台本を公開しながら更新して完成させてみる~「タイダルカフェ」という台本~

『タイダルカフェ』
湊游

・登場人物


店長
ニーサン

その他客たち

第1幕 第〇部


 呼び鈴が鳴る。客が一人店に入ってくる。

僕 いらっしゃいませ。
ニーサン カフェインレスコーヒーひとつ。
僕 かしこまりました。

 僕はキッチンに向かう。

店長 飲まへんの?
ニーサン わざわざ聞く?
店長 まあ過程くらい。
ニーサン 3レース目までは勝ってた。最終よ最終! カイザー来ると思ったのに……。
店長 それ先月と同じパターンやん。
ニーサン そうだっけ?
店長 負け方くらい変われよ。
ニーサン いいんだよ。俺が楽しかったら。
店長 分かりやすいカモやなあ。
ニーサン 夜はこの店のカモですよ。
店長 お、それは知っとるんや。
ニーサン 今晩も性悪キツネさんにお世話になります。
店長 何でもかまへんよ。毎晩お待ちしとります。

 コーヒーを運んでくる僕。

僕 カフェインレスコーヒーです。ごゆっくりどうぞ。
店長 ニーサン、この子新しいバイトな。名前はボク。
僕 初めまして。
店長 こっちはニーサン。
僕 兄さん?
ニーサン ニーサン。本名が新井(にい)だから。そのまんま。
店長 いつもフラフラしてそうやろ。
ニーサン ちょい待ち、そういうことだったの?
店長 だって実際そうやん。今年で何歳になりましたか?
ニーサン さんじゅ……じゃねえよ。
僕 仲いいんですね。
ニーサン 君も変わってるな。君ってかボクか……。ボクってややこしくない?
店長 俺はわかりやすいで。
ニーサン まだ名前覚えれるようにならないの? この仕事してて。
店長 いやだから覚えやすい名前をつけてるやんか。
ニーサン ね。この人も変わってるでしょ。
店長 どこが。
ニーサン ボクってのは何で?
僕 何でなんですか?
店長 ぼくぼく言ってるから。
ニーサン すげえな本当。君……ボクはいいの?
僕 はい。特に。
ニーサン 受け入れ早いね。まあその方がここではやっていきやすいよ。じゃあ、ボク、よろしくね。
店長 何でニーサンが言うてんの。
ニーサン いやいや。まあ、この人のことで困ったことあったらいつでも言ってくれたらいいよ。
店長 いらんいらん。ニーサンはそのすぐ若い子にあけっぴろげに行くんが良くないんや。
ニーサン 何が。
店長 お前こそ鈍感なとこあるぞ。大体えだまめが結婚してから店来なくなったんもお前が距離近すぎたからや。
ニーサン ええ! そんなはずないって。えだちゃんが?
店長 そんなはずあるの。ボクはそこまで若くないからここで注意しとくけど。
ニーサン いやいや、そんな……ってか今のはボクに失礼でしょ。
僕 僕はそんな気にしてないですよ。事実なんで。
ニーサン 大物だ。
店長 まあニーサン、つまりそういうことやから。
ニーサン えだちゃんごめん。
店長 レースよりこっちが大事やからな。
ニーサン はい。
僕 レース、競馬ですか?
ニーサン うん。僕も競馬するの?
僕 本当の競馬はまだ行ったことないです。
ニーサン どういうこと?
店長 最近はスマホで競馬のゲームもあるんやって。
ニーサン だから最近若い子が! え、どんなんなの?
店長 近いって言うとるねん。
ニーサン これくらい。
僕 こんなのです。

