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遠隔密着共創組織のXXトークセッション①フルリモートでもエンゲージメントが高い理由

「遠隔密着共創組織のXX」というタイトルの元、新しい働き方について考えるGoodpatch Anywhereのイベント。
Goodpatch Anywhereは「遠隔密着共創組織」のフルリモートのデザインチームを立ち上げた経験から、様々な制約の中でも働きがいやキャリアを諦めない働き方の可能性を見いだしてきました。
今回はモデレーターに西村 創一郎さん(パラレルワーカー・副業研究家として、個人や企業のコンサルティング及び講演・セミナーも多数実績)、Goodpatch Anywhere事業責任者の齋藤恵太、
そしてゲストは、Anywhere設立のきっかけともなった小笠原 治さん(さくらインターネット株式会社 フェロー / 株式会社ABBALab 代表取締役)をお迎えしました。

「遠隔密着共創組織の作り方」というテーマのもと、3名が繰り広げる90分のトークセッションをお楽しみください。

登壇者プロフィール

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小笠原 治 (株式会社ABBALab 代表取締役 / さくらインターネット株式会社 フェロー / 株式会社tsumug 取締役)
1971年京都市生まれ。
さくらインターネット株式会社の共同ファウンダーを経て、ネット系事業会社の代表を歴任。その後、シェアオフィス「NOMAD NEW'S BASE」やスタンディングバー「awabar」2011年、株式会社nomadを設立しスタートアップ支援事業を軸に活動。
2013年、株式会社ABBALabとしてIoTスタートアップのプロトタイピングに特化した投資事業を開始。同年、DMM.makeのプロデューサーとしてDMM.make 3Dプリントを立上げ、2014年にはDMM.make AKIBAを設立。
2015年8月からエヴァンジェリスト。同年、さくらインターネットにフェローとして復帰。
2017年、京都芸術大学教授、mercari R4Dのシニア・フェローに就任。また「Fukuoka Growth NEXT」などを手がけながら
さくらインターネットとして、経済産業省からの委託事業である、衛星データプラットフォーム「Tellus」の立上げに関わり現在も推進中。宇宙産業全体の市場規模拡大を目指す。

他、内閣府SIP構造化チーム 委員、経済産業省 データポータビリティに関する検討委員、福岡市スタートアップ・サポーターズ理事等。
数々の事業のなかでも、遊休空間に新たな空間価値を与える空間サービス「TiNK Desk」を展開する株式会社tsumugが従業員ゼロでの運営を実施。

Twitter:@ogasahara

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西村 創一郎(HARES CEO / カタリスト)
複業研究家/人事コンサルタント。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。2017年9月〜2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。 プライベートでは11歳長男、8歳次男、4歳長女の3児の父、NPO法人ファザーリングジャパンにて最年少理事を務める。10数個あるプロジェクトを全てリモートワーク、フルリモートでプロジェクトを遂行。受託して業務遂行することもあれば、フリーランスや副業、パラレルワーカーの方に発注することもあり、まさにこの「遠隔密着共創組織」を目指してチーム運営している。

Twitter:@souta6954
Facebook:@souta6954

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齋藤 恵太 (Goodpatch Anywhere 事業責任者)
制作会社を経て、2013年にグッドパッチにジョイン。代表的事例はマネーフォワード iOS(2014)やFiNC Technologies のアプリ・サービスデザイン。コミュニケーションを重視し長期的に案件に関わるスタイルで数々の組織の成長を体感、良いプロダクトやサービスを生み出す組織について研究しています。2018年10月よりリモートワークの新規事業 Goodpatch Anywhere を事業担当者として立ち上げ。

Twitter:@qnoub
Facebook:@qnoub
齋藤 恵太インタビュー

「超遠隔密着共創組織」 とは

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西村:
この「超遠隔密着共創組織」って言葉、面白いですよね。相反する「遠隔」と「密着」っていう言葉が出てきているのですが、要するにリモートでそれぞれ遠隔の地で働いていて、心理的な密着性を持って、Co-Creativeな組織を作っていくということですよね。恵太さんたちAnywhereチームはコロナ前からやっていて、やっと俺たちに時代が追いついてきたという感じだと思うんですが。そもそもこの「超遠隔密着共創組織」とはなんなのか、どういった背景からこの概念が生まれてきたのかなど、Anywhereチームの悪戦苦闘も含めて、シェアいただきたいのですが、いかがでしょうか。

