見出し画像

働きながら大学院で学ぶ: University of Warwick編

受講の経緯

2019年4月からの1年間、アイルランドに拠点をおき、世界の家庭医に対して教育機会を提供しているiheedが提供するPostgraduate Diploma in Diabetes in Primary Careを受講する機会に恵まれた。

海外ではacademic qualificationとして、Certificate, Diploma, Master, PhDという序列がある。それぞれ履修期間と達成すべきことが異なり、学位として認証されるのはMaster以降であるが、それ以前のqualificationも正式なトレーニングとして履歴書に記載することができる。今回のacademic qualificationの認証母体はイングランドにあるUniversity of Warwickだ。Times Higher EducationのWorld University Ranking 2020で77位に位置している由緒ある大学である。

iheedの提供するプログラムはContinuing Professional Development (CPD)の仕組みとして優れており、日本の家庭医のCPDにも応用できるのではないかということで、日本での開催が決まったようである。私は初年度モニターのような位置付けでボスから受講希望を尋ねられていた。どれくらい時間がとられるのか若干不安はあったのだが、「これはまた英語を学ぶチャンスだ」と思い、受講することにした。


どのようなプログラムか

このコースは1年間をかけて、毎週1テーマについてwebを通して学習し、その内容をonline tutorialで話し合って学びを深めるというサイクルによって構成される。6テーマで1モジュールが形成され、コース修了までに計6モジュールを学習することになる。それぞれの1週間の中ではtutorialまでの間にtutor(英国の家庭医の他、世界中の糖尿病に造詣が深い家庭医がつとめる)が参加者にお題を与え、これについてtext-based discussionを通して学ぶようになっている。この他に年2回開催される東京でのオンサイト学習が用意されていた。成績判定は計6モジュールそれぞれに対する修了テスト(これは知識を問うテストで、multiple choice questionとshort answer questionから構成される)と、年6回の2,000 wordsのessayで評価される。

このプログラムのキックオフは東京にあるアイルランド大使館でのレセプションから始まった。アイルランドの企業が日本で活動するにあたり、大使館をあげたサポートがあるということに驚いた。また、そこに居合わせるという経験をすることができたことを大変嬉しく思った。そこで英国の家庭医でありiheedのtutorでもあるDr. Colin Kennyと直接お話することができたが、やはり家庭医同士ということで、糖尿病診療にどのような難しさがあるかという点について、悩みは万国共通なのだと感じた。コース内容が非常に楽しみになり、ここから先学んでいくモチベーションになった。

このキックオフのあとから第1回のオンサイトワークショップが開催されたが、英語のみでコミュニケーションをとりながら学んでいくのは、慣れていないとそれなりに難しいものであった。そう、このプログラムもHarvard Medical SchoolのCertificate Programがそうであったように、英語で行われて英語で評価されるのにも関わらず、応募の際にEnglish qualificationの提出が必要なかったのである。直前のHarvardのプログラムでいくらか英語が扱えるようになっていたので何とか内容についていくことはできたが、正直なところ多少は英語について聞いたり話したりできる下地がないと、継続するのに苦労するように感じた。

画像1

逆に、この経験を通して「英語を使って学ぶ」、あるいは「英語で研究を発表する」ような場合、どの程度の英語を扱えるようになればよいかのレベル感も分かり、自分にとっては今後の学習やキャリアを計画していく上での非常に大きな目安やヒントとなった。また、tutorらはイングランド、アイルランド、ドバイから参加していたが、それぞれ訛りがあり、こうした国際的な学びの場ではいろいろな訛りがあってもコミュニケーションがとれる必要があることも分かった。そういう意味では反対に、日本人の喋る英語もかなり聞き取ってもらえるように感じた。


Essay地獄

私がもっとも苦しんだのはessayである。日本ではそもそもessayの書き方というものを習わないが、introduction、body、conclusionがあり、bodyの中でのパラグラフの書き方もお題によって暗に決まってくる。このようなessayの常識というようなものも当初持ち合わせていなかったので、最初はこれに苦しんだ。まず、英語で自分の意見を書く、ということに大きなハードルがあった。ある程度書けるようになるまでは数ヶ月はかかったと思う。しかし、この経験を通して英語で論文を書くようなこともあまり抵抗なくできるようになった手応えを感じ、やはりここでも大きな学びを得ることができた。

essayの書き方については下記の書を参考にした。もっとよい書もあるのかもしれないが、短期間で読めることもあり、私にはちょうど手頃な書だった。「受動態は能動態より弱く、不明瞭になりやすい表現だから、できるだけSVOないしSVCで書け」といったtechnical writing系の書を読んだこともあったので、「じゃあ、受動態って何であるの?」と思っていたのだが、この書に答えがあった。書き言葉では「文頭に既知の情報、文末に新しい情報を入れる」という書き方があるらしい。これをend-focusと呼ぶ。この形を作るために、前の文末で出た情報を次の文頭で回収する形をとる。これをcohesionを作ると言う。こういうことをやるために受動態の出番が必要になるわけだ・・・・と、私は理解した。

そして、essayを書くにあたってはGrammarlyを使用して間違いがないかチェックをした。spellの訂正、文法的に成立しない場合の修正提案、繰り返し同じ用語を使用している場合の代替語の提案などをしてくれるツールだ。フリー版と有料版があるが、自分はこれを機にwritingを勉強したかったので、有料版にした。1年おきの更新だが、期限が切れる前にディスカウントで継続意向をチェックされるようになっている。

私はこのときは知らなかったので使わなかったが、今はDeepL翻訳というアプリもあり、それなりに翻訳精度が高いと聞く。こういうものもessayを書く際には利用できるかもしれない。


受講して得られたもの

当然のことながら、糖尿病そのものについてかなり多くのことを学ぶことができた。私たちが学生のころは学ばなかったinsulin pumpのことや、新しい薬の実際の細かな使い分けのコツ、細かなエビデンス、患者教育プログラムのことなど、このコースを通して自分の糖尿病診療が大きく変わったことは間違いない。

そして、やはり今回も英語についてかなり学ぶことができた。特に、writingを学ぶことの効用を強く感じた。speakingはそのときある知識をぶっつけ本番で吐き出すようなものなので、正直なところたくさん話せばどんどん上手くなるとは言えないのではないかと思う。一方、writingは即興ではなく調べる時間がある。言い回しを調べたり、動詞の使い方や類義語を調べたりできるので、そこで言い回しや語彙が増えていく。自分の実感としては、ここで身についたものはspeakingのときにも吐き出せるようになるのである。なので、speakingをよくしようとしたら、同時にwritingもやるべきだと思った。もちろん、発音とかイントネーションはspeaking独自のものなので別なトレーニングがいると思うが、前述の通り世界には訛りの多い英語を使う人も多いため、文法的に概ね正しいことを自信をもって話せるようになることを優先させるのが、会話を成立させる近道なのではないかと思った。

かくして、2020年6月に以下の通知を受け取った。

"I am very pleased to confirm that the Board of Examiners recommended that you should be awarded a Postgraduate Diploma in Diabetes in Primary Care with Distinction."

"with distinction"というのは「優等」という意味らしい。Harvardのプログラムを受講した際は「英語を受け取ることはできても発信することができない」状態だったのが、これである程度発信できるようになったという証を受け取ったように感じた。

そして舞台は次のステージへ向かう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?