【DTM】最高のピアノ音源とは?

 みんな大好きピアノ音源の話題です(笑)。最近では凄く音質の良いソフト音源も増えてきていますが、そもそも論として「最高のピアノ音源」とは何かを考察していきたいと思います。

 少なくとも私はよく宣伝文句になっている「容量の大きさ」や「収録サンプリングレートの高さ」が最高のピアノ音源の条件ではないと考えております。「楽器」としていかに意図に沿った表現が豊かに出来るか、ソフトの動作や出音に信頼がおけるか、等が論点だと思います。

 それでは現在主流のサンプリング音源の話を中心に、サンプルの収録(録音)状態の問題とソフト設計の問題の二面から見ていこうと思います。(物理モデリングの話もあるよ!)

1.収録(録音)状態について

①クリップノイズやプチノイズ

 有名な定番ソフトでも案外入っているクリップノイズやプチノイズ。百歩譲ってホワイトノイズは「味」だとしてもクリップノイズやプチノイズは完全に収録ミスと断言してよいでしょう。

 丁寧な収録という面ではやはりYAMAHA・ROLAND・KORGといったハードシンセのメーカーが非常に信頼性が高いですね。逆に海外ソフト音源メーカーは全体的な音は良くてもこういう所が結構雑だと思います。

②定位

 意外なことに多くの人があまり気にしない定位。有名な定番ソフトでも結構酷いものが多いです。「左から右に順番に音が並んでいる定位」については賛否両論ありますが、少なくともステレオで綺麗に聞こえるためには定位がある程度一定の法則に基づいて整っている必要があると思います。

 例えばドレミファソと鳴らして「ミの音だけ規則性なく唐突に凄い右の方から聞こえる」みたいな綺麗に並んでいないものはどんなに単音の音質が良くても楽器としてダメだと私は思います。和音でバッキングしているだけならあまり気にならないかもしれませんがメロディーを弾くと明らかに不自然になるので個人的には定位は最重要項目の一つと考えています。

 しかし、最近流行りのマルチマイクの場合、最終的な定位の挙動は予想が難しくユーザー側でのコントロールは不可能に近いです。なので、やはりメーカー側で、録音したサンプルをマイク毎にただ並べるだけではなく、きちんと調整・加工した上で収録した「完成品」を提供する必要があると思います。(「リアルにこだわる為、敢えて未加工の素のままで収録しました」なんてのは手抜きの方便でしょう。)

③金属音や打撃音

 一部のDTMerの間では金属音や打撃音が入っているのが「リアルな証拠」とされているような風潮がありますが、個人的にはこれにも反対の立場です。異常に目立つ金属音や強く音程を持った異音はメロディーや和声の邪魔になります。

 当然、現実のピアノのレコーディングではそういった意図しない打撃音や金属音が入ってしまうのを避けられないのが「自然」なのかもしれませんが、むしろ「最高のピアノ音源」が目指すところはそういった現実のピアノ録音の制約や欠点を取り除いた完璧なバランスを持ったバーチャルピアノではないでしょうか?

 88鍵盤どこを弾いても変な金属音や異音が混ざっていない綺麗で整った音、鍵盤毎音量も均一で定位の乱れもない、そんな「不自然」なピアノこそ最高のピアノ音源だと思います(笑)。

④ラウンドロビン&ヒューマナイズ

 ユーザーの意図に関係なくランダムにサンプルや発音タイミングが切り替わるラウンドロビンやヒューマナイズは楽器として最低の部類の機能だと思います。おそらくベタ打ちのMIDIでもリアルに、というコンセプトから生まれた物だと思いますが、きちんと演奏したり打ち込む人にとっては非常に有害な機能です。

 冷静に考えると分かると思いますが、自分が弾いた通りの発音をしない、同じ演奏をしているのに毎回鳴り方が違うという「ガチャ」は楽器演奏による表現を根本から否定しています。

 一方で同音連打した場合に同じサンプルが何回も鳴るのは本物の楽器の挙動とは違っておかしいという話もあります。ただ、それならば二撃目は二撃目のサンプルが鳴るようにプログラムすべきであり、やはり毎回ランダムで鳴るという発想はおかしいと思います。

 また、もっと言えばこれはベロシティの問題でもあると思います。通常、一撃目と二撃目は同じ強さでは弾かない筈です。その為、ベロシティレイヤーが相当数あれば、本来は一撃目と二撃目は同じ音にならない筈です。(本当の意味での連打した時の二撃目の音とは違いますが)