齋藤:
これバシッと説明できるものを用意できればよかったんですが、考えながら話しますね。そもそも僕らの場合は、クライアントさんの事業をいかにいいものにしていくかを考えています。そのためにお客さんとのパートナーとして、一緒にデザインしていきましょうという形なんです。なので基本的にスタートアップでいかに事業を作っていくかになるんですよね。
じゃあどうやったら事業やプロダクトがよくなるんだろうとなるのですが、やっぱり不確実性の高いこの時代にアプリやWebを作るのであれば、一人でマネージしきるなんてありえない世界になっているというのが、まず出発点なんです。

だからデザイナーだからって一人の職人だけで作るんじゃなくて、いろんな専門分野を複合させてコラボレーションの幅を広げていこうとなるんです。ここでAnywhereの仕組みが役立つのですが、Anywhereって正社員雇用ではなく、時間給のパートタイムで働いていただくことになっているんですね。
そうするとフリーランスや副業の方もAnywhereの仲間に入っていただくことができて、そういった人たちを巻き込んだプロジェクトを作っていくこともできるんですよ。
例えば小笠原さんが手がけている宇宙プロジェクトのTellusで考えると、宇宙のプロジェクトやったことあるデザイナーなんてそんなにいないわけです。そこでAnywhereから2人、宇宙業界の経験者である人を入れることができたりして。普通の制作会社ではできないような、オールスターやドリームチームを作ってプロジェクトに当たれるようになるんです。
それを地理や労働環境、雇用の制約を飛び越えてコラボレーションできる環境を作っていきたいよねってやっていたら、今こういう感じになりました。

そういったコラボレーションをするために僕らは、心理的安全性のあるチームを作ることを宣言していて、お客様も含めたチームビルディングをしていきます。スクラムみたいなスタイルですけど、毎日ミーティングもしてます。週に1回じゃ遅すぎるので、毎日顔を合わせて、心理的な距離が開かないうちにどんどんディスカッションできるチームを作っています。
地理的なところでいうと、僕らはFigmaやStrapやMiroなどのデザインツールを使っているのですが、こういったものもお客さんにリアルタイムで入ってもらえるようにしています。隠し事が何もなく、情報がオープンになっている上で、エンドのお客さんと一緒に作っていきたいんですよね。そういったコミュニケーションのスタイルは、この「遠隔密着」というワードに凝縮されているんじゃないかと思っています。

西村:
なるほど。Anywhereのチームって発足してからどれぐらい経つんですか?

齋藤:
2年とちょっとですね。

西村:
まだ2年とかそんなもんなんですね。ちなみに小笠原さんはコロナ前からこういう遠隔型のリモートドリブンなチームでお仕事をされていたんですか?

小笠原:
そうですね。Tellusってまだ3年目なんですよ。遠隔は特に意識していなかったんですけど、コラボレーションという意味では実現できていました。Tellusのチームには、キヤノン電子で衛星の開発やっていたPh.D.や、NECでメカエンジニアをやっていた女性、JAXAからどっぷり宇宙をやっていた人とかがさくらに転職・出向して、一緒にやっているんですね。
Tellusとしてコラボレーションできるツールも、Google Workplaceなどを最初から標準にしていたので、コロナになったときに新しく使い始めたツールはなかったです。tsumugでいうと、そもそも全員業務委託で出社義務がなかったのですんなり行きました。この「超遠隔密着共創組織」ってすごく面白くて、ここでいう組織って工場的な組織というよりも、新たな時限組織なんだなって思うんです。プロジェクトベースだからこそ「密着」が必要で、でもその密着っていうのはフィジカルなことだけじゃないよ、っていうのが全部入っていて面白いですね。

齋藤:
それこそTellusさんは「さくらインターネットといえば北海道」というイメージができているので、元々そういった素養はもたれていたのかなと思っています。僕らもすごく入りやすかったです。

小笠原:
さくらもオンライン前提の会社になるということで、東証一部に上場してる会社でそれを前提と出せたのは大きいですよね。そこからフルオンラインもOKというのが決まって。そんなに「それじゃダメだ」みたいなことなく、進んでいますね。

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働く場所の変化

西村:
続いて「仕事場について」のトークテーマに移りましょう。例えばAnywhereやTellus含めたさくらインターネットのみなさんは、基本的に自宅でリモートワークをやっているんですかね?都内だと最寄りの駅のコワーキングスペースを使う方もいると思うのですが、Goodpatchさんどういう感じなんですか?

