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月を隠して 第一章「月白」前編

第一章「月白」(前編)

 僕は半月が好きだ。


 星に願いを、なんて言うけれど、星よりも月の方が特別な感じがして思わず願い事をしたくなってしまう。

 いつからかそんなことを思っていて、いつからか月が好きだった。

 夜の街を温かく照らす満月や見えていないのに存在感で名前を残す新月もいいけれど、中でもやっぱり半月がお気に入り。上弦も下弦も関係なく。

 改めて考えるとなんでだろ。図形的な美しさもその理由な気がするが、ここ最近の生活を踏まえて考えると、自分の優柔不断さと半分だけ明るい月がどこか重なるのかもしれないと感じた。

 そんな月をぼんやりと眺めつつ目の前で流れる川の音に耳を貸していると夜の世界に自分が溶け込んでしまうような感覚になる。

 本当の自分がわからなくなる。

 これはここ最近の大きな悩みだ。


 僕は中学生のころからたまに気分転換の散歩に行く。向かう先はいつも同じ近所の河川敷。時間は夜がほとんど。

中学生の頃はそこそこ勉強も出来て完全に理系だった僕だが、高校に入って幾月日、その看板は完全に降ろされていた。しかし天文分野は断トツで好きだ。浪漫を感じる。学校に地学の授業がないのをとても残念におもっていたが計算とかは無理なのでこのように趣味程度に味わうのが良いのだと思うようになった。

そして今では河川敷に座って月や星を眺めつつ様々なことについて考える時間がとてもお気に入りの時間になっていた。


 今日は高校生活の折り返しが近づいていることを感じ考えていた。

 高校受験を頑張った結果、自分の志望校である高校に進学は出来た。だが、進学して新しい生活、青春を待ち焦がれていた中学生の自分に今の姿を見せてやりたい。どう思うだろう?

 中学生の時の僕はそれこそ可もなく不可もなくといった生活を送っていたように自分でも思う。幸い友人にも恵まれ、部活もそつなく楽しく過ごし、行事も積極的に参加していた。だが、高校一年に上がり、中学生の時に友達と思えていた人たちには新たな、僕よりも優先度の高い友人が出来、僕にはそのような人は出来ず、孤立した。

 高校生ともなれば多少みんなの意識も大人になり、こういう孤立している人のことを変に差別したりはしないのだが、逆にそれが僕の孤独を際立たせる。

 そんな僕は教室の花瓶入った花と本が心の拠り所になっていた。

こんな端から見たら平坦な、内心は絶壁な日々を送り、人生で一度の高校一年は終わった。


しかし、高校二年生の5月になって、僕の周りは色々と変わった。ここ最近を振り返ると様々なことが起き過ぎて正直少し疲れている。

さっきも言ったが、前までは特別に親友と言える人も居なく、一人夜空を眺めてはため息をついていた。今みたいに河川敷に来たとしても、たまたま出ている月や一等星にする相談ごとの大半は人間関係、というかそれ以前の問題がほとんどだった。

だが、ここ最近は学校で人と話す機会も少しずつ増えてきた。これは事実だ。向こうがどう思っているのかわからないので友人、とは言えないかもしれないけれどもそんな人たちとの業務的な会話以外の会話が増えていた。

安堵と言った感じではあるのかもしれない。

それはそれで嬉しいことなので別に悩み、ではない。不安はあるけど。

ただ、今は別のことで大層悩んでいる。

この悩み事は今迄と違って群を抜いて僕を悩ませている。大問題だ。今までの問題が太陽レベルなら、この問題はベテルギウス級だ。

「はあ、苦しい。」

そう呟いてもそんな小さな声は目の前の川のせせらぎにすらかき消される。あの月にすら届くことはない。

まあ、僕の悩みは宇宙の塵よりも微塵だ。一旦、寝るまでの間は頭のどこかに置いておこう!(じゃないと明日の学校に行けなくなってしまう!)

一度だけ大きく伸びをして、今日も帰路に就く。帰ったら学校の課題をやらないと。

こうして僕は再び地球に帰って来るのだった。


学校に行っていつものように授業を受ける。

一年生の時は受験の流れで勉強の習慣があり、内容は難しくなったもののなんとか付いていけていた。それに僕には時間だけはあったので。

でも、新学年になって一か月、僕の頭は上の空も空の上に突き抜けていた。

今は数学の時間。かつて理系だったからこそちゃんと聞いておかないといけないのに、ベクトル、というものは僕の頭を突き抜けて後ろの黒板に刺さっている。なにも頭に残っていない。

こうして理解を諦めた僕は窓辺の席なのを良いことに窓の外の景色を眺めて悩み事に頭を支配させた。

本物のベテルギウスはどうやら既に超新星爆発を起こしているなんて話も聞いた気がするが、僕のこの問題は今が最盛期である。どう対処すべきか。

と、言っても結局は「いつもとなにも変わらない、毎日太陽が昇るくらい同じ。」で脳内国会の議決は結ばれるわけだが…まさかこれほど悩まされるとは。

ううううう!


