建設機械化史総論22 第4期(建設機械整備費の設定)

1.5.2建設機械整備費

2.建設機械整備費の設定

 帰京後筆者は当時経済安定本部公共事業課の河川主査であった山内一郎氏に対し、直轄河川の各現場においては建設機械の要望が強いが何等かの予算措置をとる必要があるのではないかと相談をもちかけた。山内氏の答は、自分としてはそのような要望を聞いていないが、現局には来ているかも知れない、ということであった。そこで河川局に赴き、小池挙氏に逢い同じ意味の質問をした所、小池氏の返事も又河川局としてはそのような要望は知らぬとの話、たぶし資材課で機械を取扱っているから機械係に連絡して貰いたいとのことで資材課に赴いた。機械係長は大学時代の同級生である高木薫氏であった。高木氏は卒業後満洲国に就職し、終戦後満洲から引揚げたのであるが、クラス会以外には話合う機会もなかった。筆者は高木氏に、君は機械係だが現場においては建設機械の要望が強く、事実機械が少いため工事が円滑に進捗していない、建設の機械化について如何なる措置をとっているか聞きたいと問うた。高木氏曰く、建設の機械化については非常に重要だと思っているし、現場の要望も耳にしている。建設省としては来年度(23年度)予算に建設機械整備費として3億5千万円の要求を提出している、と机の中から予算要求書を取出した。前に述べた通り、筆者は杉山公共事業課長の参謀ともいうべき企画調整係を承っていたのですべての予算要求書は必ず筆者を通っている筈であるのに、全然知らない予算要求書が突然出現したので驚いた。昭和23年度予算編成方針を決めるとき財政の窮乏に鑑み新規要求はすべて認めないという原則を立てたが、建設機械整備費は完全な新規と見なされ、財政係の手許に届いた途端におとされ、筆者も杉山課長も知らぬ内に闇に葬られていたのであった。高木氏の出した要求書の内容はただ漫然とブルドーザ何台、パワーショベル何台、グレーダ何台と大型機械の要求になっていて、どちらかと云えば河川用機械は少く、道路建設用機械の色が濃いため、筆者の考えとは違っているが、建設省が建設工事を機械化して行きたいとい意味だけは汲みとることができた。そこで筆者は河川工事の機械化の必要性を説き、予算要求書の内容については変更を要するが、建設機械整備費そのものについてはその実現方に努力する旨を告げて帰った。
 いよいよ杉山課長を口説き落さなければならないことになったが、既に23年度予算の編成はほぼ終了しており、かつは新規要求のためもあってなかなか苦心を要した。先ず一般論から説きおこしたのであるが、公共事業全般が当初の計画事業量を常に下まわっている。これが原因としてはインフレーションのための物価の高騰、賃銀のベースアップ、ならびに建設力の貧困を挙げた。特に河川事業のごとき重建設機械を必要とする事業にあっては一層その影響力が著しく、国土の復興、資源の開発を大きな使命とする公共事業が、膨大な予算を投じていながら経済効果が上らなければ、公共事業運営の一般的責に任ずる経済安定本部としては充分責任を果しているとは云えないわけである。各工事現場が十分計画事業量を遂行して行ける措置を執らねばならないが、それには必要な建設機械を購入し得る方途を開くことが何より大切ではないか。戦前の如く継続事業が認められていた時代においては、初年度、二年度において全体事業量を遂行するに十分な機械を揃えてから工事にかくれたのであるが、現在の如く単年度予算しかも4半期毎に認証し、4半期毎の経済効果を強く要求すれば、勢い人力施工に依存せざるを得ない。何となれば4半期の認証資金で高価な機械を購入すれば経済効果は零となり、次の認証では確実に落され、工事はストップする。これに反し人力施工でも細々とやれば、たとえ認証事業量は遂行できなくとも、何10%かは効果があり工事を続けることができる。従って能率が悪くともまた長い目で見れば国費の濫費と分っていても人力施工に依存せざるを得ない実情にある。しかるに戦後極度に貧困になった日本としては、あらゆる面を合理化し、最小の投資により最大の効果を挙げなくてはならないが、特に生産力の基盤としての公共事業は国民の血と汗との結晶たる税金より成ることを考えれば、できる限りの合理化が必要である。みすみす多額の国費濫費を見逃して良いはずはないから、合理化の一つの手段として建設機械を購入し得る措置をとらねばならぬ。とりわけ河川事業の直轄工事が食糧の減産防止および国民生活安定に重大な関係があるからこの面から始めるべきではないか。一応形としては新規予算に見えるが、内容は施工法の合理化であって純然たる新規ではないから新規を認めないという原則にも違反しない。かかる画期的な措置をとってこそ公共事業予算の編成を経済安定本部で行う意義もあるという意味のことを誠意をもって説いた。初めの内は杉山課長も新規にこだわったり、建設機械用資材の配当を獲得し得るや、またすでに殆ど決りかけている23年度予算の何れから機械整備費財源を生み出したら良いかなどとなかなか頑強に反対をした。ただし趣旨については賛成であるから24年度から考えようとのことであった。これに対し筆者は、資材については幸い筆者自身が資材班長をしているので生産品を納得せしむる自信があること、財源については山内河川主査と協議して災害復旧費から削り取ることとし、遂に杉山課長を納得せしめて建設機械整備費を設立することに決定し、その査定については筆者に任せられることになった。書けば何でもないが、意見具申をしてから杉山課長を納得せしめ、従来に例のない建設機械整備費を予算化する決心を固めさせるまでには3日間を要した。
 しかし役所の仕事というものは兎角事なかれ主義に堕し、新しいことは殆ど皆実行を阻まれる慣習があるのに、筆者の主張を快く容れその後の上司への説得、大蔵省との接衝にも自分のことのように終始頑張ってくれ、遂に建設機械整備費の実現にまで漕ぎつけた杉山課長の判断の正しさと達見には心から敬服せずにはいられない。本予算が成立したことにより建設の機械化が飛躍的に推進され、建設機械工業の曙光を見出したことを想えば、杉山知五郎氏こそ建設機械化の大恩人として特筆大書する価がある。また最初からことの必要性を理解し陰に陽に本予算成立に援助して貰った山内一郎、熊倉真一両氏に対して衷心より深い感謝の意を表するものである。

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