【黒木啓司さん芸能界引退に寄せて:⑤】ROCKYと蘭丸、その類似性と相違性【HiGH&LOW】

前回記事の続きです。第1章と銘打った前回までは、蓄積してきたツイート群をまとめて並べながら、ザム〜ヅカローまでの作品の軌跡を振り返りました。さらに加えて、ROCKYの宿敵である蘭丸に関するツイートも発掘して、再度考察を行いました。

既に過去ツイートは出し尽くしましたので、ここからは純粋な語りをやっていきしょう。まずは、この2人の対比構造と決戦に至るまでの経緯を深く見ていきます。

第2章:ROCKYと蘭丸〜鏡写し、白と黒の双子〜

まずは、ROCKYの過去のおさらいです。彼は幼少期から貧しい暮らしを送っており、その劣悪な環境の原因は父親でした。日常の場面は描かれていませんが、小学生時代のある日、いつも通りに帰宅した彼を待っていたのは、日々の苦痛に耐えかねて首を吊った母と姉の死体でした。その他に残されていたのは、時間が経って冷めきった手作りの焼きそばだけ。

しかし少年は絶望に大声を上げることなく、「強くなる」と何度も自分に言い聞かせながら、その焼きそばを必死の形相で食らいます。この瞬間から、彼の人生は人並みの幸福とは無縁のものとなり、心が壊れてしまった者を歓迎しようと、地獄の鬼が手招きを始めます。

そこからドラマで描かれた青年(黒ROCKY時代)までに、少年がどのような過程を経て育っていったのかは描かれておらず、現状で知る術はありません。

ただ確かなのは、彼は邪悪な怪物にはならなかった、ということです。

こちらも残念ながら語られることのないままになっている、「一人の女を守ることから始まった」という最初期のラスカルズの紹介口上がこの時期とどう関係しているのか、はたまたその設定は消滅したのかは分かりませんが、ROCKYは元DOUBTのKIZZYとKAITOと共に、女を闇の手から守るためのチーム……White Rascalsを立ち上げます。

一方の蘭丸は、生まれつきの素質がどれほど作用したかは定かでありませんが、悪の道をごく自然に進み、DOUBTを創設して一大勢力を築き上げます。母親の逝去から最初の対決以前までの蘭丸については語られていませんが、彼が一度でも正しい道に進もうとしたり、悪の道に疑問を持つことがあったとは、少なくとも自分には想像がつきません。

分かっているのはDOUBTの方が早くに創られたこと、それによってラスカルズができるよりも以前から多くの女性たちが「黒」に染まってきた、ということだけです。(劇中での婉曲的表現の引用)

そこからはEOSで語られている通りです。ラスカルズ結成から程なくしてDOUBTとの最初の対決があり、多数の犠牲者を出して黒白堂駅が封鎖されるほどの大事件となりました。この辺りの詳細は省略します。そして、蘭丸はこの件により羅千刑務所に投獄されることとなりました。

さて、ここで一度時系列を整理しましょう。作中で語られている事実を元に、ドラマからヅカローまでをまとめると、おそらく以下の通りになります。

1. 蘭丸、DOUBTを創設。順番は不明だが、平井、高野、KIZZY、KAITOが加入。DOUBT勢力拡大。

2. ROCKY、女を守る信念のもとに活動。その最中、KIZZYとKAITOをDOUBTから更生させる(引き抜く)。

3. 3人+αがラスカルズを結成。

4. 第一次黒白堂決戦。蘭丸、警官への暴行により収監。封鎖された駅が両チームのシマの境界線となる。収監後どこかのタイミングで、蘭丸がプリズンギャングと知り合う。

5. KIZZYとKAITOが一時離脱。

6. KOO、白爆4人がそれぞれ順番は不明ながら加入。

7. ヅカロー。舞踏会〜ヘブン開店〜炎上。

8. ヅカロー後〜本編。ROCKY、ヘブンを再建し、キャストを充実させると共に繁華街のシマとスカウト体制を確立。ドラマS1の9話より前に、蘭丸が日向と知り合う。

9. 本編ドラマS1。以降、ザ湯まで公開順のため省略。

他チームのことは省略すると、明言されているのはこんなところでしょうか。高野堂々来店問題は置いておくと言ったら置いておきます。蒸し返してはいけません。

さて、時系列が整理できたところで、再び話をROCKYと蘭丸の生い立ちに戻します。彼らの共通点は大きく二つ。一つ目は、女性を夜の世界の職業にスカウトする、ということです。

ただし、ラスカルズの場合は本人の意思を尊重し、(基本的には男から)傷つけられた女性を保護すると共に、何らかの形で働いて生活できるようにする、という特徴があります。

一方のDOUBTは、借金を抱えているなどの弱みを持った女性を利用して搾取したり、望まない仕事に就かせたり、さらにはそもそも働く意思の有無を問わず拉致監禁する、といった特徴があります。「女を守る」ラスカルズと、「女を利用する・傷つける」DOUBTという対立構造ですね。

そしてもう一つは、ROCKYは小学生のときに母と姉に自殺という形で、蘭丸は年齢は不明ながらも母に無理心中に巻き込まれた挙句生き残るという形で、どちらも人格形成期に最も身近な女性である母(と姉)が目の前で、しかも自らの意思で死んでいったということです。

この過去については、どちらも「自分だけが置いていかれた(逝かれた)」という点で極めて似ているものの、決定的に異なるところがあります。それは、ROCKYは帰宅したら既に母と姉が死んでおり、死に至る最後の意思や言葉を受け取ることがなかった、止める機会すらなかった、という点です。