端的に言えば僕は恋をした。それも一目惚れ、初恋。

我ながら単純だな、と思うが、案外みんなこんなものなのだろう。…だよね?

とある人の出現によって僕の地平から明かりが昇り出したかに思えた。しかし僕はそれをただ眺めることしかできない。手は届かないと何度言えば!

話は一か月前、四月の頭に戻る。


新学年の新学期、僕は高校二年生になった。

高校二年ともなればすでにコミュニティも出来上がっているため、既に知っている人同士や、話に聞いたことのある学年の有名人との出会いがあるくらいだろう。教室内では「あ、お前あの軽音部の人か!」なんて言葉が飛び交っている。ほらね。

当然僕はそっち側ではない。自分から声をかける勇気もないので、一年の時と同じように趣味の読書に耽る。本はいい。既定路線を僕の目がなぞり、脳が理解するだけ。極めて受動的。展開に裏切られることもあるが、ほとんどの場合は爽快なので不問だ。

少しして新しい担任が教室に入って来た。と言っても一年生の時から現代国語を教えてくれていた人なので、みんなが知っている人だ。簡単に先生が自己紹介をし、これから先しばらくの説明をする。

僕の高校では6月に任意参加の競技大会が、9月に文化祭、二年生の10月には修学旅行がある。これらすべてのイベントは一学期から色々と決めないといけないので、まずはクラスで軽い自己紹介を行い、クラス委員を決めるとのことだった。

僕は小日向こひなたかおるなので出席番号はいつも真ん中ぐらい。今年はど真ん中の20番。前の人たちが作って来た自己紹介の流れをそのまま答えればすぐに流れる。なんてことはない。

と言っても自分の順番が近づくとちゃんとド級の緊張を発揮する。

少し前の人がお決まりなのだろう「名前はシュウトだけどキーパーやってます!」なんていうことを言って他の男子から少しいじられる。そんなおちゃらけ僕には出来ないよ!?と内心で言い、心臓の音だけを聞いていた。早く過ぎろー。

そして自分の前になり、俯き加減に自己紹介をする。

「小日向薫と言います。趣味は読書です。部活には入ってません、よろしくお願いします。」

無難に終わる。パラパラと拍手があった後、先生から好きな作家や作品を聞かれたので、クラスの半分くらいが知っていそうな有名作家の名前とメディア化もされた作品を挙げる。こういう時は無難が一番。

そして自己紹介は次の人へ。まあ僕の自己紹介はこんなものなのが常。そろそろ定義化出来そうだ。

まあなんにせよ「やりきったぞ!」と心でガッツポーズ。ここからは他の人の自己紹介を聞いていれば終わる。聞いていなくても終わる。

去年も同じクラスだった人もいたが、関りはほとんどなかったので「ああ、そういえばその部活の人ね」といった感じで一応聞いていた。


そして、その人の自己紹介の番がやって来た。

一番前の席、席を立ち、こちらに振り返る。

僕の世界に静寂が訪れた。教室が真空になったように急に喉の当たりが苦しくなり、音も聞き取れなくなった。

いつ思い返してもこの瞬間はスローモーションで思い出される。目は合っていないだろうが、宇宙に彼女しか存在が無いような感覚。目を奪われた。見惚れた。我ながら単純である。

僕の中でインフレーションが起きた。

その後の休み時間。

かろうじて彼女の名前だけは憶えている。他の情報は正直なにも残っていない。

僕を刹那のうちに虜に仕立て上げた彼女の名前は月地つきち雅兎あとらしい。なかなか珍しい読み方をするからか、自分から漢字の説明もしていた。そこまでは覚えている。

雅な兎。

確かにこれで「アト」と読むのは珍しい。なんなら名前自体も珍しいと思う。

だがそれよりも、名前もとても素敵である。

僕は月地さんが絶対に良い人だと確信した。


あとはそれにサラサラと靡く長髪は彼女の日頃からの丁寧さが伺い知れ、ピシッとした制服からも繊細さが伝わる・・・。美しい。という印象が強烈に残った。

当然表には決して出さないが、内心だけはかなり浮かれていた。その後の人たちの自己紹介なんて覚えていない。

彼女は僕の暗い冷たい学校生活を照らしてくれるかもしれない!と、そう思った。

だが、自己紹介も終盤に差し掛かったころには、こういう時ばかり急速回転する脳で行われた会議によって「無理」ということが議決されていた。

そうだ。僕が一目惚れしたところでこのことは墓場まで持っていくしかない。僕に何ができる?

考えたところで未来は明るくない。ちゃんと断言できる。

彼女の太陽のような眩しさが逆に僕の心をどんどん冷たくさせた。

まるでアイスアルベドフィードバックだ。


しかし、残念なことにあれから一か月、今の今に至るまでちゃんと好きなままだ。

初恋だし仕方あるまい。

ということで誰か僕の相談に乗ってくれ!

相談できる人いないんだった!