 僕はスマホの画面をニーサンに見せる。

ニーサン ええ? アニメっぽい女の子?
店長 いわゆる擬人化やってな。
ニーサン そう言えば戦艦でもそんなんあったね。
店長 俺はようやらん。けどな、ボクはこういうのすごい詳しいねん。
僕 前の会社がこういうアプリ作ってた所だったんです。
ニーサン すごいじゃん! へー、オグリキャップ。葦毛だもんねなるほど。 ダイワスカーレット……ブリンカーが青だから⁈ カレンチャン‼ やばいな。これはイケナイモノを知ってしまった。
店長 なに気持ち悪いこと言うとるねん。
ニーサン アンタにはわからないよ! このノスタルジーが。
店長 いや、わからんでええけど。
僕 このゲームに出てくるの引退した馬ばっかりなんですよ。
ニーサン ああ! 
店長 それで。
僕 よくできてますよね。年上の層も取り込んでて売り上げすごいんです。
店長 俺ら世代にも刺さるやつがおるんやなあ。
ニーサン すごいな。これ作ってたんだ。
僕 いや、僕が働いてたのはこんなメジャーじゃないです。
ニーサン え。
店長 もうほんまに……。
僕 あ、気にしないでください。
ニーサン ごめん。いや、でも本当色々教えてくれてありがとう!
僕 いえいえ。
店長 知っとくだけにしとけ。レースで負けてゲームでも負けてどないすんねん。
ニーサン おいおい、最初から負けることを考える奴があるかよ。
店長 目に見えてるやろ。反省会ちゃうんか。
ニーサン そうです。じゃあ今日はこの辺で。

 ニーサンはコーヒーの残りを飲んでレジに向かう。僕はそれに続く。

僕 ありがとうございました。
店長 ありがとう。
ニーサン ごちそうさま。

 ニーサンが店を出ていく。

僕 ニーサン、常連の方ですか?
店長 そうやな、常連てか元従業員。
僕 そうなんですか!
店長 今は別の仕事してるけどな。
僕 へー。
店長 あ、別になんもないで。店の最初の頃に手伝ってくれてたんよ。
僕 ああ。
店長 クセあるけど、おもろいやろ。
僕 クセ……そうですね。いい人ですね。
店長 それにしてもボク、ほんまに詳しいんやなあ。
僕 いや、全然たいしたこと。
店長 そうや。そろそろ新しい仕事もやってみるか。いや、ボクやったらピッタリかもしれん。
僕 なんですか?
店長 この店のことをもっと広めたいからな。WEBでのアピール増やしたくて。
僕 ああ。そうですね、せっかく前職やってたんだから。
店長 詳しい内容は明日やろうか。
僕 はい。
店長 ほな、今日はそろそろあがろか。あ、そうや。これいる?
僕 なんですか?
店長 月桂樹。
僕 月桂樹? あ、この匂い、ローリエですか。
店長 そうそう。
僕 ありがとうございます。シチューとか作るときに使います。
店長 ほなら、好きなだけ取っていいよ。

 店長は月桂樹を取り出してきた。

店長 これはええやつやで。
僕 ですね! こんな大きな葉っぱのもあるんですね。
店長 しっかり育ててくれとるからな。
僕 これはどこで?
店長 3年前くらいの地産マルシェで知り合いになってな。
僕 へえー!
店長 また、ボクとも一緒に出店せなあかんな。
僕 ぜひお願いします。
店長 おう、どんどんスローフードのことも勉強してや。
僕 はい!
店長 ほな、また明日。


第一幕 第〇部

 

店長 ほんまありがとうな。だいぶ整ってきたなあ。
僕 いえいえ。
店長 ボクくらいの子らは当たり前?
僕 中学の時にスマホが広まったんで、まだ慣れてます。
店長 世代感じるわ。
僕 そのうち僕もそうなりますよ。
店長 新しいのどんどん出るもんな。
僕 はい。しかもこういうのってだんだん動作悪くなるじゃないですか。
店長 確かに。たち悪いと思わへん?
僕 どうなんでしょうね。実際全部を使いこなせてないですし。SNSと写真と動画くらいで。
店長 SNSが一番難しいわ。
僕 もはや動画とか写真もSNSの一部になってきてる気がします。
店長 あーそうなんかも。ボク、けっこう鋭いんちゃう?
僕 そうですか?
店長 妙に説得力あるわ。
僕 なんとなく、ですよ。
店長 けど、SNSも使わんとぶっちゃけこういう商売はしんどい。特に新しい店ほど。
僕 内はそこそこ常連さんいるじゃないですか。ネットほとんどやらずにすごいですよ。
店長 ご近所に恵まれとるんよ。
僕 そうですよね。それに店長も前のホームページ上手に作ってたじゃないですか。
店長 結局放置したけどな。
僕 いやいや元があって助かりました。ほら。

