アパシー 鳴神学園七不思議 プレイ感想

2022年8月4日に発売の「アパシー 鳴神学園七不思議」を遊んだ感想を書いていきます。
本当は全部やり込んでから書きたいところですが、ボリュームが凄まじすぎていつコンプリートできるか途方に暮れたのでとりあえず現時点での感想を……。
※ほぼネタバレは無しの記事ですが、一部スクリーンショットを掲載しています。ご注意ください。

発売前から何かと広告で見かけた要素はやっぱりテキスト量の圧倒的ボリュームで、スチルよりもエンディング数の方が遥かに多いという狂気、セーブスロットが分岐数に対して不足しているものの増やされたら増やされたで管理できないであろう複雑さ、しかもこのシナリオ量に加えて店舗別特典で長めのシナリオがついてくるさらなる狂気 とにかく…文章のボリュームが……すごい!!

エンディングを100個回収しても達成率20%…

内容や作風は正直な所シリーズを通して人を選ぶ(単純にホラー・グロ・暴力表現が多い、登場人物の人間性にどいつもこいつも難がありすぎる、文体は全体的に良くも悪くも冗長で回りくどい等 特に文体は好みが大きく分かれると思います)ので手放しにオススメできるわけではないのですが……
とは言え「ホラーノベル」としての完成度は間違い無くハイレベルですし、ただボリュームだけが大きい(いやそれだけでも十分凄まじいが)わけではなく話の奥深さも幅広さも一級品 シナリオ数としては100編弱とかになるのか?人智を超えた怪異はもちろん、幽霊や呪いの怖さに精神内部的な恐怖、人間の狂気や好奇心といったリアリティのあるホラーなど、色々な方向性のシナリオが取り揃えられていて、エンディングに辿り着くまでは何が起きたのか何のせいだったのかはわからない…し、わからないまま終わってしまうこともあります。そのモヤモヤと掴みどころのない不安や気味の悪さもまた一興ですし、ちゃんと他のエンディングで種明かし(?)もしてくれるので風呂敷広げっぱなしで終わるということもなく とにかくいろんな怖い話を読みたい!という方にはうってつけの作品だと思います。3周分だけなら実況OKだったり体験版もあるので、それ見てみて文体が好みだったらぜひやってみてほしいですね。

ホラーゲームとしての怖さで語るなら、いわゆる驚かせ要素的なものはほぼ無いに等しいので、ジャンプスケアが苦手な方は安心してできると思います。イラストでのゴア・グロ描写はそれなりにありますが、あくまでイラストですし出た瞬間はオオッとなるけど余程苦手な方じゃなければまぁ…大丈夫かな……個人的感覚としてはゴールデンカムイが読めればまぁ…くらいの感じです
一方、物語の内容としてはかなりエグいしグロいし虫出てくるし子供や動物も酷い目に遭うし性格破滅してる奴らが好き勝手やるから胸糞も悪いし救いようのないエンディングもあるし…で散々です たかが文章と言ってしまえばそれまでで、結局は文字の並びなので視覚的な恐怖はありません。が、その文字の並びに向き合えば向き合うほどに恐怖が増幅する、それぞれの語り手の口から紡がれる言葉から自分で情景をイメージすればするほど気持ちが重く暗くなっていく、むしろ文章から自分でイメージするしかないからこそ、読み終わった後も自分が作り上げたイメージが頭から離れてくれなくて気持ちが悪くなっていく これはホラーノベルじゃないと味わえない最悪さですね……そういうのが好きな方には自信を持って薦められます。逆に真面目な話、物語のキャラクターに自分の気持ちとか経験を重ねやすい人は苦手なタイプなのかもしれません いや重ねようもない話も多いが…作品を通して最も残虐な描写が様々な「狂気」の感情描写なので、ヤバ人間が好きな人はぜひぜひ サイコ野郎と都市伝説のカタログ あなたが好きになる狂気がきっと見つかるはず