授業中でも脳内でツッコむ。

はあ、なにやってんだろ。僕らしくない。


僕の脳内は昔から五月蝿い。頭の中を様々な想像妄想が常にかけている。内容は多岐にわたるが、悩みや不安、そしてそれを紛らわす夢見な妄想。そんな妄想では大体の場面で僕が活躍している。中学生の時に友人と呼べる人に「教室に侵入してくる不審者をどうやって撃退するのかつい考えちゃわない?」と言ったところ案外男子はみんなそのような妄想をするということがわかり、それから人にこの話をすることは無くなったが頭の中はあのころと変わらない。変われない。

きっと他の男子も同じ様な事を考えているものの、だんだんその頻度が減って大人になるのかもしれない…。

僕の場合は月地さんを見てから圧倒的に頻度が増えてしまった。彼女にどうやって話しかけようか、どんなシュチュエーションがいいのか、どんなきっかけがあれば!

そんなことばかり考えている。そう。まだ僕は言葉すら交わしたことがない。

こうしているうちに授業中は終わり、放課後には「無理」となる。これを繰り返す。

毎日太陽が昇るように、毎日学校で月地さんを見かけると思い、敗れるのだ。


月地さんに話しかけられないのは当然として、そのうえで友人と呼べる人が居ないと言ったが、別に誰とも一度も話さないわけではない。そつなく必要があればクラスの人とは話す。

それに僕は図書委員だ。もう一人の図書委員とはとは仕事のことを含めてたまに話す。あくまで事務的なことが多いからきっと向こうは僕のことを友達とは思っていないだろうから友達ではない。僕はクラスであくまでもモブだ。村人Kなのだ。

そんな僕にとって図書委員は好都合。昼休みや放課後は図書室にいて仕事が無ければ趣味の読書に耽ることが出来る。去年も図書委員だったので仕事の勝手もお手の物。結局、別のことで時間を多く支配した方が良いのだろう。

そういえば先週の金曜に担任が急に「席替えするかー」と言って席替えが行われた。当然席替えと決まった瞬間星に願った。それはもう願いまくった。唐突な先生からの提案で嬉しいことなんてそうそうないから余計に。だが、まあ結果は叶わず。

そんなもんだよな。

僕の妄想はだいたい外れる傾向にある。


新しいクラスで早一か月ほどが経ち、ようやく景色に見慣れてきたころだったが、週明け新しい席替えのクラスに入るとまた別の新鮮さがあった。

こういう観点からも席替えというのは有効なのかもしれない。飽きさせないことで授業をちゃんと受けさせるとか?知らないけど。

そしてそんなことを思う今日、担任からとある次の宣言を受けた。

 「来週、修学旅行の班を決める。」

 秋に行われる沖縄への修学旅行。その班を来週決めるというのだ。今までの僕ならどの班でも構わないと言っていた。しかし、今は別だ。出来れば月地さんと同じ班になりたい!お願いします!

 まあ、そうは言っても僕にはどうすることもできない。今日は週初めの月曜日、来週までに一体何ができるというのか?精一杯でも願掛けしかできない。それに、あの人はなかなかに日当たりの人間だ。と思う。日陰に自生する僕に勝ち目などない。

 とりあえず一週間考えてみるが、きっとなにも浮かばないだろう。


結局、なにも特別なことは起きず、浮かばずに土曜日を迎えた。悪魔に邪魔でもされているのだろうか?

一旦あれらのことは彼方に追いやり、今日は母方の祖父母の家へ家族で出かける。

 いい気分転換にでもなってくれ。

 母方の祖父母は隣の県の山間部、僕の住んでいるところよりも田舎なところに住んでいる。ちなみに父方の祖父母はかなり遠いのでめったに会えない。

ここは相当な田舎だが、僕はこの静かな感じも含めて祖父母の家がとても好きだ。

さらに祖父は僕と同じで読書が趣味なので、祖父の書斎には蔵書がかなりの数存在している。静かな土地で読書に耽るのはとても気持ちが良い。

 祖父歩家に着くとまずは祖父から借りていた本を返し、感想を述べ合う。

 それが終わると僕は二階に上がり、いつも読書をさせてもらっている部屋へ向かう。

 この部屋はベッドや勉強机、そして本棚があり、かなり生活感が残っている。部屋の外には小さなベランダがあり、そこに机といすを出して本を読むことだってできる。

 僕は幼いころからこの部屋がえらく気に入っていたようで、物心ついた時にはこの部屋のベッドの上や机で本を読むようになっていた。最近はベランダでそよ風居当たりながらもしばしばである。

 祖父には昔、若くして病気で亡くなった兄がいたと聞いており、この部屋はそのお兄さんが最後を過ごした場所なのだそうだ。

 僕は物心つく前からこの部屋がお気に入りらしいので特別なにか感じることもないが、かつてこの部屋で病気に苦しんでいた人がいると考えると不思議な感じだ。僕が今まさに寝転がっているこのベッドも兄さんの遺品の一つなのだ。

 しかし慣れているので今日もベッドの上を借りることにする。

今日は読みかけの推理小説を持ってきた。さっそく読み始めよう。


 しかし、集中できない!