 僕は店長に画面を見せる。店長はそれをのぞき込む。

店長 あ、これ洗濯石鹸の!
僕 しかもいいねやコメントの数見てください。需要あるんですよ。
店長 やっとわかってきたか。
僕 ですかね。
店長 こっちは前からずっとやってるわ!
僕 誰に言ってるんですか。
店長 みんなに! そういうことや。
僕 後はここからです。何となくやるだけなら楽なんですけど。
店長 けど?
僕 何がウケるのかが難しいです。
店長 そこやんなあ……このまま任せても大丈夫?
僕 はい。これは僕ができることなんで。
店長 ありがとうな。あんま入れ込みすぎんとな。
僕 反応そこそこあるんで、まだ気が楽ですよ。
店長 そっか。
僕 反応無いと段々やる気が。
店長 けったいな話や。
僕 誰かに見てもらう前提ですから。
店長 けどあんまガツガツしてないんがボクのええとこやと思うわ。
僕 どうでしょう。実際、結果にならなかったから前の会社辞めたんで。
店長 すまん。そうやったな。
僕 いやいや良いんです。
店長 ほんま誰でもネットできるようになって、なんて言うか色々多すぎるよな。
僕 あふれてますね。
店長 ばーってごっつい流れみたいになって。なんか不気味やなあって時あるわ。


(中略 執筆中)


第2幕 

僕 おはようございます。

店内には人気がない。

僕 店長? 
僕 おはようございます!

 返事が一切ない。店内をひとしきり探す僕。
 連絡が来てないかスマホを確認した後、電話をかける。

アナウンス「この電話は現在使われておりません。番号をお確かめに…」

 画面で番号を確認する僕。番号は間違っていない。途方に暮れる。
 見慣れないファイルに気づく。中に手紙があり、それを読む。

僕 「突然のことですみません。私はタイダルカフェの店長を辞めます。ボク、そしてみんな、お店はこれまで通り営業を続けて頂いて構いません。最低限必要な書類は揃えときました。新しい店長はボクが適任かもしれませんし、みんなで話し合ってもいいと思います。閉店しても大丈夫です。本当にすみません。」
 
 読み終えてなお、途方に暮れる。
 店の外からニーサンの声がする。

ニーサン 店長! いるの⁈

 ニーサンは自分でドアを開けて店内に入ってくる。

ニーサン 店長?
僕 おはようございます。
ニーサン ボク! 店長いる?
僕 いえ。連絡ありました?
ニーサン ないよ。未読のまんま繋がらない。だから来たの。
僕 これ。

 僕はニーサンに紙を渡す。それを読むニーサン。

ニーサン ……意味がわからない。
僕 僕もです。とりあえず店開けます。
ニーサン 何で?
僕 いや、とりあえず。
ニーサン それどころじゃないでしょ。
僕 でもどうします?
ニーサン 探そう。
僕 どこを?
ニーサン とりあえず家いこう。
僕 家はどこなんですか?
ニーサン ……分からない。
僕 僕もですよ。
ニーサン じゃ知り合いに。
僕 誰かいます?
ニーサン え。
僕 ぜんぜん当てがないんです。
ニーサン 待って。俺もだ。

