グリーンビジネスを地域にインストールすることで広がる新たな可能性
世界レベルで持続可能な社会の実現に向けて、地域で環境問題に挑むグローカルリーダーを育てる、実践型ビジネススクール&オーディション『Green Business Producers(GBP)』。昨年、40人の参加者とともに過ごした第1期を終え、10月から第2期が始まります(応募は8月末で締め切りました)。
グリーンビジネスを考え行動する「気付き、きっかけ」をもたらすような、これからの暮らしと社会の未来を探る連載。〜耕す未来、ダイヤルダイアログ〜は、GBPの、そして私たちの「今」そして「これから」について考え、綴っていく対談です。第4回目は、シティラボ東京でディレクターをつとめられる平井一歩さんです。
課題の当事者として現場に入る
小田切:まずは「シティラボ東京」や「一般社団法人アーバニスト」で、平井さんがどんなことをされているか、考えているか教えてください、っていうベタな話から始めましょうか(笑)。
平井:都市計画のプランナーや、まちづくりのコンサルタントを17年ほどやってきました。そのあと、大学の職員として地域連携や産学連携を約4年やってから、一般社団法人アーバニストを仲間と立ち上げました。現在の活動の一つがシティラボ東京のディレクターになります。ここで自然電力さんやGBPさんと出会っています。シティラボ東京※1 は2018年に東京にオープン、企画は東京建物株式会社さん、私たち一般社団法人アーバニストが運営をやっています。
平井:私自身の考えなんですが、これまでの都市計画の思考では解けない問題が多く出てきていると感じていて、そこの検証というか時代にあった他のアプローチを探るために、大学で産学官連携コーディネータをしたり、シティラボ東京のような現場に近いところで仕事をしています。
小田切:どうして、現場に近いところでまちづくりをしようと思ったんですか。
平井:ずっとコンサルタントとしてまちづくりをやってきたんですけど、結局コンサルタントは代理業になってしまいがちなのではないかという問題意識が出てきたんですよね。まちづくりに自分の意志を込めきれない。もっと当事者として現場に入り込みたいなと思って、大学の産学官連携コーディネーターとしてまちづくりに関わる地域連携に関わりました。そうすれば、おなじまちづくりでもこれまでとは違う景色が見えるんじゃないかなって。実際すごく働きがいがありました。
大学の任期が終わる頃に、東京建物株式会社さんからシティラボ東京の運営を手伝わないかと話をいただきました。話を伺いながら、その場を運営しながら都市のことを考えたり、人に出会ったりする中でこれまでとまた違うリアリティがそこに生まれると確信したんです。シティラボ東京を通じて自分の理想に近づけるんじゃないか、そう思って話をお受けしました。シティラボ東京の運営をはじめ、新しい立場からまちづくりに関わる人を発掘・育成するためにつくったのが、一般社団法人アーバニストです。
小田切:高度成長期はモノも建物もつくってさえすればなんとかなっていた、作り続けなきゃいけないって呪縛があったように思えます。今の時代はつくったモノをどううまく使って、どう活かしてエリアの価値を高めていくか? が重要だったりするんじゃないかなって素人目には思うんです。
平井:まさにそうなんです。だから、自分たちで場のひとつも運営していないと、まちづくりをする人間として説得力ないよねと。
「グリーンビジネス実践」への期待
小田切:それがシティラボ東京ってことなんですね。いろんな人が出入りするシティラボ東京が、「City Lab Ventures」※2のような企業のコミュニティをしかけているのも、そういった考えからですか。
平井:そうですね。シティラボ東京がサステナブルビジネスのような活動を都市に融合させることで、新しい価値をつくれるんじゃないかなと。その一つとして昨年からシティラボ東京で「グリーンビジネス実践」※3というビジネス研修をスタートしました。これは、『GREEN BUSINESS』の著者でシティラボ東京のアドバイザーをしていただいている吉高まりさんと小林光さんが、およそ10年間続けてきた学生向けの演習プログラムを元にしています。
平井:「グリーンビジネス実践」は慶應大学のSFCや東大でも学生向けにやられてきたんですけど、社会人向けにやったら面白い成果が出るんじゃないかって話が盛り上がり。じゃあシティラボ東京でやってみようと。
小田切:思想と行動、素敵な流れですよね。具体的には何をするプログラムか教えてください。