 一人になるとつい考えてしまう。

 向こうも読書が好きだったりしないだろうか?休日はなにをしているのだろう。

 一度浮かんだ議題は結論が見えていてもなかなか降りてくれない。

 はあ、本当に…。


 仕方がないので一度下に戻って祖母になにか飲み物を貰うことにした。

 聞くとシソジュースならすぐに出せると言うのでそれをも打った。

 シソジュースは祖母の家では定番の飲み物で、僕は好き。

 「うん、やっぱ美味しいよ、ありがとう」

 一口飲んで感想を伝え、二階に戻る。

 「誰か助けてくれよ・・・。」

 溜息のあとにそう呟き、シソジュースを飲み干す。

 そして僕はなんとか読書に戻った。


 その後はすっかり読書に集中し、気づいた時にはお昼時、祖母のお昼の準備ができたという声に現実世界へ引き戻された。

 僕は祖母が作るかんぴょう巻きがとても好きだ。かんぴょうが全国的なものかは知らないが、知らない人はすぐにインターネットで取り寄せた方が良いだろう。

 今日はそのほかに揚げ物や煮物など何でもありな豪華ランチ。祖母の料理の腕は素晴らしい。

 お昼を食べながら祖父母と学校のことなどをあれこれ話す。少し脚色は加えているが。 

 もちろん恋煩いのことなんて話さない。

 あと、祖父とはご飯の時に必ずと言っていいほど本の話をする。少し前に祖父の蔵書に中から夏目漱石の作品集を借りていた。今度授業で「こころ」をやるので先に読んでおいたのだ。

 祖父なりの解釈と自分の解釈を話すが、だいたい祖父の考えの方がすごい。いつも納得させられてしまう。今回も「こころ」について色々と聞かせてもらった。「こころ」は祖父のお気に入りらしく、今日の話は特に面白かった。学校のみんなも祖父に教えてもらったほうが良いのではないか?と思ってしまう。

 そんなこんなで話し込んでいるとすぐにおやつ時を回っていた。僕はもう一度お兄さんの部屋を借りて「こころ」を少し読み直してみようと思った。今度はベランダを使おう。

読み始めて少し、祖母がクッキーを焼いて持ってきてくれた。僕はそれを食べながら読書を進める。

 少し読み進めて改めて祖父はすごいと感心していると、タイミングよく祖父が部屋に来た。様子を見に来たみたいだ。

 またいろいろと話す。今日も本を持って帰ることを承諾してもらい、一緒に下へ降りる。 

昔からなじみの近所のおばさんが来ていたので挨拶と世間話を、そして恒例の「大きくなったねぇ」をもらう。

弟のことも聞かれた。

言っていなかったが僕には弟がいる。今日は部活の都合で来られなかったのだ。弟は僕とは正反対で活発だ。サッカー部でエースをしている。

ちなみに祖父のお兄さんもなかなか活発だったようで、よく自分たちとは正反対だなと思うし、言われる。

 そうこうしていると夕方になった。そろそろ帰らなければならない。祖父に本のことを言われて二階の本棚へと向かう。本棚は祖父の書斎とお兄さんの部屋の二ヶ所にあり、どちらから借りるかはなんとなくで決めている。今日はお兄さんの部屋に本を借りに向かった。

 本棚の前に立つといつも不思議な気持ちにさせられる。一見古そうに見える本棚。人に言わせれば相当味があるというだろう。ただの本棚であるが、この前に立つと毎回新鮮さと懐かしさを混ぜたような気持になる。

未知の物語との出会い、まだ知らない世界がどこかにある。そのワクワク感がとても好きだ。

一つ一つ眺めていく。何がいいだろう。

お兄さんの本棚には天文分野のものが多い。祖父によればお兄さんも天文分野に関心が少しあったようで、いくつかそれ関連の本を読んでいたらしい。

幼いころからこの本棚からも僕は天文分野の知識を貰っていた。古いもので情報が今と違うこともあったが、時の流れを体感できた。

もうこの本棚の本はだいたい読んだ。しかし、読み直して気づくこともある。

まだ読んでいないものはきっと、ある。

一つ一つ背表紙を見て、たまに手に取り、中身も確認する。

どれにしよう。


その時ある本に目が留まった。

その本の背表紙はタイトルが書いてあるかもわからないほど色褪せていた。

こんな本、前からあっただろうか?

