【黒木啓司さん芸能界引退に寄せて:④】ROCKY最大の宿敵、蘭丸【HiGH&LOW】

こちらは連続記事の4番目となります。今回は第1章最終段として、蘭丸についてのツイートを発掘すると共に、彼のキャラクター性を再確認してみましょう。


5. 悪のカリスマ・蘭丸〜あるいは邪悪だけに愛された子供〜

まずはこれまで抽出した中に入っていなかった、蘭丸関係のツイートをいくつか掘り出してみましょう。最初の方はEOS公開前で、速報記事や予告への反応ですね。

これでとりあえず検索できた分は全部です。一部順番がおかしいところや重複しているものについては何卒ご容赦ください。

蘭丸というキャラクターは単体でも記事が書けるくらい大好きで、特に最近ザワクロスを観てからは一層、その悪役としての強度が際立って思い出されるようになりました。

本筋とは逸れますが、率直に少しだけ言及しますと、自分は高校生青春喧嘩甲子園テイストになった最新作よりも、子供と大人の狭間で足掻き、残酷な現実を乗り越えて生きようとする男たちの、ダークな中にも光の差す物語、あるいはその戦いの先を描いたザワ(における村山さん卒業と轟の羽化)までが、個人的には好みのテイストでした。

そのためか、どうしても最新作の初見時からずっと、金をばら撒くシーンとか兵隊を集めるシーンのたびに蘭丸が脳裏に蘇って離れません。

蘭丸。「他人が躊躇するラインを簡単に越える」とROCKYが語った通り、その狂気と凶暴性は常軌を逸していました。しかし、彼の邪悪としての才覚は、そうした精神面の異常性だけに留まりません。

まずはそのカリスマと策士ぶりです。一度は500人以上を動員してもSWORD連合軍に大敗した平井・高野とDOUBTの大群を、出所日に当然のごとく従えます。誰もが、蘭丸を頭として即日再起することを当然と考え、準備を整えていたのでしょう。

そしてほぼ間を置かず、ラスカルズを少数ずつ襲撃しては半殺しにしていくと、境界線など不要だと宣戦布告しました。しかも、その後もただ無策に数で押そうとするのではなく、「DOUBTに弱い奴はいらねえ」と言い放ち、コイン争奪ゲームによって有象無象の群れを20%以下の精兵に絞るという命令を下し、あまつさえ側近の幹部であるはずの平井と高野までもその蠱毒の中に蹴り落とします。

これは解釈次第ですが、実際のところコインを5枚集めた者だけが黒白堂の決戦に向かえたというよりは、金目当てで数だけ多い寄せ集めであり、士気にムラや弛みがあったDOUBTのチームとしての弱さを、飢えた野獣同士が狭い檻の中で喰い合うような環境に叩き込むことで、絶対的な恐怖で支配すると共に否応なく軍隊として成立させたのだと思われます。もちろんゲームに敗れてダウンしてしまった者は別ですが、そうでないといくらなんでもDOUBTの総数&残党多すぎないか?という気もしますし。

ただ、もしかしたら本当に、例のいい女発見さんのような精鋭中の精鋭だけが決戦に向かったのかもしれません。その場合、DOUBTといえどモブ同士の戦闘力はSWORDのチームにも劣らないほどだったでしょう。

彼の用意周到ぶりはこれだけに留まりません。ただでさえ数で圧倒的に勝っているところに、一騎当千のプリズンギャングをも金を惜しまずに投入。たとえジェシーが手土産がわりにROCKYを倒してきたといえど、その手は緩みません。仕上げにコンテナ街の頃とは別格の強軍と化した兵隊に檄を飛ばし、その終着点を知らない暴力と狂気を隅々まで伝播させて、決戦に向かいます。

そう、蘭丸の恐ろしさは狂気だけではないのです。決してハイロー世界で正当化されるものではないとしても、彼は「兵を率いる頭」あるいは将としての天性のカリスマと知能に恵まれており、それらと人外の凶暴性が矛盾なく同居しているのです。