恐らく、日々の生活で彼自身も父親から苦痛を受けることはあれど、その瞬間を目にするまでは、帰宅してドアを開けた先に2人の死体があるとは全く想像していなかったでしょう。文字にしているだけでも悲惨極まりない過去です。

一方の蘭丸は、母親の無理心中から一人だけ生き残りました。分かりやすいように、別の言葉を使いましょう。蘭丸は、母親に殺されかけた挙句、一人だけ取り残されました。

その具体的な方法は分かりません。彼が必死に抵抗した結果生き残ったのか、それとも自分だけが死ねなかったことに絶望したのか、真相が明かされることは恐らくこれからもありません。

ROCKYは、母と姉の最期の心中を知ることも、止めることもできず、置いていかれました。蘭丸は、母に殺されかけた挙句、生き残って置いていかれました。自分の解釈では、このことが決定的に二者の人生を分けたと考えています。

ROCKYは、母と姉の死の原因が父にあることをすぐに悟ったでしょう。それから彼が父に対してどういう行動に出たかは分かりませんが、彼の「女を守る」という信念のスタートは、間違いなくこの2人の死から始まっていると思われます。なぜなら、彼は「自分が強くなかったから、母と姉を守れなかった」という、尽きることのない自責の念に取り憑かれてしまったからです。そして、その贖罪の意識からか、「男に傷つけられた女性を救う」「女を執拗に傷つける男は許さない」ということに、文字通り人生の全てを懸けて取り組むことを決めました。

彼はS2で、「女性と子供のための施設を作る」という目標を語ります。それは、自分の家族のような悲劇を無くしたい、という切なる願いに他なりません。ROCKYはその理想のためなら、そして女を傷つけて悲劇を生み出すものを撲滅するためなら、その命を投げ打つことにさえ何の躊躇もありません。

彼は喪い、苦しみ、暴力にまみれ、時には半ば狂気に取り憑かれたかのように、信じる道を我武者羅に突き進んできました。しかし、そうして鬼となり、人と同じ幸せを掴むことはできずとも、夜の街と女性を守り、その再起を助けていくことで、一人でも多くの女性と子供、一つでも多くの家庭に幸せをもたらしたい。そんな未来を、光を、ROCKYは夜の街から見つめているのです。

一方の蘭丸にとって、過去は完全なトラウマとなり、母と女性全てを同一視し、それは自らの命を奪いに来るものだという、消えない思いがその身に烙印として刻まれました。彼は女性を単に金儲けの道具としているよりも、「奪わなければこちらが殺される」という、本能的な恐怖を焼き付けられてしまったのかもしれません。こうして、「奪うもの」としての蘭丸が、歪に形作られました。

そしてまた、母親とは本来、子供にとっての庇護者であり、何よりの味方です。必然的に彼は人間不信となり、共感性を育むことができず、「仲間など不要」という結論に至ります。彼が受けた心の傷はそれほどまでに大きかったのです。

それゆえに彼は、自分のことを仲間、あるいは頭として扱ってくれている平井と高野の心も、恐らくは善信に踏みにじられる最期に至るまで、全く理解できませんでした。このことに対し、平井と高野は口にこそ出しませんが、様々な表情を見せることで、その心中を覗かせていました。

守るものと奪うもの。この二人の対立は、EOSでの第二次黒白堂決戦の開戦直前のやりとりでも明らかになります。

「女は所詮金を産む道具だ」

「お前は女のことを何も分かっちゃいねえ」

恐らくここまで記事を読まれている方なら、容易に思い出せるワンシーンでしょう。この問答だけでも二人のスタンスの違いは鮮明ですが、しかし自分の解釈では彼らの本質的な違いはこれらの言葉通りのものだけではなく、さらに根深いところにあります。

蘭丸は、「女は道具だ」と断じなければならないのです。なぜなら、女を同じ生き物だと認めてしまえば、その女に自分はいずれ殺されてしまうからです。

そしてROCKYは、母と姉の心を知ることなく置いていかれたため、自分自身も「女のことを分からない」のです。それでも、否、それゆえに彼は、ときに過剰なほどの暴力を振るってでも、手段を問わず身命を賭すことで女を守るしかないのです。

2人は共に、母親という最も親しかったはずの女性を喪い、その人格に埋めることのできない欠落を抱えたままで年齢を重ねました。しかし、その傷の性質の違いから、一方は奪う側に立ち、他方は守る側に立つこととなりました。

もはや二者が相容れないことは必然。対決は宿命であり、そして彼らの戦いは相手の信念と存在を完全に否定するためのものとなります。たとえ見た目の上では一対一の「タイマン」であっても、その性質は他のキャラクターの喧嘩とは全く異なります。全力でぶつかり合ったとしても、その結末に蘭丸とROCKYが分かり合うことは、爽やかに笑い手を取り合うようなことは、絶対に有り得ません。

2人はお互いが不治の傷痕を心の奥底に抱えながら、己の道を唯一と信じて生きてきました。その正しさを証明するには、自己の生を肯定するには、相手を滅ぼすしかないのです。

それが、ROCKYと蘭丸というコインの表裏、白き守護者と黒き簒奪者の宿命でした。鏡に映った双子のように思えるほどの共通点を持ちながらも、決定的な違いから正反対の道を突き進んだ彼らは、どちらかが消え去るまで争う以外の選択肢を持ちえませんでした。

今回はここまで。次の記事⑥では、いよいよEOSクライマックスの第二次黒白堂決戦に触れていきます。


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