手に取って中身を確認してみる。

「ん…?」

驚いた。

何にも書いていないではないか。白紙だ。色褪せて黄色っぽくはなっているが何も書かれていない。一応パラパラとめくってみる。

全部白紙。

始めの方のページの方が真ん中以降よりも色褪せがひどい。不思議。

僕が真ん中の方のまだ色あせていないページを何ページかめくると何かが落ちた。

床を見るとどうやらそれは「栞」のようだ。

白紙の本のちょうど真ん中あたりに挟まっていた栞。

拾ってみてみるとそれもなんだか不思議なもので、材質が何かわからないが柔らかくしなるもので、鉱石のような光沢がある。岩石を偏光顕微鏡で見た時のような感じだ。

なんだかとても不思議な感じだ。凄く引き込まれる感覚になる。もっとよく見てみたい。

しかし、よく見る前に一階からの母が呼ぶ声にさえぎられた。

すぐに降りると返事をして、もう一度本棚と向き合う。ちゃんと選べなかったが、昔読んだことのある薄い記憶にしかない本を借りることにした。

ついでに栞も持っていくことにした。なんだかすごく気になるし、なによりとても惹かれる。

白紙の本は本棚に戻し、一冊の本とその本の表紙裏に挟んだ栞を持って部屋を後にする。

部屋を出ようとしたとき、閉め忘れていたベランダの方の窓から温かい風が吹く。

慌てて窓を閉めて、もう一度部屋を出ようとするが、なんとなく振り返った。

しかし、振り返っても特に何かあるわけでもない。ただ夕焼けに染まったお兄さんの部屋があるだけであった。

一階に降りて祖父に借りる本のことと栞が挟まっており、それを持って帰りたい旨を伝えた。

「栞はあげるよ」と祖父は目を細めて言ったので僕はありがたくもらうことにした。

そして、両親に催促されたので手早く荷物をまとめる。

こうして祖父母の家を後にした。

またすぐに来ると言い、一時の別れを告げる。

僕が車に乗り込むと父がアクセルを踏む。祖父母は夕焼けの中、自分たちが見えなくなるまで手を振ってくれた。


帰り道は父にとって過酷であろう。

自分たちが祖父母の家を夕方に出てきた理由はこれだ。薄暗くなってきた山道はさぞ運転が大変だと僕でもわかる。父は毎度なかなかに集中している。

しかし自分はいつも山を越える前に寝てしまう。気が付けば自宅だ。

自分でも不思議だが、自宅付近になると自然と目を覚ます。きっと電車で目的地に近づくと目が覚めるらしいあれと同じだ。

家に着くともう夕飯時、家に入るとすでに食卓に腹をすかせた弟が座っていて、ゲームをしていた。

わかる。祖母の料理は美味しいからな。

祖父母の家から帰ってきた日の夕飯はたいてい祖母が大量に作ってくれたお昼の残りかわざわざ夕飯にと祖母が作ってくれたものだ。

母が手早く準備をして食事が始まる。

食事中は他愛もない会話をした。弟の今日の部活の話が中心で、今日の練習試合では3ゴールも決めたそうだ。普通にすごい。

弟にはあらゆる面で勝てないなといつも思い知らされる。

夕飯が終わると各々好きな時間を過ごす。日によってはみんなでテレビを見たりゲームをしたりするが、今日の僕はは部屋で過ごすことに決めた。もちろん目的があるからだ。

部屋に行き、ベッドに倒れこむ。そして今日借りてきた本を手に取る。

しかし今のメインは本ではない。

栞だ。

僕は表紙裏に挟んでおいた栞を取り出す。

全体的には黒っぽく、だが透明感のある不思議な色合い。中央には黄色い何かが描かれ、下方は青緑といった感じだ。

やはり不思議。この感想が最もしっくりくる。

何がというわけではないが、やはりこの栞は何か気になる。

鉱石のような質感や光沢、それに相反するようなしなやかさ。材質はなんだ?

しばらくぼーっと眺めていた。あの謎の白紙の本は結構古そうだった。数十年前とかのレベルな気がする。それに挟まっていたということはもしかしたらそれぐらい前なものの可能性もある。

見えにくい絵だが作者の意図を読み取ろうとベッドの上でうだうだする。そして、ふと部屋の照明に栞を透かしたとき。

「え……!?」

僕はここ最近で一番の衝撃を受けた。衝撃というか感動というか。

 思わず声が漏れたのも必然。

 「これは…」

なんと、透かして見ると全体的に暗かった栞に風景が浮かんだのだ。

草原と、満月、それから満天の星空。すごい。なんなんだこれは。もはや栞というか作品に近いのではないか。それぐらい美しい。

そしてもう一つ。文字が浮かんできたのだ。

栞の中央やや左、満月の左側に小さめではあるが文字が書かれている。


「月を隠して…」


よーく読んでみるとそう書かれている気がする。すごく読みにくい。それにそこに続く文はさらに読みにくく、何が書かれているかわからない。

コンコンっ

もう少しで読めるか・・・?というタイミングで部屋のドアがノックされ、僕は驚きすぎてベッドから飛び上がった。そして理由はないが栞を枕の下に隠した。こういう時はなぜだかこうしてしまうよね。共通認識だよねこれ。

