学振申請書が勝手に完成するメソッド?の提案

2023.10.08追記

このメソッドで書いた申請書が採用内定になりました.専門は機械系です.
一定の成果は出しましたが,私が述べているのは申請書が勝手に完成する方法論で,採用される申請書を書く方法論ではないので悪しからず……

幸か不幸かDC1→DC2(一回目)→DC2(二回目)と三度学振申請書を書き,自分なりにある程度ノウハウが蓄積したので,ここにまとめておきます.申請書様式の指示は曖昧であり何から手を付けて良いか,何がゴールなのかよくわかりませんでした.こんな調子なので遅々として進捗が生まれず,ブラッシュアップもままならない状況が続きました.このような状況を打開し,一貫した考えを持って申請書を作成するためにはどうしたらよいか自分なりに考え,ここに記すような方法にたどり着きました.時間はかかりますが,自分の努力に意味があるのかないのかよくわからない状態からは抜け出せるので,精神衛生状態が大きく改善しました(個人の感想です).偉そうに高説をたれていますが,私は学振特別研究員ではありません.そして合否が分からない段階(2023年6月)でこの文章を書いています.判明次第合否は追記しますが,文章の内容が尤もらしいかどうかはご自身で判断ください. 構想から完成に至るまでの学振の申請書作成手順をこの文章ではまとめました.(文章の書き方を体系的に学んだ方には当然の技能かもしれませんが)申請書の様式を参考に段落を立項し,各段落に記述されるべき要素を検討したうえで,それぞれ記述します.その後全体の流れを確認し,文章を整えます.このサイクルを繰り返し,申請書を完成までブラッシュアップします.以下具体的に記述します. なお本文の内容はほとんどが申請書を添削して下さった諸先輩方,先生方が陰に陽に示してくれていたことです.つまりこれは,先達におんぶにだっこで書いた文章であることを先に述べておきます.ありがとうございました.


どのようにして文章を書くか

研究計画書を複数の(意味)段落に分けて書きました.各段落ごとに次のように進めます.

  1. 各段落で含まれるべき要素を検討する.

  2. 文章量の多寡はあまり気にせず,全ての要素を包含するように文章を作成する.

  3. 段落間のつながりがよくなるよう,表現を整える.

  4. 既定の様式内に収まるよう,文章を調整する.

基本的には1.の段階で段落間のつながりを意識して要素を検討するため,3.では表記ゆれの統一等で十分対応可能のはずです.

申請書全体を通した戦略

  • 何らかのワンメッセージを設定し,これの重要性が伝わるように申請書で繰り返し説明する. ここでワンメッセージとはすなわち後述の「2.1.1 研究目的」にあたる.

  • 研究計画書の体裁をとるが,実際には研究者個人としての優秀さや将来有望性が審査されると考えた. つまり申請者が優秀で,優れた考え方を有しており,国の財源を以て養成するにふさわしい人物たりえると,申請書全体を通してアピールし続ける.

  • 表記ゆれは徹底的に排除する.文章中だけでなく,文章と図の文言も表記ゆれを排除する. (表記ゆれは意識的に注意しないと排除し得ない.)

申請書に含まれるべき要素

以下に示す要素はあくまで私が考える一例です.草稿をチェックする際は,常に各要素が過不足なく含まれているか確認します.要素と無関係の内容はそぎ落とします.あるいはそれを必要な新要素として立項するべきか検討して下さい. ここでの鍵は,(結果的に)あらかじめ申請書に含まれるべき要素を決めておくことです.これらの要素は研究者や申請書毎に異なるはずです.繰り返しますが,以下に示すのはあくまで一例です.

(1) 研究の位置づけ

1.1 当該研究分野の背景

  • 研究課題を理解するうえで必要となる背景知識,前提

  • 社会的 and/or 学術的問題提起

  • 本研究の大目標(上記の問題が解決されることで得られる具体的成果)

※ 具体的な研究計画に関する記述は,必ずしも必要ない.

1.2 当該研究分野の課題

  • 具体的な課題

  • その課題が解決されるべき重要な指摘であることの説明

  • その課題が何故課題であるのか,具体的理由(理論・手法的困難点,研究分野における盲点である等)

  • 課題が解決した際に得られる具体的なメリット ※これは1.1 当該研究分野の背景で提示した「本研究の大目標」と対応させます.

1.3 着想に至った経緯

必要条件ではありませんが,自身の研究成果(必ずしも論文化している必要はない)を着想元にすることを強く勧めます.

  • 本研究課題や「1.2当該研究分野の課題」を着想したアイデア.