こういう選択肢のところが一番怖いまである

プレイヤーは基本的に坂上くんという新聞部の一年男子の視点で、同じ部活に所属する先輩の日野さんや同級生の恵美ちゃん、そして校内新聞に掲載する企画の取材相手として集まった「七不思議を話してくれる6人の生徒」の話を聞き、反応を返していく流れで話を進めていきます。坂上くんとしての行動を選ぶこともありますが、話している相手への返答を選ぶ時はあくまで"坂上くんの発言"でしかないので、選んだ発言通りに話が進んでいくとは限りません。
特に語り手の6人は曲者揃いなので、よくわからんポイントで機嫌を損ねたり謎に好感度が上がったり、こっちの発言に対してそんなわけないだろ!みたいな反応をしてきて発言内容とは違う方向に話が進んだり…どんな発言が何の引き金になるのかもわからないし、良くも悪くも…悪くも……個性的なキャラクターたちの人間性を楽しむという側面でもボリュームたっぷりと言えるでしょう

私は福沢が好きです
割と普通の感覚のままで狂ってるところが

今回のイラストは全体的に皆さん不健康というか不健全というか 光の当たる場所で生きてない感が強くて良いですよね……。これなら魍魎跋扈の鳴神学園でも戦っていけるわけだな…と納得のいくキャラデザ あと女の子キャラの髪色のグラデーションが綺麗すぎる テキストで説明されてるビジュアルと噛み合ってないことがたまにあるけれどもそこはまぁ…

さて、学校であった怖い話といえば「6人の語り手に話してもらう順番によって各々の話の内容が変わる」やつですが、今作も勿論そのシステムが組み込まれています。完全に6×6通りというわけではないのですが、何番目か何番目じゃないと出てこない選択肢があるだとか、誰と誰の話を先に聞いていた時だけ進む話があるだとか、特定のエンディングを通過していないと聞けない話だとか 7話目も6人の話次第で変わってくるので、色々なパターンを試して何度も何度も周回する楽しさは当然ながらかなりのものです。
また、七不思議というタイトルながら、選択肢次第では七不思議を一度も聞かずに7話目に進んでしまうこともありますし 時には学校外の話ばかりを聞けることもあるし 何なら6人に出会う前、新聞部の日野先輩と恵美ちゃんと話してるだけで場合によってはエンディング(ゲームオーバー)を迎えてしまうこともあります。むしろしっかり6人から七不思議的話を聞き出して七不思議的エンディングを迎えることの方が稀なのでは……?という気持ちもしないではない まぁこれに関しては、そもそも鳴神学園が怪異とヤバ人間がウヨウヨいて何が起きるかわからないし行方不明者や急な転校(隠語)は当たり前で七不思議どころじゃない都市伝説が山ほど生成されてるという無法地帯なので…七不思議というのはあくまでキャッチコピーに過ぎないと言えばそれまでなんですけど……

この周回システムの面白いところなんですが、違うシナリオ同士は勿論同じシナリオの中でも、選択肢次第でキャラクターや怪異に抱く印象が大きく変わってくるんですよ。あっちの世界軸で死んだはずのキャラクターがこっちでは生きてる、こっちでは普通の人間だったはずなのにあっちの世界では人間をやめていたりそもそも初めから人間じゃなかったり、さっき読んだシナリオでは好印象だったのに別の選択肢を選んだら恐ろしい本性が現れたり……選択肢次第で変わる世界線によって、キャラクターの境遇や関係性が変わっていき、それに伴い彼らの行動も変化していきます。一周二周では決してはかり知れない深みが、キャラクターの一人一人に、物語の一つ一つに作り込まれているわけです。
そしてそれと同時に、根幹となる怪異等の大まかな情報はエンディング間でちゃんと共通してるので、あのエンディングのアレは結局どういうことだったんだ?という謎が別のエンディングで解決することもあります。パズルのピースを埋めていくような謎解きと、世界軸によって変わっていく物語の多彩さを一緒に楽しめる、なんとも贅沢な作りですね……。
語り手キャラの6人や坂上くん・恵美ちゃん・日野さんなんかは特にこの印象の差が大きくて、本性や正体(かどうかも分岐によってはわからない おそらくあの倶楽部が存在する世界線が正規の時間軸というか本筋だという個人的な考え)を知ってるからこそ、彼らが酷い目に遭ってもまぁまぁまぁ…で済むんですが、ルートによってはマジで何もしてないのに本当最悪な目に遭ってるという 若干性格に癖はあるかもしれないけど別に全然普通の高校生だし何も悪くないのに本当かわいそう みたいな感想しか抱けないルートもあって…いやシャンプー作らされる福沢とかサンブラ茶中毒にされた細田とか、あれだけで完結すると本当にシンプル気の毒な子だから……坂上くんもルート次第ではマジの被害者だから……逆にどいつもこいつも最低最悪の印象をぶちまけてくるルートも当然あるので、キャラクターのイメージを二転三転してくる そういった意味でも大いに楽しませてくれるストーリーとなっています。
しかもですよ 何がすごいってキャラクターたちはルート毎に印象が変わってもその印象の変化による矛盾が一人の人間の中に起きないんですよね……特にメインキャラクターの印象の違いは、あぁこれは世界線によって見た目と名前だけが同じの全くの別人なんだな〜というわけではなく、人間性における多面的・多角的な描き方として取れるというか 同じ性格、同じ人間性の一人のキャラクターが、状況や立場の変化によってそれぞれ行動や言動を変えているんだなという話運びになっているんです。これだけ膨大かつ幅広く数々のエピソードを作りながら、そこに息づく(死ぬこともあるが)キャラクターの特徴は一貫しているのが……もっとも今作に限った話ではないのですが、あらためてその鬼才さを思い知らされましたね……