齋藤:
僕らは基本的に家ですね。僕らがやっているのってクライアントワークなので、クライアントさんの情報を扱っているんですよね。そのためセキュリティとかは気を遣ってやっています。とはいえ外に行かなければいけないこともあるので、基本的にプライバシーフィルターとかは貸与して使ってもらっています。情報を守るために、雇用形態も業務委託契約ではなく、社員契約だというところも、組織の工夫の一つではあると思います。

西村:
そうなんですね。勝手に業務委託だと思っていました。

齋藤:
そうなんですよね、フリーランスが集まっているギルド的組織と言われることもあるんですけど、結構そこは特殊かなと。なかなか見たことのない形態だと思います。

西村:
小笠原さんはどうですか?

小笠原:
tsumugもさくらも傾向は似ていて、家でやっている人は結構多いです。ただやっぱり東京で在宅ワークはなかなかしんどい人たちが多いので、tsumugではTiNK Deskというサービスをやっています。渋谷や多摩にもあってもあって、15分99円から使える、LINEだけでさくっと使えるコワーキングなのですが、クリエイティブワーク用の24インチ・4Kぐらいのディスプレイが欲しいとか、昇降デスクが欲しいとか、仕事環境に対する願いをかなえる場所を作ったんです。そこで実際に仕事しているメンバーもいます。
そして面白いのが、仕事場変えると、住むところまで一緒に変えちゃうという人が結構出始めてて。みんな移住し始めたんですよ。僕も実は今もう東京にいなくて。

西村:
そうなんですか?

小笠原:
僕、今福岡にいるんですよ。東京の家を解約して福岡にきたら、家の家賃が3分の1で広さが1.5倍なんです。

西村:
すごいですね。

小笠原:
屋上とガレージ付きなので3Dプリンターとか買おうかなと思ったりして。仕事場にこだわりがあるというよりは、心地よく仕事ができる場所にそれぞれの人がいられるようにしてますね。西村さんはWeWorkの仕事もやっていると思うのですが、WeWorkのような仕事場を作ることができる場所って、なんだかんだ人が集まる場所じゃないですか。tsumugは人が集まらない場所にまで作りたいと思っています。部屋から歩いて10分以内でちょっと仕事ができて、家から出て少し思考が変わるみたいな体験に、今はこだわってやっていますね。

西村:
もうそういう時代ですよね。都心からアクセスがいいということが、家で働くようになったらなんのメリットにもならないから。家賃抑えて地方に移住したり、地方まで行かなくても郊外や都心から離れたところに移住する動きは、確実に広がっていますよね。そうなるとみんな住む場所が分散するから、都心にコワーキングを設ける意味がなくなって、どちらかというと一つ一つは小さくていいから、分散型で自宅から歩いていける場所にある方が重要ですよね。

齋藤:
いまここにいる黄色いカーソルのきわさんですが、この方が奈良県の十津川村というところに移住しています。先週僕もそこに行ってきたんですが、結構な秘境なんですよね。空港から2時間かけて山道を行かなきゃいけないんですが。でもそういうところでも、古民家や農家を改装してワークプレイス作ってたりとか、そういう拠点が結構できているんです。朝温泉入ってから仕事してますみたいな話を聞いて、これは移住考えてしまうなと思いました。オプションの一つとして、そういうのがすごく魅力的に見えるようになってきましたね。

西村:
そうですよね。自然な選択肢になりますよね。

齋藤:
先日、小笠原さんのところにも会いに行きましたけど、FGNとかもめちゃくちゃいい感じになってきてますね。

小笠原:
FGNって東京の感覚だとちょっとおかしいですよね。awabarがあるから教室だったところで飲めるし、小学校の跡地の前でみんな金曜日の22時に焚火しているんですよ。

西村:
そうか、小学校の跡地だから校庭みたいなのがあるってことですか?

小笠原:
いや、道路に面した校舎までの空間で。消防の確認もとって、ちゃんと管理者もいるんですけど。焚火をしているのもスタートアップで、さらにそこにスタートアップが集まって、そこで話したりみたいなことをやっていたりとか。東京だとなかなかそういうのはないですよね。

西村:
物理的に難しいですね。

齋藤:
それを福岡の中心地から徒歩圏内でやっているという、やばさがありますね。

西村:
面白いですね。僕のいまの働き方は週4在宅、週1回ぐらい都心にでて働いていて、都心に出る時はWeWorkを使っているんですね。コロナ前とコロナ後で大きく変わったのは、オンラインミーティングができる用のブースの稼働率が50%から常時ほぼ100%になったことでしょうか。ある程度の秘匿性を担保しながらミーティングできるような個室のニーズが、コロナ後は激増していますね。それ前提にコワーキングスペース作られていないので、今後は個室型のソロワーキングのスペースがある場所が、いっぱい出てくるだろうなと思うんですけど、その辺りいかがですか?