  • 文献,論理等アイデアを補強する証拠 ※ 何らかの自身の成果を証拠として提示する

  • そのアイデアが「1.2当該研究分野の課題」を解決し,1.1で設定した「本研究の大目標」が達成されることの強調

(2) 【研究目的・内容等】

2.1 研究目的・研究方法・内容

2.1.1 研究目的

”学振は1ページ目で決まる”とはよく言われますが,「2.1.1 研究目的」の設定がその1ページ目の良しあしを大きく左右します.「2.1.1 研究目的」は所謂1ページ目ではないですが,この目標は1ページ目で必ず示されます.すなわち達成された際には,大きな学術的・社会的課題が解決し,そしてあなたが研究者として大きく成長できる,申請書全体を貫く幹のような目標設定が必要です.申請書ではこの目標ワンメッセージを繰り返し説明します.「2. 【研究計画】」では「2.1.1 研究目的」と「学術的・社会的課題」の対応を,「4. 【研究遂行力の自己分析】」以降では「研究者としての成長」との対応を繰り返し伝えてください.

  • 1.1で示した「本研究の大目標」に向け,本研究の目指す個別具体の目標の提示 ※1ページ目で使った表現を,なるべくそのまま用いることが好ましいです.繰り返しもOK

2.1.2 研究内容・方法

研究内容と研究方法を別で立項して記述する必要性が無かったため,統合しました. 具体的な内容・方法が複数あるなら,項目立てると良いです.
「研究内容・方法」と次の「2.2 どのような計画で……」は混同しがちですが,私は次のように考えました.研究課題における手法を,ある種の関数のようなものとして考えます.即ち,特定の入力(手法におけるパラメータ)に対して返り値(研究によって得られる結果)を返すような機構として捉えてみます.
研究手法(関数)の中身の詳細な記述は不要です.論文や学会のアブストラクトとは読み手が異なります.学振の申請書は専門外の審査員に向けて書くため,研究手法に関する詳細を説明してもほとんど理解してもらえないと考えるべきです.

  • 研究手法(関数)の背景知識などの具体的説明

  • 研究対象(入力)の説明

  • 「1.2 当該研究分野の課題」の解決方法

  • (複数項を立項しているなら,各項が「2.1 研究目的」や「1.2当該研究分野の課題」におけるどの要素に対応しているかの記載)

2.2 どのような計画で,何を,どこまで明らかにしようとしているのか

  • 研究手法(関数)によって得られる成果(必要に応じて研究対象(入力)は再度説明する.)

  • 研究のロードマップ(いつ,何をやるのか)

  • 特別研究員としての採用終了後に,発展的に得られる成果

2.3 A区分かB区分か

生じるデメリットはないので,とりあえずB区分で申請すればいいと思っています.得られるお金を最大化する工夫は常にしておきたいです.B区分の研究ができると更に高い成果が出せることが,審査員に伝わるよう書きます.A区分が「小目標」,B区分が「大目標」といった具合でしょうか.

  • A区分の研究範囲(とそれによって得られる成果)*

  • B区分の研究範囲(とそれによって得られる成果)*

  • B区分で必要な経費の内訳

  • B区分で追加の経費が必要な金銭的理由

*成果については,これまでにうまく強調できていれば明示の必要はありません.
長々と書いても仕方が無いので,次のように書いてみてはどうでしょうか? 例) 本研究では〇〇のXXについて調査する(A区分の研究).更に△△することで◇◇すら可能である(B区分の研究).△△のためには□□が必要となるため,本研究はB区分で申請する. ※ 〇〇・XX・△△・◇◇・□□は研究内容に応じて具体的に記述してください.

2.4 研究の特色・独創的な点

申請書のフォーマットに従えば,以下の3項目を小項目として立項できます. 正直「2.3.1 特色・独創的な点」と「2.3.2 先行研究との比較」の間にほとんど差は無いでしょう.(特色や独創性は先行研究との相対比較によって得られるため)
ただし立項する以上差異は明確にしておきたいので,私の申請書では次のような要素を各項目に取り入れ差別化を図りました.

2.4.1 特色・独創的な点

本研究課題の考え方や位置づけの観点における,特色・独創的な点を「1.3 着想に至った経緯」や「4.1 研究に関する自身の強み」あるいは「4.2 今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」とつなげて述べます.

  • 本研究の特色や独創性が現れている考え方

  • [4.1研究に関する自身の強み」の観点からみた,本研究課題の特色・独創的な点

  • 「4.2 今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」の観点で見た,本研究課題の特色・独創的な点 ※ 4.2では特色・独創的な点を確立するために要素が必要であると述べる,等

2.4.2 先行研究との比較

差別化の工夫は「2.3.1 特色・独創的な点」で行ったので,素直に先行研究と比較します.