収録シナリオは過去作からそのまま持ってきているもの、過去作のシナリオをリライトしたり加筆したりしているもの、完全新作の3種。結構過去作の話も多いので、シリーズを全て網羅してきた人には物足りないのかも…しれない……私は全部やったわけではないので知らない話の方が多く、新鮮な感覚が優っていますが
裏を返せば過去のシナリオ達から選ばれたよりすぐりの作品が再収録されてるわけでもあるので、逆に学怖を初めてプレイする方にはちょうどいい立ち位置なのかもしれません。それにしてはボリュームが優しくないが…もちろん今回再収録されたシナリオ以外にも面白い話や人気の話はあるので、七不思議をやってみてシナリオや分岐システムに興味を持った人が過去作に手を伸ばす、入口的な役目にもなるんじゃないかなとも思います。

お馴染みサンブラ茶のスチル

システム面で良かったところ スキップモードが思ってた以上に高速なのが助かりました。未読ポイントに入るとピタッと止まってくれるのもありがたい とにかく周回が必要なので……高速すぎて途中で止めたくなってもどうしようもない部分はある イノシシの如きスキップ機能
逆に気になった点としてはまずフォントサイズの小ささですね……テキスト主体のゲームと考えるとちょっと読みづらいのでは……?とはいえこれは私がSwitch liteでやってるからってのもあるので、普通のサイズのSwitchでやったらちょうどいいのかもしれません 欲を言えば、Kindleみたいに任意でフォントサイズを数段階で変えられると良かったな…と思います。あまり大きくしても雰囲気が損なわれるって感じる人もいるだろうし ってかSFC時代とかはテキストゲーをテレビでやってたんですよね 今思うとすごい話だ
あとこれも贅沢な欲なんですけど、しおり機能というかマーカー機能というか 気に入った表現をプレイヤーが自由にいくらか保存してまとめておけるみたいな機能があると良かったな……言い回しが独特で面白い作風なので……スクリーンショットを撮っておけという話ではある

人生で二度と見ない日本語

それとまぁ、気になるところと言えば攻略チャートの扱いなんですけど…発売時というか現状、攻略チャートを手に入れるためにはほぼ倍額する(もちろん攻略チャート以外にもサントラとかドラマCDとかアートワークとか特典は付いてます)限定版を買うしか手段がないんですよね まぁ最初から限定版買ってる人は良いんですけどそれで、私もPC版やっててこれは攻略チャート無いと厳しいなって発売前からわかってて限定版買ったんでそういう人はそれで良いんですが 今回初めてシリーズに触れる人とか試しにやってみようみたいな人が通常版やダウンロード版買った場合、後々攻略チャート欲しい!ってなった際の救済措置が無いのがな〜勿体ないな…とはどうしても思ってしまいますね……
実際攻略チャート見た人はわかると思いますが、この作品攻略チャート無しに自力でコンプするのほぼ不可能じゃないですか 単純に選択肢を別々に辿れば良いわけじゃなくて、別シナリオでフラグを立てるだとかこのエンディング回収した上で再周回するだとか、ポイント制みたいなのもあったり それを後から知る手段が無いのはどうなんだろう……と 一応ファンブック的なものが出るかもしれなくて、そこに完全攻略チャートが付くかもしれないらしいので、とりあえずそれに期待ですかね PDFとかで別途頒布みたいなのは、やっぱりSwitchで出してる以上厳しいのかな……