小笠原:
いま僕がやろうとしてることがまさにそれで、ホテルの部屋をプライベートオフィスとして昼間に時間単位で使えるというのを作りたくて。これはホテル側からしてもありだと思うんですよね。ビジネスホテルとかだと机ぐらいはありますし、椅子はワークチェア入れてます。必ず一人でお入りくださいという感じで、うちのシステムはカメラとも連動しているので、顔は撮らないけど一人で入室してるかだけ確認できるみたいにもできますね。

西村:
Wi-Fiと机さえあれば十分ですもんね。TiNKもそういう仕組みですよね?小笠原さんは福岡とかでそういう実証実験やっていましたよね。

小笠原:
やっていますね。TiNK Deskの延長線上でそれやりたいなと思って。全てを一部屋にしてしまうと複数名が同じ空間にいることになるのでクライアントワークがやりづらいとか、テレカンがやりづらいなどの意見は出ています。特にAnywhereだとそれこそDiscord繋ぎっぱなしで、ずっと喋って密着しているところもあると思うので、そういう働き方ができる環境をいたるところに作りたいなと。

齋藤:
Anywhereはどこでも遠隔密着してしまうが故に、コワーキングスペース使えない問題が発生してしまうんですよね。本当にずっと喋っているので、結構な死活問題ですね。

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フルリモートでもなぜエンゲージメントが高いのか

西村:
本題に戻しまして、「なぜエンゲージメントが高いの?」というところをお聞きしたいです。今までは物理的に密着した空間で同じ時間を同期性高く働くワークスタイルだったのですが、それをそのままリモートや遠隔型の組織に適応させてしまうと、あまり心理的密着性の高い組織は作れないと思っていまして。
リモート空間でどのようにして密着性の高い組織を作っていくかはノウハウが必要だと思っているんですけど、恵太さんどうでしょうか?離れた場所でも密着性の高い共創組織を作っていく上でのチップスをぜひシェアいただけたらと思うんですが。Discordつなぎっぱなしというのは、いつ頃からどういう発想で始められたんでしょうか?


齋藤:
そうですね、Anywhere立ち上げてしばらくしてからDiscord使い始めたんですが、Zoomでミーティングするだけだとやっぱりすごく限られた時間になってしまって。密着性やコミュニケーションの頻度がすごく下がってしまうなっていうのは感じていたんですね。Slackで「ちょっと今いいですか?」って言ってZoom発行しますっていうのはすごく面倒じゃないですか。それをやるぐらいだったら、今聞きたいことは飲み込みますってなるんですが、それはやめたい。
そうしたときにZoomを繋ぎっぱにしますかって提案になりまして。そうすると今度は監視されている感が出るというか、いやだと感じる人は全然馴染まなかったんですよね。Discordはだいたい同じチームの人が同じチャンネルに入っていて、ミュートにしてもいい状態にしているんですよね。それがちょうどいいなと思ったんです。
それで誰かが「おーい」って声をかけたら、ミュートにしていても「おーい」って返ってくる環境ができていると、チーム内のコミュニケーションが回っていったんです。いいチームほどDiscord上に集まるようになっていくのが見えると、やっぱりこれが正解なんじゃないかなって思ったんです。
そのため繋ぎっぱなしとはいっても、みんなが常にカタカタやっているというより、なんとなくこの時間はDiscordにいるようにしようという形で緩く繋がっています。そうするとやっぱり一人でやっている感覚がなくなっている気がするんです。Anywhereの案件って1on1してみると、ほぼ全員が楽しいですっていう風に言ってくれるんですよ。クライアントワークは結構なプレッシャーの中でやっているとは思うんですけど、普通の仕事よりも楽しんでやってくれています。まず働きたいと思えるような環境を作るところに全力でスイッチして、そういう状況を作れるかどうかが肝じゃないかなと思っています。