 そこら辺の収納を調べ出す僕。

ニーサン 何か思い出した?
僕 ちょっと店内探ります。何か業者さんの番号とか。
ニーサン それだ。

 店内をあさり始める2人。だが役に立つものは出てこない。

ニーサン 何かありそう?
僕 ないですね。
ニーサン やっぱこういう時って警察?
僕 どうなんでしょう。事故や事件じゃないですし。
ニーサン どうして?
僕 こんだけ丁寧に書類とか残しているんで。
ニーサン ああ、そっか……いや、でも待って。偽装されてるかもよ。
僕 え! いや、でもそれはないんじゃ……。
ニーサン どうして。
僕 昨日の今日ですよ。犯人がいるんならいきなりここまで準備できますか?
ニーサン ……じゃあ、店長が自分で?
僕 そうだと思います。
ニーサン なんで? 余計意味が分からない。
僕 ですよね。これだけのものを用意したってことは前々から考えてたってことですよね。
ニーサン 何か思い当たりある?
僕 全然ないです。僕もショックです。

 黙ってしまう二人。

僕 何か飲みます?
ニーサン ありがとう。
僕 チャイとか。
ニーサン いいよそこまで。ジンジャーエールある?
僕 あります。

 ニーサンは財布を取り出す。

僕 いいですよ。お店開けてないんで。
ニーサン いやでも……まあ、そうね。じゃあ頂きます。どうも。
僕 こちらこそ。ありがとうございます。
ニーサン 何が?
僕 一人だったらもっとパニクってました。
ニーサン そりゃ俺だって。ボクが店にいたから。
僕 安心しました。ニーサンなら何か知ってるかなって。
ニーサン なのに、ごめん。ぜんぜん役に立たなくて。俺も色々知ってると思ってたけど。全然知らなかったんだ……。
僕 店長って実はよくわからないですね。
ニーサン うん。
僕 自分の話しないから。
ニーサン 喋らないよね。
僕 ニーサンにも?。
ニーサン 付き合いは長いけど。なんかショック。
僕 教えてくれなかったわけじゃないんですよね。
ニーサン まあ、たぶん。聞いた事はなかった。
僕 いつも店長聞き上手ですから。
ニーサン 言われてみれば。何でも相談したくなるというか。
僕 安心感ありますよね。
ニーサン 一緒にいるとけっこう話はずむし。
僕 僕もです。
ニーサン しまいには気持ちよくなってつい何でも喋っちゃう。
僕 転がされますよね。
ニーサン 転がされたなあ。一緒に旅行先で飲んだ時、お店の人から人生相談受けてたよ。
僕 店主同士、何か通じたのかな。
ニーサン どうだろ。
僕 初対面で人生相談はすごい。
ニーサン 本当にね。 
僕 一緒に遊び行ったのはどこですか?
ニーサン 北に南に色々行ったな……こんな事になるんだったら出身とか聞いとけばよかった。
僕 関西じゃないんですか?
ニーサン どうも違うっぽい。
僕 それは知ってるんですか?
ニーサン 辛うじて。
僕 じゃあ近所ですかね。
ニーサン え? あ、でもそういや大体空港集合だったな。現地でってことが無かったから……そうかも。
僕 とりあえず近所にいればその内に誰かが見かけるかも。
ニーサン だといいな。
僕 ニーサン、僕はこの辺以外を探してみようと思います。
ニーサン え、何で急に。
僕 近所にいてたらたぶん大丈夫ですけど、遠くに行ってるかもしれません。
ニーサン どうして?
僕 勘です。
ニーサン 勘、けど、何となくありそう。
僕 今案で旅行したどこかにいるとか。
ニーサン んー。
僕 そうでもなさそうですか。
ニーサン なんかね。
僕 少なくともこんだけ紙や書類を残してるってことは、死亡とか手続きがややこしくなることはしてないと思うんで。
ニーサン 死亡ってそんな急に。
僕 少なくともこれは遺書じゃないと思います。
ニーサン 遺書ってあのね。
僕 たぶんそれは、無いと思います。これだけお店を続けることを書いてるので。だってこれで店長が死んじゃったら僕やみんなが疑われるじゃないですか。
ニーサン そりゃそうだけど! けど……分からないよ。こんなに知ってると思ってたけど全然知ってなかったんだから。もしかしたら……。
僕 心配ではあります。この一年一緒にいてた店長が何を考えてのか気になって
ニーサン わかってたら苦労しないよ。
僕 一緒に考えてくれませんか?
ニーサン うん。

