オタクにとってお渡し会は麻薬

 結論から話そう。推しのお渡し会は軽々しく手を出してはいけない。幸せと苦しみを同時に味わう事になるであろう。これから詳しく話していく。

 2019年11月12日は私の最も推している内田彩さんのアーティストデビュー5周年の記念すべき日だった。

 それに伴い池袋サンシャインシティ噴水広場で記念イベントが行われた。発表当初はフリーライブだけだと思っていたが、後からお渡し会の実施が知らされたのである。

 私は内田彩さんを推し始めてから約3年6ヶ月となる。その中でお渡し会をはじめとするいわゆる接近戦に参加した事はなかった。「私なんかが参加して良いのだろうか……」という想いによるものが大きかった。

 しかしながら多くの方のお渡し会レポ、楽しかったという感想、そして何よりも推しと1対1で向き合い話せるという夢のような時間。それらによってお渡し会に行ってみたいという想いに変わっていった。

 実は以前にもお渡し会に参加しようと思った事があった。Complete Boxの発売に際して浜松町で行われたものだ。あの時はゲーマーズ秋葉原店で抽選に当たると参加できた。夜行バスを降り、そのまま並んだので朝6時頃から真夏の暑い中並んだ。前から7番目であった。その時は長時間の格闘も虚しくはずれくじを引いた。隣で並んでいた方と仲良くなったので悪い思い出ではない。その方は元気だろうか。最近Twitterでお見掛けしない。

 他にもリリスパの子弟お渡し会も行こうか迷ったが、初めては1対1が良いと思った。それに絶対に内田彩さんばかり見てしまうからのぐちゆりさんに申し訳ないとも思った。そのため、参加には至らなかった。

 そんな出来事を振り返りつつ、私は夜行バスに乗った。何を話すか考えながら眠りについた。そんなものは役に立たなかった。推しの前では思考など無意味なのである。

 夜行バスで東京に降り立ち適当に時間をつぶす。初めてのお渡し会に胸を躍らせながら。

 定刻になる。私はアルバムの予約をして抽選券をもらった。当選すれば今回こそお渡し会に参加できる。抽選番号は5番飛ばしだった。連番ではないのか。これが今回のキーポイントとなった。

 再び時間をつぶし、内田彩大学合格発表の時間が来る。公式サイトに当選番号が載せられるのでまさに受験生の気分だ。合格すれば入学(お渡し会に参加)できる。ドキドキしながら公式サイトを見た。……あれ? ない、ないぞ。番号は見事に私の番号の規則性を避けていた。平日だから当たるだろうと高を括っていた。私は数年ぶりに浪人した。

 落ち込みに落ち込んでしまった私だが、なんと知り合いのご好意で重複当選した分を分けてもらえる事になった。ご本人にはお礼を述べたが、再びここでも謝辞を述べたい。本当にありがとうございました。もし私が逆の立場になった際は分け与える側になります。

 とうとうお渡し会の時間が来る。集合時間になると会場から少し離れた階段に連れて行かれて列形成をした。私の番号は後ろの方、待機時間は長く緊張感はみるみるうちに上がっていった。

 何を話そうか。まずはいつも楽しませていただいているお礼を言わないといけないな。その次はどうしようか。中々番号が来ないという事は結構長く話せるのだろうか。初めてだからどんな雰囲気かも分からないな。あれ? 夜行バスで何を話そうと考えてたんだっけ? 思い出せないぞ???

 とりあえず落ち着くために私はTwitterを開いた。するとTL上でお渡し会の感想を多く見る事ができた。はがしは緩めのようだ。長く話せたという人が多い。という事は話す事多く考えておかないと間が持たない。緊張感はむしろ増した。

 そして、移動時間が来た。ぞろぞろと階段から噴水広場へ大名行列、目指すのは都ではなく内田彩さんだ。会場まで来ると顔が見えた。今日もかわいい。一人ひとり丁寧に対応し、ギリギリまで手を振る神対応だ。あっ話す事飛んだ。

 「あと一歩前出てくださいね」スタッフの声。少しだけ前に出る私。次が私の番。前の人が終わった。私の番。1対1で向き合う私と内田彩さん。目を見る事ができない。ありきたりな挨拶。意を決して内田彩さんを見る。笑顔だった。

 この笑顔は誰かにではない、まさしく私に向けられた笑顔なのだ。

 オタクにとってこれ以上の幸せがあるだろうか。そして、こんな感情になるのだった。

 うちだあやさんしゅきしゅき~。

 しかし、幸せな時間は数秒。長くは続かない。

 「そろそろお時間です」悪魔のささやきだ。スタッフに肩を叩かれる。これは宿命なので仕方がない。私は言われた通りにその場を去る。

 そういや、最後まで内田彩さんはみんなに手を振っていたな。私は数歩歩いた所で思い出し振り返る。するとなんてこったい、内田彩さんはちょうど身を翻し定位置へ戻る所であった。あと0.5秒早く振り返っていたら手を振ってもらえたのに!! 自分のタイミングの悪さを後悔すると共に、次回は最初から最後まで目を合わそうと決意した(無理である)。

 その後はフリーライブを楽しんだが、どこか上の空である。そりゃそうである。初めての接近戦を終えた後なのだから。満足感でHPは0、ひんしの状態である。口角は上がりっぱなしだ。山手線内でもバスタ新宿でもnoteを書いてる今だってまだ下がっていない。帰りの夜行バスではぐっすり眠れた。夜行バスってこんなに快適なものだっけ? と思ってしまった程である(今回乗ったバスは特別足元が広かったというのも大きいが)。

 「なんだこれだけなら幸せだけではないか」と思うだろう。いや違うのだ。お渡し会は禁断の果実なのだ。知ってしまったが故の苦しみがあるのだ。

 「また行きたい!!!」

 この一言に限る。いわば禁断症状だ。ネットでよく見かける薬物依存の悪循環の画像そのままだ。「早くお渡し会を」「苦しい」幸福感の裏側ではこう感じている。きっとこの感情は次のお渡し会へ行くまで持ち続けるだろう。そして、行った後も持ち続けるに違いない。消える事のない欲求だ。いつまでも続くだろう。オタクにとってお渡し会は麻薬と言わざるを得ない。

 推しの接近戦に行った事のないそこの君、まだ間に合うぞ。ただし幸せも同時にもらえるぞ。どうするかの判断は君に任せる。私は行かない後悔より行った後悔をしたい。内田彩さんはいいぞ。

 よーし月末の北九州へ行く準備をしよう!!

 

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