【DTM】Synthogy Ivory 2 Grand Pianos、Italian Grand、American Grand、Studio Grands レビュー

ピアノ音源「Synthogy Ivory 2」シリーズのレビューです。

【オススメ度】:★★☆☆☆

【総評】:音色は良いがどのモデルも特定の鍵盤に問題あり。音色も曲やジャンルを選ぶ

 大人気高評価のSynthogy Ivory 2シリーズですが、個人的には結構辛口評価な音源です。Grand Pianos、Italian Grand、American Grand、Studio Grandsを良い所も悪い所も細かく評価していきます。

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【基本エンジン】

 Ivory2のエンジンは非常によくできています。設定項目も多く、必要な調整項目は全て用意されていると思います。ベロシティカーブの調整、ベロシティレイヤーの調整、ダイナミックレンジの調整、サンプルシフト、リリースの設定、レゾナンス・ノイズ関連のオンオフと完璧ですね。さらに良いのが右側のSynth Layerです。ピアノにPADを重ねる需要は確実にあると思いますので、これは是非他のメーカも見習って欲しい所です。

 チューニングもStretchとEqualがデフォルトで切り替えできるようになっており、操作もしやすいインターフェースです。また、各設定項目が数値入力できるのも良いですね。基本的な構造には文句無しです。同時発音数に関しても1000まで自分で選べるのは本当に素晴らしいです。(というか他のメーカー製品が少な過ぎです。)

 また、特筆したいのがリリースの自然さです。最近はリリースサンプルを派手に鳴らす事でリアルさを演出しようとする音源が多いですが、ほとんどが非常に不自然かつ元音のリリースが極端に短く、リリースサンプルを小さくしたりオフにすると、ありえない音の切れ方をする音源が多いです。

 しかし、Ivoryシリーズはリリースサンプルがオフでも非常に自然な減衰をします。リリースサンプルをオンにした時も不自然な強調等が無い上品な鳴り方をするので非常に良いと思います。

 レゾナンス系エフェクトに関しても、特定の倍音しか共鳴しない「なんちゃってエフェクト」ではあるものの、よくある他の音源のようなモわっと膨らむような不自然さの無い綺麗な響き方をします。

 また、大容量音源にも関わらず重さを感じさせてない動作で読み込みも早いです。専用エンジンだけあってソフトの動作が非常に最適化されていると思います。基本システムは完璧です。

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 しかし、収録サンプルの方はなかなか曲者揃いです。音色は高級感があり、質感は間違いなく良いのですが、どのモデルも特定の鍵盤で変な音が出る等の問題があり、そのキーを含まない曲であれば良い結果に繋がる事も多いものの、逆にそのキーが肝となる曲では致命的に合わない音源となってしまいます。

 また、この音源はジャンルを非常に選ぶと思います。音の重心が低く高級感はあるものの、逆に言えば団子になりやすい丸さや抜けなさがあり、ブライトな感じや歯切れの良い音には向きません。

 あとこのシリーズはどのモデルも微妙にチューニングが甘いと思います。特定の和音で「ん?」となる事が他の音源より多い気がします。

【Grand Pianos】

 Steinway German DとBosendorfer 290とYamaha C7の3つ入っています。

 German Dが全シリーズ中で一番バランス良い濃厚な音色でまさにピアノの「ザ・スタンダード」的な雰囲気で自分もよく使います。しかし、鍵盤毎の音量差が結構激しいですし、鍵盤毎の音色の強さも結構違うので、前述のとおり特定の鍵盤が致命的に曲に馴染まない場合があります。

 具体的な指摘をすれば、まずE1に強烈な金属音が入っており、付近の鍵盤とは明らかに異質の音です。また、F4の音が非常に強く隣のG4の音が非常に弱い等のバラつきも激しいです。他にもG#5の金属音が目立ち、付近のA#5、B5は弱い音でベロシティを高くしても音量が大きくなるだけで丸くて抜けない音でこのあたりでメロディーを弾く際にはネックになる事も少なくないです。

 他にもいくつか定位等が気になる鍵盤がありますが、全体的な質感が良い分、逆にその特定の鍵盤の鳴り方が気になりますね。

 ただ、そうは言ってもなんだかんだでIvoryシリーズではこのGerman Dが一番バランス良く完成度が高いと思います。EQやエフェクト等の相性も良く、加工しても芯が失われないのはこのモデルの特徴です。

 次にBosendorfer 290ですが、全体的に倍音の出方が輪郭のボケたような感じなのでEQでドンシャリ風にしたり工夫する必要があると思います。また、いくつかのキーでハンマー打撃音?orクリックノイズのような音が混じっているのも気になり精神衛生上良くないので私はほとんど使っていません。特段音質が悪い訳でないのに何か違和感を感じるモデルです。

 Yamaha C7に関してはGerman DやBosendorferと比べると軽くて薄い感じです。ただ、音色の傾向としては少し小型なグランドピアノとして使い分ける用途でならアリかなと思います。

 しかし、A2、B2、E3、F3等が代表的ですが、ハンマー音がペコンと鳴る感じなのが締まらない音で結構気になります。他にもC5~D5付近の鍵盤で金属網にボールが引っかかったような音の混入も強いのでメロディを弾くのにもバッキングに使うにも所々異音が気になり、キーや曲を選ぶと思います。案外思い切ってEQでジャキジャキジャリジャリにする用途では欠点が目立たなくて良いかもしれません。

