【芥川賞受賞作】池澤 夏樹著「スティル・ライフ」感想・解説・小説の研究など
※ネタバレ注意
「芥川賞全集 十四」を元に書いています。
概要
1987年下期の『芥川賞』を受賞した作品。
Wikipediaによれば、芥川賞受賞作の中では、初めてワープロで書かれた作品とのこと。
原文パパは新しいものが好きなので、自分の感性とこの時点でマッチしました。
著者の池澤 夏樹は、文豪である福永武彦さんの息子さんとのことです。
松本清張の記念館に行った時、沢山の万年筆がショーケースの中に入っていたのを見たけど、原稿用紙で書く時代は、この時から終わりに向かったのだろう。
タイトル
「Still life」とは、静物画の意味。静物画(せいぶつが)とはどんなものなのかについては、実際に絵を見るとすぐ分かります。言葉で書くとすると、例えば、机の上に置かれた梨とかの食べ物なんかを描いたジャンルです。
「まだ人生は続く」的な意味かと思っていたら全然違った。学が無いとは恥ずかしい。静物画にも額(がく)はあるだろうに。
Suedeの曲に「Still life」という曲があるのでオススメです(脱線)。
実は収録されているアルバム『ドッグマンスター』のジャケットと歌詞がリンクしているっぽいことを最近知った。
芥川賞を受賞する作品のタイトルは長くない。村上 春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」みたいな長いタイトルではダメなのかもしれない(このタイトルがダメと言うわけではない)。
登場人物
ぼく:漢字の「僕」ではなく、ひらがなにした理由は何だろう。染色工場でアルバイトをしている。彼のことを「きみ」と呼んでいる(P121)。
彼:佐々井。染色工場でアルバイトをしている。入ってきたのが後なので、後輩だと思う。年齢は主人公より上。主人公(ぼく)のことを「きみ」と呼んでいる(P129)。佐々井も自分のことを「ぼく」と呼んでいる(P132)。
主任:
ーーーーーー
ぼくと彼は「きみ」と呼び合っていることが分かった。そして、どっちも自分のことを「ぼく」と呼んでいるので、セリフが時々、どっちが今話しているんだっけな?と思う箇所がある。
舞台
季節は冬。
プロローグ(勝手に命名。選評では「宣言文」(P427)、「前説」(P434)と書かれていた)
冒頭の文章は1人称ではなく、「きみ」になっているということは、2人称か。面白い。
一体誰から見た視点なんだよと突っ込みたくなるけど、神の視点なのだろうか?
漢字ではなく、「きみ」とした理由も知りたい。
空白の改行を使い、時間の経過を表す表現を使っても良いのだなと感じた。
選評では要らない文章だと言っているかたが多かったが、宇宙的な視点なところが良いと感じた。
本編(勝手に命名)
アスタリスク「*」で章を分けている。アスタリスクは、小説の中で合計2回出てくる。冒頭と最後の部分。
では、最後の部分も2人称なのかと言うとそうではない。「きみ」の視点がまた出てくるのかと思ったらそうではない。
「彼」がどんな人なのか、どんな見た目(着ている服、髪型も)なのかは説明せずにいきなり会話文。小説はアクションシーンから書けが鉄則なので、説明を後からにしているところが良い。
どんなバーなのかの説明も省いており、簡単な描写に留めて、8行目からもう会話に入る。こういう書き方ができるのがプロなのだろう。漫画でも、素人は冒頭で物語を説明しすぎてしまう傾向があるらしい。
何の種類のウィスキーなのか、グラスがどんな形状なのかも必要ないのだろう。
7個連続でセリフが続いている(間に地の文無し。間の地の文もカウントすると、8連続)。最初にどっちが話したのかを地の文で最初だけ書いておけば、あとは交互に話していることが分かるので、地の文無しでセリフを連続しても問題ない。
チェレンコフ光の話もロマンがあって素敵。
頭蓋の描写があるが、それは映像化できないから価値があると思う。映像化できない表現をいかに入れられるか、独特の視点で物事をとらえることができるかが大事だと考えさせられた。
ではどうすればそんな描写が書けるようになるのかを考えてみると、目に見えない部分を想像で書くと面白いかもと思った。例えば、パソコンの内部やコピー機の中とか。たとえが陳腐かもしれないけど。
あるいは、動物や機械、植物、目線では何が見えているかとか。人に踏まれるアリとかも良いかも。独自性がある表現は数個くらい入れると作品が引き締まるかも。
「彼」の説明は2ページ目から始まる。いったい誰と話しているんだろうというのは、情報量の少ない小説では当たり前のことかもしれない。それが映画との違いであり、楽しみ方でもあるのかなと思った。
最初から見た目とかを沢山書くと地の文が多くなるから、地の文は一旦捨てて、セリフ優先で、いったい誰と話しているんだろうというという印象を作るのも小説では当たり前のことなのかもしれないと感じた。
話を一旦切る時(全く違う話に変わる時、日が変わる時)は、1行空白を入れている。しかし、そうではない箇所もあった。その違いは何だろう?
