日本の東の方から愛を叫ぶ

2020年8月30日
劇団四季ミュージカル「パリのアメリカ人」大千秋楽のはずだった日。
未だに燻るやりきれない思いと、再演への期待を込めて、パリアメへの愛をぶちまけたいと思います。

*以後、ネタバレにご注意を*

そもそもミュージカル「パリのアメリカ人」とは

1951年の映画「巴里のアメリカ人」を原作とし、グレイグ・ルーカスの台本と、クリストファー・ウィールドンの演出・振付によって生み出された、ガーシュウィンの名曲がたっぷり詰まったミュージカルです。

簡単にあらすじを。
舞台は第二次世界大戦が終結したばかりのパリ。
アメリカの退役軍人で画家志望の”ジェリー”、戦争で負傷したユダヤ系アメリカ人である作曲家の”アダム”、資産家の御曹司だがミュージカルスターを夢見るフランス人”アンリ”。偶然出会った芸術を愛するこの3人は、すぐに意気投合し友情で結ばれます。実は3人とも魅力的なバレリーナ”リズ”に恋することになるのですが、そんなことはつゆ知らず。
ある日、裕福なアメリカ人女性”マイロ”の登場でそれぞれの運命が動き出します。ジェリー・アダム・アンリ・リズ・マイロ、5人はどんな道に進むのでしょうか…。

日本では、2019年1月20日から劇団四季が公演を行っており、2019年ミュージカル・ベストテンにおいて、作品部門第一位を獲得した作品でもあります。


パリアメの好きなところ

まとめると結局「全部!」になるわけですが、私が良いなと思った部分をオタクらしく書き連ねたいと思います。

1.ガーシュウィンの名曲たち
最初からこんな理由にするのもどうかと思うけど、ガーシュウィンの曲が何だか好きなようです(笑)ジャズシンフォニックが性に合うのでしょうか。
耳なじみの良い曲ばかりで、聞いているだけで楽しいです。
「I'll Build a Stairway to Paradise」が一番のお気に入り。アンリが自信に満ちて歌い上げるラストは必聴。これを聴くために通ったといっても過言ではありません。

2.言葉を発するダンス
パリアメは歌唱よりもダンスシーンが多い作品で、ジェリーとリズの出会い・戸惑い・葛藤・喜び…物語の主軸とも言えるシーンや感情もダンスによって表現されています。踊っているだけでストーリーが進められるものなのか?ええ、進められるんですよ。

代表的なのはやはり「An American in Paris」でしょうか。リズが主役に選ばれたバレエ作品を上演するという形で、14分間のバレエが披露されます。正直、初見時は「へぇ、さすがプロの踊りは何だか凄いやぁ」位の感想しか抱きませんでした。しかし、この1曲を通してリズの揺れ動く心の内を表しているのだと気が付いた時、「バレエでこんな表現ができるのか!」とかなりの衝撃を受けました。

個人的には、初っ端の「Concerto in F」も大好きです。戦争という暗い影を引きずりつつも新しい朝が来たような清々しさを感じさせ、前向きに進んでいるパリの様子がよく表れているなと。物語の幕開けにぴったりの1曲だなと思っています。

3.衣装
普段着、軍服、パーティードレス、バレエ衣装、燕尾服…様々な衣装が出てきて楽しいです。お気に入りはマイロの緑色のドレスと、ギャラリーラファイエットの制服、パリバレエ後の女性8枠さんが着る黒いドレス。
同じように見える軍服でもアメリカ兵とフランス兵ではデザインが異なっていたり、ディオールの「ニュールック」をモチーフとした衣装があったり、細かいこだわりを聞くのも面白かったです。

4.舞台セット&転換
大がかりな舞台装置はあまりなく、ピアノやテーブル、椅子といった道具を俳優さんたちが踊りながら移動させて舞台転換を行うスタイル。これがまたオシャレで美しいのです。パンフではこの舞台転換を「俳優たちと”モノ”とのデュエット」と表現していますが、まさにその通り。プロジェクションマッピングが華を添えているのも良いですね。
基本的にシンプルなセットである分、終盤のラジオシティとパリバレエのセットが一層煌びやかに感じられます。ラジオシティのセットは色味も含めて大好きです。

トリコロールがあちらこちらにちりばめられているのも、マリノスを愛する私としてはとてもポイントが高く(笑)オープニングのフランス国旗と、パリバレエ終わりのエッフェル塔はとても印象的でした。


