎥
・1983(S41)年 
     向台調節池:81,000㎥
・2008(H20)年 
  富士見池調節池(改修): 33,800㎥に拡張
 すなわち、石神井川上流域には、計137,800㎥の調整池が建設済です。

【近年の河川溢水の履歴など】
(西東京市内)
 石神井川地下調節池の取水口は南町調節池に設置される予定ですが、南町調節池は1980年の完成以降、一度も満水になったことはありません。これは、その上流に芝久保調節池と日常は広大なグラウンドとして使用されている向台調節池が整備された効果が大きい言えます。計画雨量(65ミリ/時)を超える75ミリ/時の降雨(2006.9.11観測)であっても南町調節池には2割程度の余裕が残っています。このため、1980年以降、南町調節池から武蔵関公園(練馬区)までの区間において河川溢水の履歴は確認できません。(※) 

(練馬区内)
 練馬区の富士見池調節池は、武蔵関公園内にあります。武蔵関公園より武蔵関駅の下流付近までが、石神井川上流において氾濫リスクが最も高いエリアになっています。このため、河川脇には水位計が設置されています。
 1980年以降の石神井川上流域の溢水による浸水被害を調べると、2005.9.4に石神井井台七丁目で32棟(床下27棟、床上5棟)の被害が確認できます(※)。この被害は、護岸工事が未整備で湾曲した狭隘部で発生しているため、溢水被害の原因は未整備の護岸に原因があったと言えそうです。その後、当該区間は護岸工事が完了したために、現在の氾濫リスクは極めて低くなっています。
 南町調節池が完成した1980年以降の水位計のデータを練馬区から受領したところ、水位計のデータが溢水水位を超えていたのは2005.9.4の台風時に富士見池・稲荷橋の記録と、2014.7.24夕方の集中豪雨時の同区間の記録のみでした。しかし、2014.7.24の集中豪雨時には浸水被害は発生していません。すなわち、練馬区内においても、2日間のデータを除いて河川上流域の水位は計画高水位以内におさまっています。また、富士見池調節池が改修されて以降の16年間は、河川上流域において溢水被害は全く生じていません。
(※)東京都建設局が公開している「区市町村別水害データ」で確認

【まとめ】
 上流域の4つの調節池の貯水量が計13.7万㎥です。これらの調節池で安全に治水対策ができていることを踏まえると、石神井川上流地下調節池の約30万㎥という計画規模は、過大であるように感じられます。
 過大な構造物の建設は、高額な建設費だけの問題にとどまりません。日常はグラウンドなどとして使用できる地上の調節池と異なり、地下の調節池(構造物)は維持管理にも多額な費用がかかります。石神井川上流地下調節池は、建設されると年間4.9億円の維持管理費が必要とされています。この巨大な構造物の建設は、将来世代にとって負の遺産にならないでしょうか。
 たしかに治水対策は重要ですが、将来世代の負担にならない方法で治水を計画するべきではないでしょうか。

※ 筆者は、正確で中立的な議論を望んでいます。
このため、もし上記の執筆に誤りがあった場合やご意見がございましたら、是非、筆者(2024naturegreen@gmail.com)までご連絡下さい。

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