 どちらにしろ、アンコントローラブルなラウンドロビンやヒューマナイズは「最高のピアノ音源」には不要な機能でしょう。

⑤ペダルON OFF別サンプルの是非

 最近では普通に弾いた時のサンプルとペダルを踏んで弾いた時のサンプルを別々に収録している音源も多いですが、ソフト音源のペダルと本物の挙動は違うので別々のサンプルを用意すると、ペダルのタイミングによっては踏んだ音のサンプルと踏まない音のサンプルが混ざって変な響きになってしまうケースがそこそこ発生します。個人的にはサンプルは通常打鍵時のものでダンパーペダルを踏んだ時の音はレゾナンスエフェクト等で再現をした方が本物に近い音楽的な響きになると思います。

 ただし、これは原理原則論で設計思想の話であり、現状のレゾナンス系エフェクトはなんちゃって系エフェクトでしかなく、正しく倍音の共鳴を再現する訳でも自然な広がりを出す訳でもないので、非常に微妙なエフェクトになっています。今後の技術の進歩に期待ですが、サンプリングベースの音源でこの辺りを完璧に再現するのはそもそも論として難しいかもしれませんね。


2.ソフトの設計について

 単に実際のピアノを録音してサンプルを並べただけのサンプル再生機ではなく、ソフトだからこそ、現実では実現が難しい細かな調整やカスタマイズができる事でより良い「楽器」として本物より進化しているのが「最高のピアノ音源」の条件だと思います。

①設定可能項目の種類

 即座に調律の設定を変えられて、かつチューニングが正確かつ環境要因で狂わないというのはソフトの最大の利点だと思いますが、ダイナミクスやベロシティ感度・ベロシティレイヤーゾーンの調整ができるのもソフトならではの利点です。最高の楽器を目指す上では絶対に欲しい調整機能です。

 リリースサンプルやレゾナンスや各種ノイズ関係は明確にオンオフできるものが良いでしょう。

 それに加えてDecayやSustain、releaseといった項目も調整できた方が良いと思います。「現実のピアノのがこうだから」ではなく、「現実のピアノでこの項目が調整できたら最高」の観点からソフト設計されていてこそ、最高のピアノ音源なのだと思います。

②設定可能項目の数値管理

 次に、設定項目は全て数値管理できる物が良いと考えています。たまにアナログ機器っぽく感覚でノブを回すだけで数値が出ない物がありますが、これはソフト音源のメリットである再現性や正確性というメリットを完全に捨ててしまっています。デジタルで敢えてアバウトなパラメーター管理にする必要性は無いと思います。

3.物理モデリング

 「これからは物理モデリングの時代」と言われ続けて久しいですが、中々サンプリング音源の音色に追いつかない物理モデリング。私もいくつか物理モデリングの音源は持っていますが、感じるのは技術の問題ではなく方向性の問題です。

 物理モデリングのピアノ音源は基本的に輪郭がハッキリしないというかボヨンボヨンしているんですよね。おそらく「豊かな音」を出したいが為に中域の倍音をという発想なのでしょうが、圧倒的に硬質さが足りません。この辺りは技術者が気付いているのか分かりませんが、力を入れるポイントがズレていると思います。このままでは技術が進歩しても方向性が間違っているので良い物は出来ないと思います。

 そういう点では昔のハードシンセは制約の中で本当に良く考えられています。波形容量に制限がある中で、よりリアルに聞かせる為に高音ギラギラ&ドンシャリでパンチを利かせてショボさを感じさせないようにしていたり、ループで音を伸ばしてサステインを稼いでいたり、知恵と工夫を結集していると思います。

 それに比べると今の物理モデリング音源のメーカーは自分達の欠点も目指すべき方向性も分かって無いような気がしてなりません。共鳴やマイクの再現等も結構ですが、基本的な元音がいつまでたっても「ピアノ風のなんか微妙に違う音」ままです。

 また、ラウンドロビンの話と同じになりますが、物理モデリング音源が毎回音を生成するからと言って、同じMIDIで毎回違う結果を吐き出すのは明らかにおかしいです。物理モデリングであってもサンプリング音源であっても同じ演奏した時に同じ音が出なければ楽器としての設計は間違っていると言えるでしょう。

4.総論

 上記のように様々な観点から見ていきましたが、こうした点について作り手がどういう考え方でどのような方向性を持って音源を作るかで大きく楽器としての完成度が異なってくると思います。おそらく単純な録音技術やプログラム技術よりも、設計思想の方が音源への影響は大きいでしょう。


この記事は以上です。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?