【DTM】XLN Audio Addictive Keysレビュー

ピアノ音源「XLN Audio Addictive Keys(Studio Grand)」のレビューです。

【オススメ度】:★★★☆☆

【総評】:サンプルは荒いが使いやすく現代の音楽シーンにマッチしている。

画像1

 個人的にソフト音源の中では評価の高いピアノ音源です。ただ、後述しますが、正直言えば欠点も多く癖が強い音源だと思います。しかし、ソフトの設計思想が非常に良く、設定や工夫で欠点をカバーできるので、融通の利く音源です。

 収録元ピアノはSteinway Model D。スタンウェイらしい華やかで派手なサウンドです。サウンドデザインの方向性が良く、ハード音源のように分かりやすくデフォルメされて調整された使いやすい音源だと思います。

 この辺りは「容量の大きさだけが売り」の音源とは違ってよく考えられています。いかに多くのマイクで録ったサンプルを沢山並べるかではなく、最終的な「楽器」としての出音を見据えている感じで非常に好感度が高いですね。

 サンプル自体は荒めですが、全体的に荒いのでバランスは取れており、特定の鍵盤のみ金属音や異音が異様に目立つ様な事はありません。ただ、鍵盤毎の音量差はそれなりにボコボコなので、繊細に鳴らしたい場合は、Addictive Keysに合わせて特定キーのノートをMIDIで調整する必要があると思います。

 一方でサンプルの荒さとは反比例して定位はかなり良く調整されていると思います。少なくとも特定の鍵盤のみ鳴る位置がおかしいような不自然な鳴り方はしません。

 上記の通り、長所短所はありますが、基本的に一部のクラシック用途以外では万能に使えるタイプの音色で、ハードシンセの良さとソフト音源の良さを両方兼ね備えたような音源ですね。こちらも後述しますが、エディット可能項目も多く、使いやすいです。

画像2

 マイクはステレオcloseが2種類、モノラルcloseが1種類、ステレオmiddleが1種類、モノラルmiddleが1種類、ambient(room)が1種類。同時に重ねられるのは3種類ですが、基本的には問題ないでしょう。なお、マルチマイクですが、個別にバウンスする以外でパラアウトはできません。

 また、公式情報にはありませんが、サンプルは88鍵毎の全鍵サンプリングではなく2鍵毎のサンプリングです。(収録サンプリングレートも公式発表なし)。まあハードシンセでは3〜4鍵毎のサンプリングなんてのも多いですので、気持ち的には多少残念ですが、実用上はあまり問題を感じないと思います。

 ベロシティレイヤー数や同時発音数も公式発表が無く、特に後者は複数マイクを組み合わせた時に何音までいけるか不明です。この辺りは非常に不親切ですね。

 なお、ラウンドロビンもありませんが、個人的には単なるランダムガチャ形式のラウンドロビンはアンコントローラブルで有害な機能だと思っているので、無いのは逆に高評価です。

画像3

 エディット・調整可能な項目としてはダイナミクスレンジやベロシティレイヤーゾーンの調整に加え、サンプルシフトやフィルターまで調整できます。レゾナンスや各種ノイズ関連も完全にオフに出来るので非常に融通の利く音源です。(シンセピアノ的な使い方もできます。)

 特にハードシンセの様にADSRの調整もできますので、リリースサンプルをオフにしても離鍵時の反応を自然な減衰にする事が出来ます。音の伸び方も曲に合わせて調整できるので良いですね。

 あと、各種ノブですが、0とかセンター位置とか「綺麗に止まって欲しい所」にはアナログ機材のようにカチっとピッタリで止まるようになっています。こういうところが非常に気が利くソフトで素晴らしいです!

 なお、エフェクトもかなり多く搭載されていて良いと思いますが、私は外部プラグインを使うのでソフト内のエフェクトは全部オフです(笑)。

画像4

 あとAddictive Keysで特徴的なのはチューニングです。デフォルトの「As recorded」がこの音源の派手な鳴り方を決めていると言って過言ではないと思います。(440Hzと441Hzの中間のストレッチチューニングみたいな感じです。曲によっては基準ピッチ上げ下げして馴染むよう調整するとなお良いと思います。)

 平均律ジャストの「equal temperament」にすると、ちょっと音が鈍くなる&逆にピッチ感がおかしくなるような気がしますので、余程曲と相性が悪くない限りは「As recorded」でピッチ調整する方がこの音源ならではの旨味があると思います。

なお、チューニングはプリセットを選ぶタイプでpianoteqのような一音一音の調律はできません。

【実際に使わないと分からない欠点】

 まず、これはAddictive Keys特有の問題ではなく、他のピアノ音源でも同様に起こる現象ではあるのですが、Addictive Keysはサンプルが荒いためか、アルペジオや和音で音を打ち消しあってしまうような現象が他の音源に比べて起こりやすい印象があります。(少しノートをズラして調整すれば解決するので同時発音数の問題ではなく、特定の組み合わせで相性が悪い場合に起こるものです。他メーカーで言えば、SynthogyのIvoryシリーズも同じ様な現象が起こりやすい部類だと思います。)

 また、同じようにアルペジオや和音で相性が悪い組み合わせだと定位が乱れやすいです。本来右寄りから出る筈の音が音域がぶつかって左に押し出されて左の方から音が出るような現象です。特に複数マイクを重ねている時はより顕著ですね。こちらも大抵は少しノートをズラして分散させれば解決するのですが、特定の和音で崩れやすいのは否めないです。

 これらは収録サンプルの相性の問題でアップデート等で解決するものではないと思われますので、この音源を使う時は上手く付き合っていくしかないと思います。

 他の欠点としては、ベロシティレイヤーの切り替わりも急激に変化するポイントがあるので、要調整です。(ベロシティレイヤーゾーンが設定で調整できるのでそれで解決する事が多いです。)

 あと個人的に気になるのはB5とC6の音が他の鍵盤に比べると明らかに弱いです。レコーディングではレイヤーゾーン調整やMIDI調整で妥協できるレベルまでには持っていけますが、リアルタイム演奏する時はかなり強めに鍵盤を叩かないとこの2つの鍵盤の音は埋もれてしまいます。(ただ、他のソフト音源もこの付近の音は上手く録音できていないものが多いですが。)

 欠点として思い浮かぶのはこの位でしょうか。上記は明確に欠点ではあるのですが、ソフトの設定やMIDIの調整でほとんどの場合解決するので、欠点以上にこの音を使いたい気持ちが上回ると思います。

 ちなみに、Addictive Keysは他の音色も良いです。個人的には特にELECTRIC GRAND(CP-80)が良くできていると思うのでDUOやTRIOのセットで買う時はELECTRIC GRANDを選ぶのが良いと思います。

この記事は以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?