建設機械化史総論23 第4期(昭和23年度建設機械整備費の査定)

1.5.2建設機械整備費


3.昭和23年度建設機械整備費の査定

 昭和23年度公共事業費の各省要求書の総計は1,400億円位あった。6月末位に要求書が出揃ってから7月~8月に各省の事業説明の聴取を行い、各主査が査定案を作成し、杉山課長が更に総合調整し、9月末頃の査定案としては一般、災害の合計は295億位に絞ってあった。
 建設省から要求のあった建設機械整備費は3億5千万円であったが、私はこれを3億円に査定した。重点を河川用建設機械に置いたので3億円の中、大部分を浚渫船、タワーエキスカベータ、ドラグライン、ショベル、ブルドーザ等の購入費に当て、他に進駐軍からの払下げによるブルドーザ、ショベル、ドラグライン、ダンプトラック、スクレーバ等の購入にあてた。なお、僅かながら修理費を計上した。公共事業費全体の要求は1,400億円で、その査定が、295億円であるから圧縮率は約1/5であるのに機械の圧縮率は6/7なので杉山課長からは査定が甘いといわれたが、私は建設の機械化をする以上僅少な予算では何にもならない。やる以上はわが国の建設機械工業を確立するに必要最小限の予算をつけなければ意味ない旨の意見を開陳し一歩も譲らなかった。最後に杉山課長も了解してくれて3億円そのままを認め295億円の中に織込んでくれたのである。なおわが国の建設機械工業の貧弱であることも説明し、国がその育成に乗り出す以上は1年や2年で良いものができないといって見限る様なことはせず、長い目で育て上げないと却って国費の濫費になること、また当分の間は全額国費を建前とすることなどを縷縷(るる)説明し、本予算はやがてわが国の施工法の革命を来し、輸出機械としても東南アジア開発用に有望だと強調し、全面的な支持を得たのである。公共事業課においてまとめた予算査定案を建設局の局議にかけたのは10月上旬頃だと記憶する。他の事業に関しては、新規を認めないという原則があり、大体前年度事業の踏襲が主となっていたので殆ど問題はなかった。が建設機械整備費については上司から非難が集中し、予算化反対の声のみが高かった。その反対理由とする処は次の通りである。曰く、

(1)新規を認めないという原則に背く。
(2)建設機械化は必要だが時期尚早である。
(3)公共事業は失業救済を目的とするから機械化するのは目的に背く。
(4)建設省の現在の機械係には運営能力なし。
(5)機械類は従来通り事業費で賄うべきである。
(6)事業別に編成している従来の建前に背く。
(7)こういう予算はG.H.Qが認めないだろう。
等等。

 まことに他愛のない反対意見だが局長、次長、課長の意見ともなれば無視するわけにもゆかず、これらの反対意見を反駁しなければならぬ。主査として筆者は次の様に述べた。

【新規を認めないという原則に背く】
 形は新規の様に見えるが、現在の工事費は個所数が多いため細分されて乏しい上に4半期の認証により更に細分され、しかも4半期毎の経済効果を要求されるために、高価な建設機械を購入すればその4半期の経済効果が殆ど皆無となり認証違反に問われる。そのために見す見す経済的には損と分っていても人工施工を主とせざるを得ない現状である。建設経済を考えれば機械化すべき場合が多いから、細分された工事費中の機械費を集めて機械を購入し得る措置をとった方が事業費の使用法としては国家的に見て有利である。建設機械整備費はこの趣旨で高価な重建設機械を購入し得る措置として考えたものであるから、新規ではなく事業の合理化である。

【建設機械化は必要だが時期尚早である】
 時期尚早という言葉は保守的な立場を守る者の常套用語である。早いか、適時かということは主観的な判断であるから、何を以て時期尚早というがその根拠が知りたい。進歩的なことは常に時期尚早と感じられるのではないだろうか。徒に時期のみを待っていては進歩はない。

【公共事業は失業救済を目的とするから機械化するのは目的に背く】
 公共事業は失業救済を目的の1つには挙げているがそれのみが目的ではない。国土の復興、開発の方が大目的である。国土の復興、開発のスピードは日本経済再建のスピードに直接関係がある。建設を機械化することにより、建設事業の速度を早め、事業量を拡大することは国費の効率的使用を使命とする我々の当然の責務ではないか。

【建設省の現在の機械係には運営能力なし】
 建設省に運営能力がないから予算化するのは反対というのは本末顛倒も甚しい。建設の機械化の必要性が判ったなら、事務能力を強化して運営し得る措置をとれば良いではないか。

【機械類は従来通り事業費で賄うべきである】
 事業費で賄えぬ現状を打開するために考えた措置である。

【事業別に編成している従来の建前に背く】
 建前とか面子で仕事をするのは可笑しい。仕事がうまく行く様、建前を直せば良いだろう。

【こういう予算はG.H.Qが認めないだろう】
 G.H.Qが認めないだろうからいかんというのは消極的過ぎる。良いことをするのだからG.H.Qが認めなければ多少ごまかしても構わないではないか。

と反対意見を片っぱしから潰して行った。杉山課長も急所急所で応援してくれた。要するに反対意見は保守的な役人根性以外の何ものもなく、根拠は極めて貧弱なので理論闘争をくり返している中に漸次弱まり遂には、建設省の運営を厳しく監視するという条件付で一応予算化しようということになり、我々の意見が局議で決定したのである。
 筆者として今でも残念に思うのは、事務屋の杉山課長が理解してくれたのであるから、技術屋の上司諸公は簡単に了承して貰えるものと楽観していたのに、あれ程強く反対され、一時は本予算も日の目を見ないのではないかと思う位集中攻撃を受けたことだった。幸い杉山課長が終始変らず本予算成立のため支持してくれたので成功したのである。
 現在建設の機械化は常識化しつつあり、当然のこととして受取られているが、もしあの時予算化し得なかったとすれば、わが国の建設の機械化は少くも10年位はおくれているだろう。あるいは不可能だったかも知れなかったのである。次ぎ次ぎに述べて行くが、この画期的な予算成立により初めてわが国の建設機械化が本格的に推進され、現状迄来たことを考えるとき、杉山課長の理解、信念には敬服の外はない。
 当初295億円を予定した公共事業費は後になって単価の補正があり495億円に増額されたが、建設機械整備費も3億円が4億円に増額された。

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