小笠原:
コメントで「めっちゃ楽しい」ってメンバーから来てますよ。いいなあ、素晴らしい。

齋藤:
とはいえ熱量も高まりやすいので、みんな悔しいときは泣いたりしますし。

小笠原:
それすごくわかります。僕が教えてる京都芸術大学だと、2020年度の前期は芸大にもかかわらずフルオンラインだったんですよ。Zoomで授業しているんですが、正直初めてやったときはしんどかったです。でもDiscordを用意しているので、休み時間や放課後はそっちで喋ろうみたいな雰囲気があって喋りやすいんですよね。授業はZoomでやって、そのほかのコミュニケーションはDiscordでやります、みたいな使い分けです。
ネットの中だけでも場を変えてあげるとか、何をする場なのかをしっかりしておくのは大事なのかなと。
Discordの方が感情が伝わりやすい気がしていますね。これはなんの違いなのかまだはっきりしていないですけど、音の遅延とか、ほんのちょっとした違いだと思うんですよね。いま僕はtonariという会社に出資しているんですけど、そこは遠隔にいる人がまるで隣にいるかのようなコミュニケーションツールを作ろうとしていて。先日、動画を公開していたんですが、画面越しにじゃんけんをしても後出しにならないくらい遅延を抑えられているですよ。そういうのが当たり前になっていく世界がちょっと見えている感じがします。


西村:
tonariはつい最近、資金調達されていましたよね。

小笠原:
そうなんですよ。うちとかMistletoeさん、あとセールスフォースさんのCVCやっていた浅田さんが出資しています。やっぱりコミュニケーションってタイムラグが...あ、これちょっとエモい話していいですか?

西村:
ぜひ。

小笠原:
僕、同じ時間を生きている人間はいないと思っているんですね。よく「同じ時を共有する」とかいいますけど、時間は距離と重力で違うので。例えば、この高さと地面では流れている時間が違うって、100年以上前に実証されているんですよ。でもいまだにそれぞれ同じ時間を共有しているって思われているんですね。

齋藤:
宇宙の話っぽくなってきた。

小笠原:
そこに距離もあるじゃないですか。今まで同じ時間を過ごすために距離を縮めていたはずなんですよ。でもネットでみんなが会話したりするときの表情を見る解像度が上がって、遅延が起きなくなると、今度はそれだけじゃ足りなくなると思うんです。今までフィジカルに近くにいることで横着していたコミュニケーションの取り方にも気を払うようになるので、オンラインでも十分チームとしてやれる気がしてるんですよね。
速さでいうと100msecぐらいの遅延だったら人間は許容できて、解像度でいうと8Kになると人間の目の解像度になるんですよ。だから8K解像度の画像と100msecの音声遅延、そしてそこに人間の気遣いみたいなのが乗ると、特殊技能とかじゃない、感情含めたチーム化がオンラインでもできると思うんですよね。

齋藤:
僕がさらに思うのは、それがリアルと劣っていたとしても、接触頻度がそれを圧倒的に追い越させてくれるんですよね。1日30回ぐらい会ってれば絶対仲良くなるみたいな。それが故に喧嘩したりもするんですけどね。

小笠原:
なんかほんの1分喋るっていうことに抵抗がなくなって「ちょっと今聞いていい?」みたいな、1分とか30秒みたいな気軽なコミュニケーションができれば、その接触頻度ってすごい人のエンゲージメントを高めますよね。今のZoomみたいに「ここで話そう」ってやるとすごいしんどいけど。

西村:
単純接触効果高いですよね。30分のミーティング1回やるよりも、1分の会話30回やった方が圧倒的に密着性高まりますよね。

齋藤:
うん。僕らのDiscordだと、もうDiscordに関しては名前がわからないとかはどうでもいいと思っているんですね。今日すごく人がいるなという感じに思ったら、好きに名前つけて内輪のネタで盛り上がるようにしておくんです。これだけ人が溜まっている状態になると、この部屋に飛び込んだ瞬間にもう話ができるという感じで。めちゃくちゃこれが楽ですし、楽しくなってくるところがありますね。

小笠原:
そういうのはありますね。だからこそ、まだツールも大事な時期ですけど、そこに人間本来というか社会的な気遣いだったり、接触頻度が重なるとオンラインでのチーム化ってあり得る気がしていますね。

齋藤:
tonariがその辺を頑張ってるのめちゃくちゃいいですよね。あそこオフィスに行ったことあるんですけど、ここまでこの種のサービスで、インフラの話してる会社ないだろうという感じがします。あとあれはやはりオン・オフのどちらかにするという概念で作ってないじゃないですか、その辺がすごくいいですよね。