平井:「CO2の見える化」や「再エネ」などサステナブル領域をテーマに、研修を受けているみんなでインプットとアウトプットを繰り返します。自主的なグループワークやプレゼンもしてもらうので、とてもハードなんです。
シティラボ東京らしいなと思うのは、都市にある大企業に務める方と、まちづくり会社などローカルで活動している方など多様な人がプログラムに参加してくれるんですね。大企業の方は専門性をもちながらグリーンな活動をしたい気持ちはあるけれど、特定のエリアで活動する具体的なイメージは持ちづらかったりする。一方で、すでにローカルで活動している人は、大企業の人に比べて社会的インパクトを出せる規模は小さいかもしれない。だけど特定のエリアにおける具体的な課題を感じていたりするんです。このふたつが融合することが価値を生むんです。
小田切:その話を聞いた時に、めっちゃいいなぁと思って、勝手ながらGBPの匂いがするって(笑)。僕がGBPの話をした時「グリーンビジネス実践」とGBPが絡み合うことで、どんな価値が生まれるって平井さんは感じましたか。
平井:「グリーンビジネス実践」は、実践とは言っていますが、正直いまはシミュレーションに留まっています。まだ出口として、実践場としてのフィールドが具体的にあるわけではなくて、そこを元々の課題感として持っていたんです。GBPのように各地にフィールドを増やしているところと結びつくことで、うんと可能性が広がると思いました。たとえば、「グリーンビジネス実践」で学んでグリーンビジネスに目覚めちゃった人が、実地に落としたいと言ってGBPのプログラムに行って、副業で何かを起こしたり、社内の意識を変えるイントレプレナーになったりしたら、それってすごく面白いじゃないですか。その可能性は十分にありますよね。
小田切:うんうん、ありますねぇ。逆に、GBP卒業生が「グリーンビジネス実践」に学びに行きたい!っていうこともあるだろうしお互いに行き来できるっていうのは、可能性の幅が広がって魅力的ですよね。選択肢と流動性はすごく大事なキーワードだと思っていて、それを可能にするネットワークというか環境をつくりたいんですよ。
平井:GBPのプログラムの強みって、とにかくローカルに飛び込んでいくような人材を養成するところにあると思うんです。「グリーンビジネス実践」を受けている大企業の方たちは組織を背負っていると、地域に無邪気に飛び込んでいくのって、ハードルが高いと思うんですよ。そういう時に僕らがうまくブリッジになると、GBPへ大企業の力を引き込めると思うんです。そんな「ネクストGBP」の動きができるといいですよね。関わりしろを生み出すような。
平井:初めの方で、一般社団法人アーバニストの話をしましたけど「アーバニスト」という言葉についてすこし話をさせてください。
小田切:おぉ、聞きたい。
平井:元々「アーバニスト」という言葉は、「都市計画の専門家」や「都市に住み、都会の生活を楽しんでいる人」という意味で使われてきました。ただ、社会の中には色々な専門性をもった人がいますよね。その中で、再エネの専門家と言われる人も、都市に関わればある意味で都市をつくる人でもあるわけです、再エネではなく。そういう風にどんな生活者であっても当然まちをつくることはできるわけです。そうやって都市に関わっていく人のことを、僕らは「アーバニスト」と呼んでいこうと。色々な人たちが交わってできている多様性を孕んだ集まりというのは、ゼロからつくることもできるけど、今まで気付かずにまちづくりに関わってきた人のことを、僕らの言う「アーバニスト」と定義することで、立ち位置ができるんじゃない?って。だから、このさき「グリーンビジネス実践」とGBPの両方から吸収する人たちは、グリーンビジネスという専門性と、現地に入って生活していこうという、まさにアーバニスト。アーバンと言いながら実際の活動はローカルであるかもしれないけど、でも立ち位置としてはそう。
小田切:なるほど、アーバニストがその意味で浸透すると光が当たる人も多様な繋がりも増えそうですね、誰かが干渉するんじゃなく自由意志で。あと、ソフトシティとスマートシティの融合も進んでいく気がします。
都市と地方の連携に答えはない
小田切:グリーンの話になると、都市ってグリーンとは正反対な存在として槍玉にあげられることがありますよね。グリーンな視点で都市に良い面はないのでしょうか。都市の担う役割って何なんでしょうね。
平井:例えば地方と比べると、都市はエネルギーの消費量が大きいし、CO2の排出量も多いです。だけど、ひとり頭で見てみると、 都市の方がエネルギー効率はいいんですよ。僕は車を手放してもう21年経ちます。だけど鉄道沿線に住んでいるから、移動も便利なものです。
