台本を公開しながら更新して完成させてみる~「タイダルカフェ」という台本~

『タイダルカフェ』
湊游

・登場人物

僕(ボク)
店長
ニーサン

第2幕 

僕 おはようございます。
僕 店長? 
僕 おはようございます!

 返事が一切ないことに気づき、店内をひとしきり探す僕。
 連絡が来てないかスマホをチェックする。

僕 いや……。

 電話をかける僕。

アナウンス「この電話は現在使われておりません。番号をお確かめに…」

 画面で番号を確認する僕。番号は間違っていない。途方に暮れる僕。
 見慣れないファイルに気づく。中に手紙があり、僕はそれを読む。

僕 「突然のことですみません。私はタイダルカフェの店長を辞めます。ボク、そしてみんな、お店はこれまで通り営業を続けて頂いて構いません。最低限必要な書類は揃えときました。新しい店長はボクが適任かもしれませんし、みんなで話し合ってもいいと思います。閉店しても大丈夫です。本当にすみません。」
 
 読み終えてなお、途方に暮れる。
 向こうからニーサンの声がする。

ニーサン 店長! いるの⁈

 僕はドアを開けに行く。

ニーサン ボク!
僕 おはようございます。
ニーサン 店長いる?
僕 いや。
ニーサン なんかあったな。
僕 連絡あったんですか?
ニーサン ないよ。だから来たの。店長は?
僕 これ。

 僕はニーサンに紙を渡す。それを読むニーサン。

ニーサン これだけ?
僕 はい。
ニーサン 意味がわからない。
僕 ……とりあえず店開けます。
ニーサン 何で?
僕 いや、とりあえず。
ニーサン それどころじゃないって。
僕 でもどうします?
ニーサン 店長探そう。
僕 どうやって。
ニーサン 家に行く。
僕 知ってます?
ニーサン ……。
僕 ニーサンが知らなかったら僕は。
ニーサン 普通こんなこと考えないって!
僕 。

 黙ってしまう二人。

僕 何か飲みます?
ニーサン ありがとう。
僕 チャイとか。
ニーサン いいよそこまで。ジンジャーエールある?
僕 あります。
ニーサン ありがとう。

 ニーサンは財布を取り出す。

僕 いいですよ。お店開けてないんで。
ニーサン いやでも……まあ、そうね。ありがとう。
僕 こちらこそありがとうございます。一人だったらもっとパニクってたと思うので。
ニーサン いやいや俺だって。ボクが店いてくれてよかった。
僕 なんか、ニーサンなら知ってると思ってました。
ニーサン 本当だよ。知ってると思ってた。全然知らなかったんだ。
僕 言われてみれば、あの人よくわからないですね。
ニーサン うん。
僕 自分の話しないから。
ニーサン 喋らないよね。
僕 ニーサンにもそうだったんですか。
ニーサン 付き合いは長いんだけどね。
僕 聞き上手なんですかね?
ニーサン そうかも。一緒に旅行先で飲んだことあるんだけどさ。お店の人から人生相談受けてたよ。
僕 そんなことあったんですか。店主同士通じたのかな。
ニーサン ああ、そうかも。
僕 でも初対面で人生相談はすごい。
ニーサン そうでしょ! 
僕 一緒に遊び行ったのはどこですか?
ニーサン 北に南に色々行ったな……こんな事になるんだったら出身とか聞いとけばよかった。
僕 旅行したとこに行ったとか。
ニーサン ぱっと思い辺るとこはないな。
僕 でも、たぶんどこかに行った気がします。
ニーサン どうして?
僕 こんだけ紙や書類を残してるから変な事件じゃないと思いますし。
ニーサン 分からないよ。もしかしたら……。
僕 たぶん……それは無いと思います。これだけお店を続けることを書いてるので。だってこれで店長が死んじゃったら僕やみんなが疑われるじゃないですか。
ニーサン でも、だったら実は犯罪に巻き込まれていて、書類とかもなにか偽造されてるんじゃ。
僕 そうだったら余計に書類とかは残さないと思います。そもそもこんなに作る時間も理由もないですよ。
ニーサン そっか。けどやっぱ心配になってきたな。
僕 僕はちょっと落ち着いてきました。ニーサンの言う通り店長探そうと思います。

中略

 
第3幕  離島の小屋

 小屋の前に着いた僕。辺りを見回す。
 扉から店長が出てくる。

僕 店長!
店長 嘘やろ。
僕 何してたんですか。
店長 何って……。
僕 どれだけ心配したと思ってるんですか。
店長 すまん。
僕 すまんじゃないですよ。
店長 そらそうやな。
僕 教えてくれませんか?
店長 あ! こっち来んといてくれ!
僕 え。
店長 いや、そういう意味やないねん。
僕 あの。
店長 何か触ったか?
僕 何をですか?
店長 何でも。その辺のもの。
僕 何も触ってないです。
店長 ほんまやな?
僕 はい。
店長 そうか。助かるわ。
僕 何なんですか?
店長 順を追って説明するわ。一人やな?
僕 そうです。
店長 一応聞くけど、録音とかそんなんしてへんよな?
僕 どうしたんですか?
店長 してへんな?
僕 してないです。
店長 信じるわ。とりあえず助かる。
僕 あの、さっきから何のことか……。
店長 今から話す。まず一つ、話すけど、皆には黙っといてくれ。
僕 何でですか。
店長 それも言う。気持ちはわかるけど、まずは聞いてほしい。
僕 はい。
店長 二つ目。ホンマにすまんけど、今日はそこから動かんと、話を聞いたら帰ってな。
僕 ……はい。
店長 動かんでほしいってのは、なるべくここと俺に近づかんといて欲しいってことやねん。
僕 分かりました。とりあえず聞きます。
店長 すまんな。地べたやけど座るか?

 そう言って店長は自分から腰を下ろした。

店長 もう1年くらいか。
僕 ええ。
店長 そっちも暑いか。
僕 まだまだ暑いです。
店長 そうか。どこおってもえらいなあ。
僕 この島はのんびりしていいですね。
店長 のんびりしとるよ。
僕 お店が嫌になったんですか?
店長 嫌には……ああ、どうなんやろ。あったかもしれん。
僕 けど、だったらあんな消え方しないでしょ。
店長 何で?
僕 店長だったら、しないです。
店長 よく分かっとるな。
僕 そりゃまあ。
店長 実はな俺の奥さんがな。
僕 奥さん⁈
店長 よくわかってへんやん。
僕 いやだって! ええ! 前から?
店長 君が来る前からよ。
僕 全然知らなかった……。
店長 誰にも言うてへんしな。
僕 だとしても。
店長 奥さん! 病気あってな。だいぶひどなってしまったんよ。
僕 ……。
店長 すまん。流石に一から説明する時間がなかった。みんなに。
僕 今は……大丈夫なんですか?
店長 うん。
僕 良かった。
店長 けど、もう店には戻られへん。
僕 どうしてですか?
店長 ボクは化学物質過敏症って知ってるか?
僕 ……話に聞いたくらいは。

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