そして極めつけに、個人の喧嘩の実力(暴力性)も文句のつけようがありません。おそらくトレーニングの類とは無縁であるにも関わらず、身体が弱っているはずの出所早々にネームドキャラの首根っこを軽々と片手で持ち上げる怪力は、はるか後に登場するラオウにも迫る描写です。ジェシー戦のダメージがあった可能性も高いとはいえ、SWORDの頭でも最も体格に優れたROCKYを正面から押しまくります。

その天賦の剛腕は、正面から敵を拳で倒すのではなく、強引に抑えつけて制圧するときに最も発揮されます。そして相手を力づくで捩じ伏せた次の瞬間には、彼はどこからでも即座に凶器を見つけ、子供が安物の玩具を振り回すかのごとく楽しみながら、容易に人体を破壊していきます。

凶器を使うシーンが印象的な蘭丸ですが、しかし彼は元から銃器や刃物を持ち歩いているわけではありません。蘭丸にとって、黒白堂のような廃墟は最高の遊び場であり、幼児が公園に落ちているボールや木の枝を振り回すかのように、その時々に周囲を眺めて楽しそうなものがあれば思い切り振り回し、玩具か相手が壊れるまで遊び続けます。

そう、蘭丸にとって「喧嘩」という概念は存在しないのです。対等の相手というものはこの世におらず、過去に自分を抑えつけようと殺到した警官も、遊びの邪魔をする不快な大人に過ぎなかったのでしょう。彼はこの上なく凶暴で狂気に満ち溢れていますが、決して正気を失った狂人ではなく、また九龍のような暴力のプロフェッショナルでもありません。ただ異常に力が強く、頭が良く、精神が未成熟で、それでいて周囲の悪を寄せ集めて夢に酔わせるような魔性の魅力を生まれつき備えた……まさに、邪悪に愛された天才なのです。

そんな蘭丸ですから、ROCKYとの格闘の最中にあっても異常なほどにコロコロと表情が変わります。ROCKYが蘭丸に狙いを定めて決着をつけようとしたのはその使命感からですが、蘭丸がROCKYに執着するのは本能的に感じ取った一番楽しめそうな遊び相手……あるいは最も遊びがいのある玩具そのものに見えたからでしょう。

相手が嫌がれば楽しい、痛がれば気持ちいい。けれど、プリズンギャングが横入りして痛めつけたときのように、横取りされるとつまらない。その挙句、相手が壊れかけたら急激に飽きてしまう。それだけのことなのです。

悪のカリスマと称される蘭丸の本質について自分なりの解釈を語ったところで、少し彼のバックグラウンドについても触れましょう。劇中で描写されることはありませんが、公開時のインタビューなどで演者である中村蒼から、「蘭丸は幼い頃に母親の無理心中に巻き込まれつつも、自分だけ生き残ってしまった」という裏設定が明かされました。

そのことで彼は、女性……さらには自分以外の生命に対する共感性や感傷を、一切育むことができないままに肉体と知能だけが大人になってしまったのだと考えるのが、最も自然な解釈でしょうか。

劇中に聖母の絵に血塗れのナイフを投げつけ、不気味なオルゴール音のような彼のテーマ曲と共に炎上させる演出がありますが、それこそが彼の過去に起きた事象の暗喩であるのかもしれません。

と、あまりに好きすぎて蘭丸の語りが止まらなくなってしまいましたが、彼個人の考察と過去ツイートの引用はこれくらいにしましょう。さて、ようやくTweetの発掘作業が完結しましたので、これにて第1章を終えます。ここから先、⑤以降の記事では、第2章〜として今現在の自分が作品を振り返っての考察、解釈、思い、そしてその先について綴っていきましょう。まずは次回、ROCKYと蘭丸それぞれのキャラクターを改めて比較していきます。それでは。

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