小田切:モーダルシフトですね。僕は東京でも佐賀でも車なしです、理由は環境とはまた別なんですが(笑)
平井:ただ、都市は効率はいいけど、やっぱり自給自足はできないよねっていうジレンマもあるわけです。だからこそ、都市と地方の連携が必要なんです。でも、高度成長期には地方に原発をつくってエネルギーを東京に送るという、繋がっているけど連携とは言わないようなことが都市と地方の間に起こった。そこをなんとかしていかなきゃいけない。例えば原発に代わって再エネになっても、ただ地方から都市へ一方的にエネルギーを送っているだけだったら、原発と構造は変わらないわけで。
小田切:一方通行の考えのままで、『こういう連携がいい』という答えはでてこない。
平井:そう思います。グリーンエネルギーを一方的に都市が買い上げるだけだと、エネルギーはグリーンだとしても、それはグリーンビジネスではないと思うんですよね。都市と地方連携型のグリーンビジネスって、一体なんなんだ?ってなりますよね。いま僕たちにその答えはないので、さまざまな立場の人とフラットに話していけたら良いなと思っています。
小田切:今のお話のように、たとえグリーンなエネルギーだとしても、それを都市が買い上げて使うだけの仕組みに、国や企業が投資するのはつまらないな、と。貧困で苦しむ人たちに食料を恵み続ける話に似たようなことが、延々続いちゃうのといっしょで根本的な解決になっていない。ここでいう地域、供給側がちゃんと稼ぐ力をつけるとか対等になれるシステムや人材の輩出が大事だと思うんです。僕らの活動だけじゃなく、もっとグリーンビジネスを実践する方々に投資してくれる流れをつくりたいですね。インパクト投資やESGプロボノや兼業などを次のステージにもっていく。
平井:高度成長期というのは、えげつない言い方で言うと、地方は都市への人材供給システムだったわけです。それは「量」の話なんですよね。これからは供給ではなく循環のシステムにしていかないといけないし、「量」は明らかに日本全体で減っていくのだから、これからは「質」や「志」の話になってきます。そんなシステムができたら面白い。
ネクストGBPの可能性
小田切:さっき「ネクストGBP」って話されていましたけど、平井さんが具体的に描くネクストって何ですか?
平井:グリーンビジネスを地域にインストールすることですかね。GBPや「グリーンビジネス実践」で言うと、大企業とローカルが結びつくとか、ローカル同士が結びつくとか、人の輪が広がるということ。すべての地域に通じる課題と解決策って本来ないわけで。それぞれの地域には個別の解決策がある。そこに向き合えるのってやっぱり人、人の輪だと思うんです。矛盾しているようだけど、各地域で各自が個別解を探しながら、それを全体で共有していく。ビジネスにするとそれができる可能性ってあると思うんですよね。ビジネスってこの地域だけで絶対なのか。いやちがうでしょと。例えば、この店はここにしかないけど、そこで扱っている商品の仕入れ先はどこか別の地域にあるとか。ビジネスになるとその地域の外との関係が出てくるものですしね。地域の個性は大事だけど、その部分だけでまちづくりをやっていくと、狭い地域の中だけのいわゆる蛸壺になってしまいます。他の地域とも繋がるために、人もアイデアもどんどん掻き回すべきですよね。
小田切:アーバニストって言葉の意味、グリーンビジネスの地域へのインストールなど、GBPメンバーと早く議論してほしい気持ちになりました。講義では東京建物の小島さんも加わるし、どんな時間になるか楽しみです。
平井:そうですね、「グリーンビジネス実践」とGBPの交流、僕らもたのしみにしています。
ー編集後記ー
「アーバニスト」「アーバニズム」というとローカルとは対極にあるように感じますが、今回の対談では実は表現の違いだけでわたしたちがこれから実践しようとしていることにかなり近く、親和性の高いものであると感じました。平井さんとお会いしたのは今年の初夏。活動する上での共通のキーワードが多くあり、波長があうなぁと勝手ながらに感じていました。そんなこんなで仲良くさせていただいているうちに、東京都の「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」にお声がけいただき、GBPとして提供できる価値をプログラム化、晴れて来年度ご一緒する運びとなりました。都市とローカルの分断は加速すると言われていますが、だからこそそれぞれの課題において取り組める協業もたくさんあると思います。今後も連携をとりながら活動できることが楽しみです!(ディレクター:おおもり)