「はひ・・・?」かろうじでそう言うと「あ、にいちゃん?」と声が返って来た。

ノックの主は弟であった。理科でわからないところがあるので聞きに来たようだ。

二年前のくらいの記憶だがギリいけるか…と思いつつ見せてもらうことに。

案外あっさりと疑問を解決でき、かつての自分の頑張りを賞賛する。

用の無くなった弟は部屋へと戻った。

そして栞をもう一度手に取る。

「うーーーん。」やはり美しい。僕のまさに好きな色で構成されている。

少し見ていたが、別にそれ以上の衝撃はなく、発見もなかった。

これのことはまたあとで考えよう。

そう思い僕は読書を始めた。


日曜日もだらだらといつもの生活をして、気づけば月曜日。

修学旅行の話は登校中に思い出した。

やばい。結局何も思いついていない。まあ何か思いついたとこで何もできないと思っていたのは前と同じだ。


とりあえず教室に入り、自分の席について読書をしよう。そう思っていたのだが、今日はそうすんなりとはいかなかった。

僕の席に人が座っていたのだ。

理由は見たらすぐにわかるごく単純なもので、僕の席の後ろのお友達と話をするためだ。

僕の席に座っていたのは同じ図書委員の月本つきもと冬乃ふゆのさんだ。

ああどうしよう。とりあえず席に向かうか?いや待て、もう少し外で待つか?様々な可能性を考えた。

月本さんは同じ図書委員だし仕事の話はするから別に普通にどいて欲しいと言うか…いや待て、仕事以外で話したことあったっけ?多分無いぞ。しかも月本さんはどちらかというと快活な側の人…成すすべ無し。

そんな感じで僕が棒立ちで頭だけ働かせていると、逆に向こうがそんな僕に気付いたようで、両手を合わせてこちらに軽く謝るポーズをしてから手招きしてきた。

よかった。どうやら無駄なマイナス想定は今回の場合は要らなかった。

 僕はありがたく席に向かった。

快活な彼女は席に近づいてきた僕にこれまた軽く謝ってきた。僕も感謝を述べて席に着く。

こうして僕の平凡な今日はまた始まった。月地さんは朝のホームルームが始まる直前にサラサラな髪を揺らして現れた。今日も心の中で拝むことしかできなそうだ。

そしていつものようにグダグダと授業を受けていると、とうとう運命の時はやってくる。

そう。修学旅行の班決めが始まった。


まずは先生主導で班の決め方を決めるのだが、前提としてやはりこのクラスは全体的に元気だ。

いわゆる「陽」の気質が多い僕のクラスでは、先生が提案した「くじ引き」というこれほどにない平等な制度は即棄却。とりあえず仲のいい人たちで集まる運びとなった。

さあ、僕はどうする。

今迄別にクラスのはみ出し者とはいかないまでも適度すぎる距離感で適度過ぎる程度の会話しかしていない僕と同じ班になる人間とは・・・!?

そんなことを僕が思考しているうちに大まかな班の決め方は確定していた。初めに男子は男子で、女子は女子で四人ずつ集まり、同じ人数の塊ができたところで男子班と女子班がくじ引きによって合体するという決め方だ。僕らのクラスは40人で、男女比がちょうど半分なので、5班が作られることになる。そこそこの大所帯だが、小分けにすると管理が大変だからと担任が言っていたこともありこれに落ち着いた。ついでに「すまんなー」とも言っていた。

といいうわけで決め方が決まったわけだが、ある意味で僕には好都合かもしれない。

そう。これなら僕にもあの人と同じ班になるチャンスはあるのだ。ランダム性万歳。

とはいえそう意気込んでいても、男子班を作るということも問題だ。クラスに一緒に修学旅行を巡るほど仲のいい人なんていない僕はこの段階でつまずく。

なるべく「陽」が強い人たちと同じ班は避けたい。多分、圧倒されるしついていけるはずがない。どうか、似た気質を持った人と同じ班になれますように…。

という僕の願いは神様が棄却、僕はサッカー部、野球部、軽音部という「ザ」な三人のあまり枠に先生の意向によって収まった。ちなみに先生は三人に「任せた」と言っていた。

普通に傷ついたので是非来年からはやめていただきたい。

ちなみにこの三人は言うまでもなくクラスの中心的人物たちだ。

まず、サッカー部でキーパーをしているという吉良きら秀人しゅうと、キーパーというだけあって、とても体つきが良い。タックルなんてされた日には軽く全身骨折だろう。はじめましての人には毎回「秀人なのにキーパーなんよ!」ということを言っているらしく、僕にも言ってきたが反応に困った。しかし記憶の片隅で自己紹介の時のあれかと納得した。

次は野球部だという江藤えとう隼汰しゅんた、非常にさわやかで優しそうな人だ。はじめましての僕にも笑顔で「話すのは初めてだよね、よろしく!」なんて言ってくれた。坊主でなければ今よりもモテるのは間違いない。引退したら最強だ。

そして三人目は軽音楽部でギターをしているという岸上きしがみ桃李とうり、比較的静かな方みたいだが、話し出すと普通に「陽」。前髪が長くて顔が隠れているだけだった。リードギターをしていると言っていたが、僕には違いが判らない。

とりあえず三人は悪い人ではなさそうなのでよかった。

ただ、僕は自己紹介でとても緊張してしまう。

「小日向薫です。趣味は、読書…」ってな感じだった。

しかし、三人は馬鹿にするでもなく、いじるでもなく「よろしく!」と言ってくれた。ありがたい。だから選ばれたのかもしれないが。

そのうえ、江藤くんは「どんな本が好きなの?」と聞いてくれた。なので、僕は好きな作家とライトミステリーが好きだと伝えた。


さあ、そんなことをしている間に女子班との合体くじ引きが始まった。

僕らの班員は全員「どこの班とでもいいよね」という空気だったので、くじは適当に江藤くんが引くことになった。

そんな裏で心の中では「どうかあの人と!」と願っている僕は当然いたわけだが、声にはならなかった。


頼む!江藤君!

