建設機械化史総論36 第5期(建設機械化協議会の設立趣旨)

(2)設立趣旨の詳細

 建設事業は経済の基盤として極めて重要である。すなわち河川事業は農地を保護し、濫漑用水、工業用水を供給し上水道の供給源ともなる。開拓事業、土地改良事業は田畑の造成、増石を司り食糧生産として直接的である。道路、鉄道、港湾事業は交通に不可欠の事業で新設維持の良否は直接間接に影響が大きい。また都市計画、住宅等の事業は都市復興事業の中核である。その他砂防、林業、漁港等いずれも生産に直接間接に重要な関係があり、これらはまた事業の性格上国または地方公共団体が施行せざるを得ないので一般に公共事業と称し、国費または国の補助で賄い、その重要性に鑑み、日本経済の安定を図るために設置された経済安定本部で主管している。その事業費は全体では国の財政の約20%を占めぼう大な予算である。建設事業としては公共事業の他に電源開発事業があり、これまた経済再建の動力源として重要なことは申すまでもない。
 さて、これら国としてぼう大な事業費を投資している建設諸事業は果して合理的に施行されているであろうか。国民の血と汗の結晶である税金を以て遂行している建設事業が若しもルーズな計画、施工で運営されているのでは、公共事業を主管している私達としては国民に対し泡に申訳ないことになる。経済安定本部は公共事業の効率的な運営を図るため、予算の総合的査定を行い、またその実施の衝に当る各省の各現場の監査を定期的監査において重大な発見をした。すなわち、わが国は過去20年にわたり、建設事業を失業救済と結びつけたため、施工法がすべて人力を主とした方法であり、従って建設単価は高く、建設速度は極めて遅々とし、はなはだしく非能率的である。その原因を種々調査した結果、我々は建設の機械化を推進することができない事情が判明した。すなわち工事費が八方美人的にばらまかれていること、それがまた4半期毎に分断され、しかもも4半期毎の経済効果を要求されるため、工事費を以て機械を購入すればその期の経済効果が著しく減少し、次の期の認証に差支えを生ずる。そこで止むを得ず人力依存施工法を続けているのである。現場としては大いに機械化を望んでいるが、現在の制度では不可能だというのである。そこで経済安定本部は、ほんの一部ではあるが建設省の河川、道路事業を対象として建設機械整備費を新しく昭和23年度より予算に組み、工事費とは別に重建設機械を購入し得る途をひらき、建設の機械化を推進することした。
 昨年(昭23年)の4月以来この予算によって建設省は重建設機械を購入し、各現場に送り込んでいるが、国産のブルドーザ、パワショベル、グレーダ等は米国製品に比較し雲泥の差で殆ど使用に耐えぬ現状にある。ようやく米国の払下げ機械の働きで建設の機械化をカバーしているのが実情である。私達も国産機械がそう急速に使用に堪えるものになるものと期待するのは無理と承知はしているものできるだけ早い期間に米国製品に追付き、充分使用に耐える製品を生産する様、昨年(昭23年)1年間メーカーと力を協せ、建設機械工業会に研究組織を要請する等あらゆる方法を講じてきたが国産機械の進歩は遅々たるものである。そこで我々は最後に考えたのが、官民を問わず、需要者、供給者を打って一丸とする組織を設置し、会員の協力に依って困難な問題を速急に解決し、国産建設機械の改良進歩、機械化施工法の確立を図り、もって建設の機械化の目的を最短期間に達成したい、その連絡協議会として本日参集を願った建設機械化協議会(仮称)の設置を皆様に諮りたい。ただしこの協議会は官に置く方法もあるが、筆者としては会員の真に盛り上がる熱意を絶対必要条件とし、すべて同志的な結合によって協力する体制をとりたいので民間団体とした方を望むものである。なお協議会の設置は強制するわけではなく、皆様の方で真に日本経済再建の一翼を担うに必要とお感じになるならば設置するもよし、しからざれば設置しなくもよし、自由な意見を望みたい。」と結んだのであった。

 元来筆者は非常に口下手で多人数の前で話をするのは極めて不得手であるが、今回の趣旨説明には過去数年間の建設機械化の理想の実を結びたい熱情をこめて真剣に説明した。筆者の説明の不足なところは高木、中岡両君に補足してもらった。

 日立の家田秀司氏の賛成演説が今でも強く印象に残っているが、その趣旨は次の様だったと記憶している。「私は日立にいて多種多様の機械を扱っている関係上、種々な協会に関係している。そのほとんど多くは単なる同業組合か、クラブであって具体的な問題の研究調査等により真にプラスになっている協会は少ない。実は本日出席する前には他のありふれた協会の亜流と考え、もしそれなら叩き潰すつもりで来たのだが、只今の趣旨を聞いて、この会は真に有意義であるし、有意義ならしめる必要があると強く感じた。私は全面的に賛成する。」その他の出席者即ち各省は勿論のこと猪瀬、杉山、河村、内田氏等交々立って賛成され協議会の設置は満場一致で支持を受けた。ただ建設機械工業会との関係がどうなるかとの質問があり、これに対しては協議会の重要なる一翼となってもらいたいと答えたが、工業会自身はその意味がよくわからず、後に問題を残した。

ご不明な点、疑問点があればコメントください。また、建設機械の資料がございましたら、ご一報ください。