逆に言えば、自力でコンプリートを目指すなら非常に かなり 物凄く 骨のある作品と言えるのではないでしょうか?分岐に関わるランダム要素はない(はず)ので、あらゆることを試してあらゆる組み合わせで挑んでいけば自力でできないこともない……はず……収集要素が好きな方や試行錯誤が好きな方、ゲームブックが好きな方 ホラーが大丈夫であれば絶対に楽しめると思います。
500を超えるエンディングが用意されているので、是非とも最初の一周目は攻略とか考えず、自分の本心の赴くままに選択肢を辿っていってほしいところです。やり直しは簡単にできるので、プレイヤー自身の好奇心や恐怖心、危機回避能力や狂気など、各々持ち合わせたそれらがどんな結末に辿り着くのか?もう555分の1のエンディングとなるともはやオーダーメイドの物語と言っても良いでしょう。
好奇心は猫をも殺す、君子危うきに近寄らず 先人の言うことはもっともですが、しかし必ずしも同じ手が通用するとも限りません。このゲームでは、どんな選択がどんな結末に繋がるのか…好奇心に殺されることもあれば欲望のままに進むことで自らの生存を掴み取ることもある、深入りしないことが得策にもなれば無知につけ込まれて足を踏み外すこともある、浴びるほどの狂気が幸福を満たすこともあれば、平穏な日常ごと深い悪夢に落ちていくこともある 物語の先へ進んでみないとわからない、読み進めれる程に入り組んだ迷路に引き込まれていくような、何度も予想外を見せてくれる作品です。

人類が崩壊することもある

ちなみに私が心の赴くままにやった初回プレイでは、語り手の6人に会うことすらなく日野さんがかわいそうなことになって終わりました。そういうことも…ある……!

今や携帯でもハイレベルなグラフィックのアクションゲームが楽しめる時代ですが、そんな中で鳴神学園七不思議はテキストと静止画だけで作られたゲームです。テキスト送りと選択肢を選ぶ以外の操作は一切無く、言ってしまえば文章を読んで絵を見ること以外何もすることはありません(十分だろうが!!)。それでも、この圧倒的な文字数の量と多彩に作り込まれた鳴神学園という世界観、そして先の見えないほど深く広がった闇に突き落とされる恐怖と狂気の展開……実際視覚と聴覚から得たはずの情報以上の何かを、このゲームは私たちの脳や精神に流し込んできます。
テキスト量とエンディング・分岐の数を受け、発売前のレビュー記事で「さながらオープンワールドゲーム」と評されていたのですが(この記事が見つからない 無念)、本当にそれ 選択肢という決められた道筋とはいえその膨大さと奥深さがあれば、もう実質どこにでも行けるわけですよ いや…どこにも行けず、全ては自分の頭の中だけの話かもしれないんですけれど……鳴神学園のあちこちへと赴くことができて、時には学校の外へと足を運び、果ては誰かの心の中へ……無限に広がるかのような暗闇を冒険できる、好奇心は人をも殺す、そんなオープンワールドノベルゲームとして 心からオススメしたいですね

学校のチャイムの音程が少しずつ狂っていって、そこからオープニングに入る演出 良いよね……

まだまだ残暑厳しく寒気を覚えたい人にもピッタリ 寒い季節にやるとそれはそれで得られる辛さがあるのでロングスパンで楽しみたい方にも是非
ここからさらに40万字ほどの追加シナリオ(しかも複数の話ではなく一つの話らしい)がアップデート予定らしく、まだ広がるのか!?と慄いていますが…発売日アプデの「秘密」も腰抜ける面白さだったので楽しみすぎますね まだまだ読んでいないシナリオが山盛りなのでまずはそっちからですけど、引き続きじゃんじゃん楽しんでじゃんじゃん嫌な気持ちになっていく所存です

蛇足ですが、私のイチオシシナリオは新堂さんから聞ける「ゲーム実況怪談」です。コンパクトにまとまりながらもかなりの怖さとインパクトがあり、ゲーム実況者という文化にはもちろんそれに対する"視聴者"にもスポットを当ててきてるのが強いし身につまされる恐怖があります この話読むだけでも買う価値ありますよ!

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