 そうしてしばらく黙っている2人。
 おもむろにニーサンが立ち上がって掃除機をかけだす。

僕 え。どうしたんですか?
ニーサン 店長が普段やってることをやってみる。
僕 え、いやそれは……。ええ?
ニーサン 一緒にやるんやろ。 ボクも。
僕 ええ! いや……。
ニーサン こういう時はなりきって考えてみるんや。
僕 ど、どうなんやろ?
ニーサン 下手くそやなあ。なんやその関西弁は。
僕 そっちも全然上手くないやんか。
ニーサン おお! 乗ってきたな! その調子や。
僕 いや、えっと……すみません。僕は僕でもいいですか?
ニーサン もう何を恥ずかしがってるんや。言いだしっぺはそっちやろ。しゃあないな。

 僕は必死になってニーサンのノリについていく。

僕 店長、とりあえずこないだアップした店の写真は人気出てますよ。
ニーサン おお、見せてや。

 ニーサンは僕に近づいてきた。

僕 ……こういう時はちゃんと掃除機切ってからきますよ、店長。
ニーサン わ、わかっとるさかい!
僕 そんな変な関西弁使わないです。
ニーサン 細かいなあ。はい、仕切り直してやります。

 ニーサンが僕に近づいてくる。

中略(執筆中)

第3幕  離島の小屋

 小屋の前に着いた僕。小屋と写真を見比べる。そして辺りを見回す。
 扉から店長が出てくる。

僕 店長!
店長 嘘やろ。
僕 何してたんですか。
店長 何って……。
僕 どれだけ心配したと思ってるんですか。
店長 すまん。
僕 すまんじゃないです。
店長 そらそうやな。
僕 教えてくれませんか?
店長 あ! こっち来んといて!
僕 え。
店長 あーいや、そういう意味やないねんけど。
僕 あの。
店長 何か触った?
僕 何をですか?
店長 何でも。その辺のもの。
僕 何も触ってないです。
店長 ほんまやな?
僕 はい。
店長 そうか。助かるわ。
僕 何なんですか?
店長 順を追って説明する。一人?
僕 そうです。
店長 わかった。とりあえずスマホの電源落としてもらってもええか?
僕 え……はい。

 僕はスマホの電源を消して店長に見せる。

僕 これで大丈夫ですか?
店長 ありがとう。一応聞くけど、録音とかそんなんしてへんよな?
僕 どうしたんですか?
店長 してへんな?
僕 してないです。
店長 信じるわ。とりあえず助かる。
僕 あの、さっきから何のことか……。
店長 今から話す。まず一つ、話すけど、皆には黙っといてほしい。
僕 何でですか。
店長 それも言う。気持ちはわかるけど、まずは聞いてほしい。
僕 はい。
店長 二つ目。ホンマにすまんけど、今日はそこから動かんと、話を聞いたら帰ってな。
僕 ……はい。
店長 動かんでほしいってのは、なるべくここと俺に近づかんで欲しいってことやねん。
僕 とりあえず聞きます。
店長 すまんな。地べたやけど座るか?

 そう言って店長は自分から腰を下ろした。

店長 もう1年くらいか。
僕 ええ。
店長 そっちも暑い?
僕 まだまだ暑いです。
店長 そうか。どこおってもやなあ。
僕 この島はのんびりしていいですね。
店長 のんびりしてるよ。船ちゃんと動いてよかったな。
僕 よく止まるんですか。
店長 天気次第やし。何よりおっちゃんの体調と気分で決まるからな。
店長 そうやで。相変わらずボクはついとるな。
僕 行けば何とかなるかと。だって、やっと店長の居場所見つけたんですから。
店長 ようここがわかったな。