地名は出てこない。東南アジアや東京については言葉として出てくる程度。
「雨崎」という地名が出てくるが、架空の街か?
神奈川県 三浦市に雨崎海岸というのがあるらしいけど、グーグルマップではなぜかヒットせず。
東京の天気の描写がある(P123)から、住んでいるのはやはり東京か?
146ページ辺りを読むと佐々井が過去に住んできた場所が分かる。
人と合流する時は、どこで何時に集合するのか等、細かいことは一切無視しても良いことが分かった(P119)。無駄な描写は省かないと、文字だけ消費して、伝えたいことがぼやけてしまうのだろう。
めちゃくちゃ長いセリフもある。
10連続のセリフもある(P120~121)。
バーに入って、バーボンを既に何本か飲んでいるシーンがある(P121)のだが、バーに入ってからは時間が経過したようなシーンがない。
つまり、バーに入って時間が経ったところから描写を始めていると考えたほうが良さそう。
つまり、席に着いて飲み始めて、「今日はお疲れ様。とりあえずウイスキーで」と書いた後、「時間が経過した」という表現を入れるなどの一部始終を全て書く必要はないということが分かる。ダイジェスト的に、重要なところを書けば良いことが分かる。
動画編集でも同じことが言える。カメラ回しっぱなしの一部始終を全部放送すると退屈になってしまうのかもしれない。
素材をそのまま使わずに、料理にするのが重要かもしれない。
そういえば、匂いについての描写は無い。
いきなり1年経過した。
誰と「雨崎」へ行ったのかが書いていないので分からない(P124)。
何年経過したのかが分からない(P126)。毎年という言葉を使うということは、数年経過しているのだろうか?
この時代にシステムトレードの話をするのは新鮮だっただろうと思う(P127)。さすが、芥川賞受賞作の中では、初めてワープロで書かれた作品の著者だなと思った。
ガールフレンドは出てくるが、恋愛小説ではない。ガールフレンドからは主人公がどう見えているのかなどは一切出てこない。一人称小説だからかもしれないけど、ガールフレンドとなぜ別れたのかは不明。
恋愛小説でなくても芥川賞は受賞できると分かった。
株の話の真実を佐々井が口にしだしたところから、佐々井の結末がどうなるのかが気になって、それが読者を引っ張るきっかけになっていて良い。このあとどうなるんだろう?という仕掛けは、やっぱりないといけないと感じた。推理小説と同じで、最後まで読みたくなる仕掛けは大事。
常用外漢字など
・坐っていた。(P115)
・向う(P115)
・沙漠(P120)
・厭きてしまった(P143)
疑問
行頭一字下げはどのようにしているのか?
鍵カッコの数を数えると、277個だった。これは、数え間違いもあるかもしれないのと、冒頭しか見ていないので、文の途中に発生するセリフのカギカッコはカウントしていない。
文字数は何文字なのか?21行×26文字×2段×37ページ=40404文字(マックス)
そのうち、空白が1割あると考えると、40404文字×90%≒36364文字
日本語は1文が50文字が平均らしいので、勝手に50文字=1文とすると、36364文字÷50文字=727文
鍵カッコの数を数えると、277個だったので、セリフの割合は、277÷727文=38パーセント
つまり地の文は、62%。
これは推定値なので、正確な値ではない。
セリフの中で最も長いセリフの文字数は?
地の文がひたすら続く箇所は何行に渡っているのか?
どんな人にオススメか?
自然描写の美しさに触れたい方
宇宙、物理が好きな人
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