どうか僕に月地さんと話すチャンスを…!


しかし、結果は、願いかなわず。

神様は僕でこんなに遊んで楽しいですか!?


「冬乃と同じ班だわー」

というセリフとともに戻って来た江藤くん、他の人も「お、楽しくなりそうだな」と笑っている。

月本さんとは仕事のことは話す方なのでまだましかもしれない。

気圧されるようなことはないだろうからましだぞ!と心を納得させた。

しかし、合流したあと、すぐにその考えに陰りが訪れる。

月本さんとは仕事の話以外はほとんどしないのでその時には感じないが、月本さんは想像以上に快活でテンションが高い方の人間だった。自分のことと考えず元気なクラスの景色だと認識していたがタイプは完全に「陽」。

僕以外の人とは気が合うだろうな…と思っていたら、案の定というか、それ以上だったことが判明。

なんと彼らとは以前から仲が良かったようで、完全にノリが出来上がっていたのだ。

聞こえてきた会話だが、どうやら江藤くんと月本さんは小学生の時からの知り合いだそうだ。

ちなみに女子組の方は月本さんと彼女の親友だという風上かざかみしずかさん、月本さんと中学の部活仲間だった鳥形とりがた夕乃ゆうのさん、そして、鳥形さんの親友だという花野はなの優子ゆうこさんの4人だ。

風上さんは僕より身長が高く、眼鏡をかけておりすごくクール。多分、怒ると怖いタイプ。鳥形さんはおっとりしている感じでとても優しそうな人だ。多分、僕のような人間にもみんなと同じように接してくれる。そして花野さんは、どうやら内弁慶タイプのようで、鳥形さんと話すときはとてもハキハキしている。多分、修学旅行とか学校行事ではノリノリなタイプだろう。

彼らが楽しそうにワイワイやっている時、僕は配布された資料に目を流し、頭の中で「ジ・エンド」を叫んでいた。完全に修学旅行を憂いていた。こんなはずじゃ!

月地さんと同じ班になれなかったことは当然残念でしかない。だが、ただ同じ班になれないだけじゃなく、それ以上の試練が待ち受けていそうでしんどい。月地さんの私服ってどんなんだったんだろうな。とすでに修学旅行終わりのような感想まで浮かんできた。


少しするとこんな僕を見かねてか江藤くんが声をかけてきた。どうやら班のオンライングループを作るようだ。その時女子組の人とも「よろしく」くらいの言葉は交わした。彼女らも同じ班になった以上は僕と多少のコミュニケーションをとってくれるようだ。

しかしさらに予想を裏切られ、その時間の終わりの休み時間、一番話しかけてこないと思っていた花野さんが話しかけてきたのだ。

「小日向君、読書好きなんだよね?」

「あ、はい、趣味程度には。」

「私もたまに読むんだけど、なにかおすすめしてくれない?」

「あ、えーと。普段はどんなものを読む感じで…?」

「あ、そういうんじゃなくて、小日向くんの好きな本でいいよ」

花野さんがそういったタイミングでチャイムが鳴ってしまった。

「ほんとに良かったらでいいから教えて欲しいかも。とりあえず連絡先追加しておくね」と言って花野さんはさっき作られたグループから僕の連絡先を追加した。交換するためには一言やり取りをする必要があり、向こうが既製のメッセージスタンプを送って来た。有名な夢の国のもので、キャラに似合う趣味をしているなと思った。


その日の夜、家の本棚の前で悩んでいた。

好きな本はなに?

これほど困る質問もまあない。もちろん好きな作品はある。だが、僕の目の前の本棚には正直言って好きな本しかない。「ハマらなかったな」というものももちろんあるが、その本にはその本の魅力がある。だからこそどれもが魅力的な本だ。