 小屋の壁を指さす僕。

僕 そっくりじゃないですか店に。
店長 ああ。 
僕 写真見つけて。
店長 写真? ネットかなんかに上がってたか?
僕 いや、ネットじゃないです。けどその写真の場所に行けば絶対何かわかると思ったんで。
店長 それで場所を調べたんか。
僕 はい。
店長 もはや探偵やん。
僕 誰でもできますよ、たぶん。
店長 そうか……。
僕 ここはいったい何なんですか。あ、聞いてよかったですか。
店長 実家。
僕 ここが。
店長 正確にはじいちゃんの家。
僕 じゃあ店内のあの形は。
店長 そう。まさかそのせいで、こうなるとはなあ。
僕 そのおかげで店長にまた会えたんですよ。
店長 よう言わんわ……。
僕 でも似せて作ったってのは、ここを知ってほしかったってことですよね?
店長 別にそんなつもりで……いや、そうか。そうやんな。
僕 素敵なところですね。
店長 そう思うか?
僕 はい。
店長 こんな田舎の島やと不便やで。
僕 それがいいんや。
店長 あ、お前! それ。
僕 しっかりと店長から教わりました。
店長 ほんまに俺がおらんでも完璧やん。 
僕 はい。だから、店は安心してください。
店長 うん。わかった。
僕 ここが元祖タイダルカフェなんですね。
店長 そうや。この島の潮風とのんびりした空気感、それが好きであの店を作ってん。せっかくやから後でこの島をしっかり体感して行ってくれ。それが俺からの最後の教えや。
僕 了解です!
店長 前向きやなほんま! ちょっとはさみしがれ!
僕 そりゃ戻ってきてほしいですよ。でも無理なんでしょ?
店長 うん。無理やな。
僕 やっぱりハッキリしてますね。
店長 知っとるやろ。
僕 そうでもないです。店長のこと全然知ってなかったです。
店長 なんやそれ?
僕 お店が嫌になったんですか?
店長 そんな訳あるか! 

 僕が店長のツッコミに対して乗ってこないので、店長は向き直る。

店長 まあ正直、街がそろそろきついなってのはあったかもしれへん。
僕 けど、ただ嫌なだけだったらあんな消え方しないでしょ。
店長 何で?
僕 店長だったら、しないです。
店長 ……よく分かってるやん。気を使わせてすまんかったな。一人でここまで苦労かけたわ。
僕 いえいえ、みんな手伝ってくれてますよ。ニーサンとか。
店長 あいつ元気?
僕 元気ですよ。店長見つけたって言ったら怒ると思います。
店長 そうやろなあ。
僕 ニーサンにはせめて何か伝えたいです。探すのもすごい手伝ってくれたんで。
店長 ……。
僕 そろそろ聞いていいですか? 一体何があったんですか?
店長 話すって言ったのは俺やもんな。 
僕 ……はい。

 店長は改めて周囲を見回し、その後で静かに話し出す。

店長 実は俺の奥さんがな。
僕 奥さん⁈
店長 そんな驚くなよ。俺だって結婚くらいするよ。
僕 いやそうじゃなくて! ええ! 前から?
店長 落ち着けって。
僕 すみません。
店長 ボクが来る前からよ。
僕 全然知らなかった……。
店長 誰にも言うてへんしな。
僕 だとしても。
店長 あんな。
僕 なんです?
店長 言うで。
僕 いや言ってください。
店長 ……奥さん、病気あって。
僕 えっ。
店長 だいぶひどなってしまってな。
僕 それは……。
店長 すまん。流石に一から説明する時間がなかった。みんなに。
僕 今、大丈夫なんですか?
店長 うん。
僕 ……良かった。
店長 けど、だから俺は店に戻られへんねん。
僕 後遺症とか何かそういう?
店長 ううん違う。ボクは化学物質過敏症って知っとるやろ?
僕 まさか。
店長 そうや。俺の奥さんがそうなんや。
僕 いや、でもだったら言ってくれたら。
店長 昔は俺もそんな感じやった。けどそんな簡単やない、この病気は。

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