  • 先行研究に欠けていた視点

  • 先行研究で不足していた点がどのようにして補完されるのか

  • 先行研究がどのように発展されるのか

2.4.3 予想されるインパクト,将来の見通し

  • 採用終了後に本研究課題によって得られる具体的な成果

  • 成果が与える社会的・学術的利益

  • 成果を利活用した具体的な応用手段

2.5 申請者が担当する部分

  • (もし大きなプロジェクトに関わるのなら)プロジェクトの中で申請者が担当する範囲の具体化

2.5 受け入れ研究機関と異なる研究機関における研究計画

私は書いてないので,ざっくり考えました

  • 受け入れ研究機関名と受け入れ先の指導教官

  • 受け入れ研究機関で行う研究の概要

  • 本計画における上記の研究の位置づけ

(4) 【研究遂行能力の自己分析】

(1)研究に関する自身の強みは,各項目について個別具体のエピソードを交え,成果を強調しながら自身の強みをアピールする箇所と捉えました.続く「今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」及びページを跨いだ「目指す研究者像等」までは,一連の「エピソードトーク」として面白く・わかりやすく書くべきでしょう.
ここではエピソードトークのことを,(「着想点・開始点」)→「過程」→「結果」の行程について,特に「過程」を個別具体のエピソードを使って述べる記述方法とみることにします.「着想点・開始点」や「結果」はありきたりで,ありふれた内容で全く問題ありません.ここで重視されるのはそのような「結果」に至った「過程」であると思います.ただし「過程」も何ら特別(留学経験など)である必要はありません.必要なことはあなた個人の体験を,読み手が情景や様子を想起できるように記述するだけです.
一応,私が考えるエピソードトークの悪い例/良い例を示しておきます.悪い例では「過程」における申請者のパーソナリティが見えません.良い例では申請者の決心に至る「過程」が具体的に述べられています.

  • ×悪い例:私の住む村は年々鬼による被害が増加しており,金品や家財道具の強奪が多発している.被害の根本的原因である鬼の退治が必要であると考えるようになった.

  • 〇良い例:私の住む村では鬼による被害が多い.6歳の時仲の良かった友達の家が襲われ,家財道具すべてを鬼に奪われてしまった.友達の悲痛な顔は今でも思い出せるほどだ.この時私は被害の根本的原因である鬼をいつか退治すると決心した.

4.1 研究に関する自身の強み

  • (「着想点・開始点」)→「過程」→「結果」の三行程のそれぞれ説明

  • 「過程」における個別具体のエピソード

  • 「過程」や「結果」と関連する成果

4.2 今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素

ここで提示する要素を得ることで,目指す研究者に至るストーリーになるように設定する.

  • 具体的な要素

  • その要素が必要と考える理由

(5) 【目指す研究者像等】

エピソードトークを継続してください.

5.1 目指す研究者像

  • 目指す研究者像

  • 「研究者」を志すきっかけとなった原体験を示す個別具体のエピソード

  • 自身の研究哲学に関する記述

  • 自身の研究哲学を醸成するに至った個別具体のエピソード

  • 今後研究者として更なる発展のため必要と考える資質,及びそれを必要とする理由

  • 上記の着想を得るに至った個別具体のエピソード

5.2 上記の「目指す研究者像」に向けて,特別研究員の採用期間中に行う研究活動の位置づけ

  • 目指す研究者像

  • 研究活動をどのように捉えているか(研究活動の位置づけ)

  • 「4.2 今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素」を身に着ける方法

  • 上記に向けた具体的な取り組み

体裁に関する留意点

半分くらい私の好みです.

  • 本文フォントは「游明朝」,太字は「メイリオ」

  • フォントサイズ:11 pt(少し大きいですが,最後の最後で所定の様式を超えてしまっていた場合,10.5 ptにして切り抜けるバッファ確保の意味も込めて)

  • 強調は太字及び下線を使用

  • 太字にする表現

  • 図中に登場する表現

  • 2.【研究計画】,4. 【研究遂行能力の自己分析】,5. 【目指す研究者像】を通じて登場する,自身の研究哲学を端的に表す単語(あれば)

  • キラーワード(研究課題に関連するワクワクするような言葉のことです.あなたの指導教員がおそらく最も詳しいのではないでしょうか?)

  • 下線にする表現

  • 太字にするほどでもないが,重要な表現

以下は余裕があればやっておくこと

  • 太字にする要素は改行を跨がないようにする

  • 目線の左右移動のみで文と図を読めるようにする.つまり,特定の(意味)段落を説明する図はその意味段落の左か右に配置する.(特に1ページ目)上下移動は可読性を下げるため.

むすび

以上,参考になれば幸いです.文章に関する質問,改善点などは随時受け付けておりますので,ご連絡ください.

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