花野さんは普段どのようなものを読むのか?メッセージで聞いてもいいのだが、また同じように言われそうなので怖くて聞けない…。

どうしようかと悩んでいると、ふと勉強机の上に置かれた例の栞が目に入った。

そういえば結局何で出来ているのだろうと思い手に取る。光に透かせばまた幻想的な風景が浮かび上がる。

はあ、心の平穏が欲しい。

なんだか高校二年になって色々起きている気がする。決して悪い気はしないが、なんだか今までの自分と比べると圧倒的に大変だなと感じる。

栞の風景を見て一旦リラックスし、もう一度本を選ぶ。

うん。これにしよう。

僕は直感で一冊の本を手に取り、花野さんに写真付きでメッセ―ジを送った。


次の日、学校へ行き席に着くと花野さんがやって来た。ついでに月本さんも付いてきていた。

「小日向君、おすすめありがとうね。図書室にもあるかな?」

「うん、置いてあったはずだよ」

花野さんが少し意外な様子をしていた。理由はわからないが。

「ありがとう、冬乃に探してもらうよ」

花野さんはそういうと隣に居る月本さんの肩に手を置いた。結構仲は良いようだ。

「え、でも私まだ本の探し方わかんないよ!?」

月本さんには前に教えたはずなのだが…。そう思いながら二人のやり取りを見ていると花野さんが聞いてきた。

「ところでこの本のおすすめ理由はある?」

「あー、ええとね、僕が本を好きになったきっかけの作品なんだ。」

「なるほど、素敵だね、ありがとう」

その後も少し他愛のないやり取りをし、朝のHRを迎えた。

 ん?今、他愛のないやり取りをしたのか?


 そこから少しの間、特に変わったことはなかった。つまり、月地さんとも何もないということだ。

月地さんは人と話すときは明るい様子だが、積極的に話しかける方ではないようで、男子と話しているところはほとんど見たことがない。さらに真面目な性格らしく友達と話していないときは勉強をしているようだった。

最近では僕もそれを見習ってか真似してか休み時間には読書以外にも少し勉強をするようにし始めた。

とはいえ月地さんは普通に友達と話しているし、かなり普通な様子なので僕とは完全に違うタイプ。ちなみに月地さんは普段眼鏡をかけている。そしてその眼鏡を外したときがもう、「最高」なんですよ。もちろん眼鏡も好みだが。

まさかこんなに捕らわれるとは。さすがに何もなければ、会話すらできないのなら自然とこの感情も薄れると思ったのだが、一か月では無理なようだ。


僕は今までこのような感情に支配されたことが無かった。そのため小説の中に恋愛の描写が出てきても「ほーん」という感覚だった。友情に似た感覚だとばかり思っていた。  

なので今それらを読み返したら悶絶するかもしれない。

小説の中の人たちはこんなに苦しい思いをしていたのね、謝辞。


ある日ふと僕のスマホに通知が届いた。

普段通知なんて受け取らないので僕よりスマホの方がきっと驚いている。

送り主は江藤くんだった。

メッセージが送られてくることにも驚きなのだが、内容はもっと驚きだった。

「競技大会 ドッヂ出ようぜ!」

それは今度6月の中頃に行われる競技大会のドッヂボールに出場しないかというお誘いであった。あの明るさでメッセージが脳内再生される。

6月の中頃の競技大会は参加が必須ではない。事前に行われる競技が決まっており、各クラス、競技ごとの必要人数が参加希望を出せば出場できる仕組みになっている。

まあ結局運動好きの人が出場しまくってほとんどの競技が必要人数を満たすようだが。

ただ、ドッヂボールは参加人数が十~十五人なので少し多い。さらに競技によっては試合時刻が重なり、思うように運動好きだけでは人数を埋めることが出来ないことが多いと聞く。きっとあと一人足りないとかそんなことなのだろう。

そして僕に声がかかった、ということ。でも、なぜ僕。

失礼ながら江藤くんに「なんで僕なの…?」と聞いてみると、「秀人と玲央も出るし、せっかくなら班のみんなで出たいなって思って!」と返って来た。陽の者たちのこのようなノリは相変わらず凄いなと思う。

運動は極度に苦手というわけではないが特別なにか運動をしてきたわけではないので技能がない。そんな僕で果たして何の役に立つのだろうか?と思うが、まあ盾にはなるだろう。それに、ここで断ると9人が競技大会に出られなくなると予想。それはそれでなんだか申し訳が無い気がするし、裏で責められても怖い。なので、一時間後に了承した。

返信するとすぐに江藤くんからも返事が返ってきて、早速グループに招待されることになった。今の高校生は何でもかんでもオンライングループを作る。ついていけない。

招待が来て、グループに入る。すると人数は最大参加定員ちょうどの15人になっていた。うん。人数の問題ではなく純粋に僕を誘ってくれたのか。素直に少しうれしくなった。疑ってごめんよ、江藤くん。

そして、グループのメンバーを見てみると・・・。

月地さんがいるではないか!

なんてことだ!ナイス江藤くん!

無限の天の川に隔てられた僕と月地さんに箸をかけてくれる彼は白鳥座!

僕はおもいっきり心の中でガッツポーズをした。

話しかけることは出来ないかもしれないが、近づくことはできるし、なにより関わりが出来た。それだけでも大きい。


しかし僕らには競技大会の前にクリアしなければならない壁があった。

そう。中間考査だ。

5月最後に行われる一学期の中間考査。科目は主要5科目なので、まだ期末考査よりも楽だが、うかうかしてはいられない。壁はもう来週に迫っていた。


ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!