観劇沼へようこそ

最初は、新しい作品だから・好きな俳優さんが出演するからと観ていたパリアメですが、次第に作品を考察する楽しさとカンパニーを追う楽しさを覚えた私。

前述の通りダンスによる表現が多いため、「ここでは何を表現しているのか?」と考えるようになったのがきっかけです。SNS上で披露されている様々な知識に基づいた考察を見るのもとても楽しいと感じるようになりました。自分の考察が正しいかなんて分かりはしないのですが。だからこそ、演者からのコメント等で答え合わせが出来た時の嬉しさは中々のものです(笑)また演じる人が違うとこんなに印象が変わるのか、そんな気づきをくれたのもパリアメでした。俳優さんそれぞれの役の捉え方が滲み出る部分を見つけるのがとても楽しいなと。

既にロングラン中の他公演と比較すると、パリアメは日本初演ということもあり、公演を重ねながらカンパニーが進化して行った感が強い作品だと感じています。(もちろん初演時点での完成度が低いと言いたい訳ではないですよ。)この感覚は初めてで、作品とカンパニー全体への敬愛の念が深まったような気がします。

要するに観劇沼に突き落としてくれたのがパリアメということですね(雑)



なぜパリアメだったのか

観劇沼に落ちたからと言っても、近くで公演している演目は多々あるわけで、なぜ半ば病的にパリアメ通いをしたのかを考えてみました。

この頃は仕事面等様々な環境の変化があり、変化を怖がる性格の私は日々を過ごすためにかなりのパワーを必要としていました。さらに言うと変化を怖がる自分が嫌いで、この性格を変えねばと思う日々でもありました。

さてパリアメ。パリアメの登場人物は作品を通じて自分を変化させていきます。アダムは譲らなかった自身の芸術の方向性を180°転換させるし、アンリは隠してきた自分をさらけ出してリズを手放す決意をします。(私はアンリから別れを告げた派なのでこう書かせてもらいます。)
自分を変化させた結果、どうなったか?それぞれが思い描く最高の結末とはならず辛さも見える所もあるけれど、一様に清々しくすっきりとした雰囲気を感じるのです。変わったことに後悔はないぞと。

この感覚が自分の現状とリンクし、観劇後は何だか「頑張れよ」と背中を押された気分になりました。日々を過ごすための、変化を受け入れるための大きなパワーを貰っていたのだなと。好きな物を観てリフレッシュ…以上の効果が当時の私にはあったので、あんなにも通ったのだと結論付けたいと思います。

もちろん、推しに推している役者さんを観たいという単純な欲求もありましたがね(笑)



再演への期待

元々、福岡公演以降は当分再演無しと言われていた演目ではありました。私にはすごくすごくフィットしたけれど、好みが分かれる作品であることは間違いないと思います。(それでも私は推していくけどね☆)現在演劇界の置かれている状況からしても、再演の日はかなり遠いのが現実でしょう。
でも私は、この状況だからこそパリアメの再演を願ってやみません。”私が観たいから”と言われればそりゃそうなんですが、それだけではありません。

パンフより吉田社長のお言葉を拝借すると、パリアメは「戦争中に抑圧された夢や希望、愛を巡り、芸術を深く愛する青年たちが葛藤し、輝きを取り戻す”人間賛歌”の物語」です。コロナ禍は未だ続いていますし単純に同じとは言えないけれど、今の状況とリンクする部分は多いはずです。
皮肉にも今だからこそパリアメの持つ奥深い魅力がより多くの方に響き、生きる力を与えるのではないか、そんな風に思うのです。

最後に

本当は、ジャズとは何ぞや、レジスタンスは何をしたのか、etc... 関連事項を色々勉強して実りある文にしたかったのですが、学びたいことが多すぎてまったく追い付かない状態です。そんなわけで、唯々、心情的な面のみで作品を語るnoteとなってしまいました。3000字を超えるこの長文を読破された方に敬意を表したいと思います。

パリアメが話題にのぼることも少なくなっていく一方ですが、私はこれからも美しい月を見たら「ねぇ月がきれいだ」とか、ノリの良い音楽に出会ったら「足がうずうず~」とか呟いて、大切な作品となったパリアメを推し続けていきたいと思います。
(違う方法で推せよというごもっともな意見が聞こえる…)

たくさんの思い出と出会いをくれたパリアメに感謝を。
大千秋楽、おめでとうございました。


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