 次に、チューニングが甘いです。流石にホンキートンクとまではいきませんが、学校の音楽室で少し調律されていないピアノのような緩さです。海外メーカーのヤマハの音源ってこういう安っぽい風味の音源にされがちですが、個人的には納得いきません。ヤマハは軽くてもクリアでバランスの良いイメージなのですが、いつも「近所にある安いピアノ風」にされてしまうのはヤマハの良さを理解している外人があまり多くないということでしょう。

 なお、あまり話題になりませんが、このGrand Pianosと次のItalianはIvory 1の時と元サンプルは同じです。2は1の時に技術的・容量的に出来なかったフル収録版のような位置付けで、収録サンプリングレートやレイヤー数が改善されているようですが、サンプリング自体は1の時代にされた物なので、やはり後発モデルのAmericanやStudio Grands方が鍵盤毎の音量や定位の管理は良いです。

 しかし、結局ピアノ音源で重要なのはサウンドデザインの方向性なので、そういう意味では一番Ivoryらしい高級さを感じる音色はやはりこのGrand Pianosと次のItalianだと思います。音の重心が低く濃厚なのがIvoryならではだと思います。

【Italian Grand】

 次にFazioliのモデルですが、音色の方向性はGerman Dと同様に凄く良いです。しかし、またもやA#5の音が変です。Synthogy社のマイキングはこの付近のキーの収録が特に苦手な位置取りなのかもしれません。具体的には金属音が強く混ざっていて基本の音が小さくギターでいう所のデットポイント(ウルフトーン)やハーモニクスを混ぜたような音になってしまっていて非常に気になります。

 また中域付近が典型ですが、定位が怪しい鍵盤も多く、鍵盤毎の音量差等も気になります。でも音色の質感はIvoryシリーズで1,2を争う良さなので、是非3が出るときには収録状態が改善していることを期待しています。

【American Grand】

 American Grandは個人的に非常にイマイチな印象です。容量の割には重心が軽く、それでいて微妙に籠もっているし、それでいて特定の鍵盤で金属音が派手に鳴るというアンバランスさが使いどころに困ります。

 EQで高音をブーストして不自然にならないポイントも限られていると思います。(高音をブーストするとすぐにチェンバロ等の他の鍵盤楽器みたいな音になってしまいます。)

 倍音は良く出ていますが、いわゆるAmerican Grandという名前から期待する煌びやかかさや派手さとは違う結構地味な感じで、芳醇な感じはするものの、「雑」という悪い部分だけがアメリカンな感じです。

 具体的に特に気になる点を挙げると、まずG1の金属音が強烈で耳が痛くなるレベルなのでルート音でG1を強く弾く曲では絶対に使いたくない音源です。また、D#5も金属音が強く、付近の音と比べると浮いている感じがしてしまうので、メロディラインでこのキーがよく出てくる曲とも相性が悪いでしょう。また、A#3の倍音がフィードバック気味なのか非常にモわっと強く出てくるのも気になります。

【Studio Grands】

 最新作だけあり、Bosendorfer 225は非常に良く収録されていていると思います。若干D#5の金属音的な鳴り方が気になりますが、全体的なバランスは非常に良く自然です。ただし、上記の他モデルに比べると小さいモデルのピアノとなるのでサウンドも控えめで薄い感じです。小さいサイズなのを強調するかのようなサウンドデザインですのでこれは好みが分かれると思います。(本来はもっと濃厚に鳴るモデルだと思います)

  特にSteinway Bに関してはあからさまに GermanDやAmericanとの差を出す為か、スモール感が半端ないです。小さなバーに置いてあるピアノでもイメージしているのでしょうか?チューニングも非常に甘く高ベロシティーになるとあからさまにコーラスのかかったようになってしまいます。

 多くの人が想像する歯切れの良いクリアなSteinway Bとは違う丸くこもった感じで非常に微妙な音源です。あと個別サンプルの話で言えば、C6、C#6が金属的な共鳴で裏返るような響きで非常に気になります。

 ただ、このStudio Grandsからは単純な録音技術の向上は感じます。定位は非常に綺麗に整っており、鍵盤毎の音量差もかなり均一になってきました。あとはこのクオリティで全部の鍵盤で異音や金属音等に気を使って丁寧な収録がされれば間違いなく最高のピアノ音源になると思います。

【最後に】

 今回は割と酷評した部分もありますが、シリーズの殆どのモデルを買ってたくさん使ったからこその酷評なのでIvoryには愛と憎しみがこもっています(笑)。おそらく3が出ればまた絶対に買うと思いますし、2のままでも追加モデルが出れば買います。ヤマハとカワイでJapanese Grandsとか是非出して欲しいですね。

 1の時代のGerman DやItalianがIvoryシリーズの名前を広めた代表格だと思いますが、音の作りと質感は唯一無二で非常に良いメーカーだと思います。ソフトの設計も良いです。でも収録は割と雑で収録後もあまり加工調整してなさそうなところが目立つというのが正直な感想ですね。あとはモデル毎に差を出そうとし過ぎているせいで、変な個性が強調されておかしくなっているような気がします。

 なお、前に一度ハード音源版・音源モジュール版が出るかのような話があり、現在は企画自体無くなったそうなのですが、このデコボコサンプルではリアルタイム演奏で繊細なコントロールは厳しいと思います。まあただ、再録音はしなくても既存のサンプルをきちんと加工調整&EQ処理等をすれば十分に良いと思いますが、なかなかそういうアップデートはしてくれないですね。

 この質感で丁寧な収録がされれば間違い無く最高のピアノ音源候補だとは思うのですが、丁寧な収録と後処理というのはYAMAHAやRoland等の大手メーカー以外のソフト会社にとっては鬼門なのかもしれません。

この記事は以上です。


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