小笠原:
実際これは葉山と渋谷で開発をしているのですが、彼らは開発しながらどんどん自分たちの仕事をよくしていっています。

西村:
このプレスリリースに出てる写真がリアルなんですね。すごい、面白い。

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引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000069342.html

小笠原:
Webに行っていただくと、動画も出てきますよ。

西村:
へーこれ体験してみたいな、すごい。

小笠原:
子供のピアノのレッスンって今Zoomでしている例がありますけど、これが100msec以下の遅延になると、本当に聞いていて違和感なくなってくるんですよ。tonariだとオンラインでやるじゃんけんが後出しに見えないって結構すごいことで。そこで例えば、Goodpatch Anywhereとかtonariみたいなものがいろんなところにあって、みんなそこにいるだけで別にツールを使っているつもりもないくらいの感覚になりそうですね。そういった拠点がいくつかできたらめっちゃ面白いなと思って。

齋藤:
tonariのパーソナル版まで行けたら、ちょっと導入を考えます。

西村:
なるほど。そう考えると、未来的にはtonariみたいなものが広がれば、音声も映像も遅延なく同期性、密着性の高いチームづくりみたいなのができるんですね。とはいえそれが社会実装されるまでは時間がかかるとすると、現時点でのベストプラクティスはDiscordなんですかね?

小笠原:
僕は使い分けだと思っていまして。ZoomとかTeamsみたいなのは、一定の時間を区切って話したり、一方向から情報を伝えたいときに向いていると思います。対して雑談や情報が錯綜したりすることを好む場ではDiscordとかっていう使い分けが一番いいんじゃないかなっていう気がします。

齋藤:
Zoomは全部自動で録画されるようになっているんですね。議事録にもURL貼ればいいようにしているとか。

小笠原:
あとはツールは何を使うかですね。tsumugだとesaでしょうか。esaで議事録をみんなで取り合っています。編集が見えるツールを使うってすごい大事で。

齋藤:
うちのツール選定基準もほぼそれですね。リアルタイムでカーソルが見えるかっていうことが命。FigmaもScrapも、あとNotionとか、Strap、Miroとかも全部カーソル見える系でやっています。

小笠原:
そうですよね。誰がどこをやっているかわかると人間は脳内補完すると思うんですよ。そもそも人間って、耳から入ってきた情報のうち、脳に認知されているのって7割しかないって説があるんですが、知ってます?

西村:
へー、初めて知りました。

小笠原:
3割は脳が勝手に補完しているそうですね。僕が3分前に言った言葉なんて誰も覚えてないってことです。キャッチーな言葉はその人なりの言葉で脳内に補完されているはずなんですけど。だからカーソルが見えていて、誰かが書いているっていう想像をして、脳内で補完するのはかなり重要だと思っていて、僕がツール選定するときはそういった要素が大きいですね。

西村:
めちゃくちゃ面白い。脳科学的に合理性のある選択かもしれないんですね、カーソル見えるっていうのは。

小笠原:
人間が今まで言葉で脳内に補完していたのを、今度は形や動きでやっている感じですね。

齋藤:
そういうのをソーシャルプレゼンスっていうんだよって、こないだ組織系の人に教えてもらいました。ネット上でも存在感っていうのは伝わるのも、普通にあるんですよね。さっきの例のように「カーソル振って」と言って生存確認したりとかもそうですが。極まってくると「最近あいつDiscordこないよな」とピンとくるようになるんですよね。だから空気ってそれぐらいのことでも伝わるんだと思います。
ちなみにそれがネイティブの先天的なものなのか、デジタルネイティブだけが持っている感覚なのかと考えると、普通に僕らとかちょっと上の世代でもいけているんですよね。っていうところで、全然獲得可能なセンスなんだなって思います。

小笠原:
それをいうと僕、来年50歳でだいぶジジイですからね。

西村:
アラフィフでしたね。

小笠原:
これはこれまでにも繰り返してきた歴史だと思っているのが、今まで当たり前だったものが違う形に進化や昇華されたときって、その当たり前はシュリンクするじゃないですか。それは価値が上がるということなので、逆に今アナログで会うということの価値を高めるチャンスでもあると思っているんですよね。例えば馬車とか、いまは誰も馬に乗っていないけど価値が高いものとして残っているみたいな。いざという時にそれを使うように、対面で物理的な空気を一緒に過ごす価値がもっと上がれば、面白い世の中になるんじゃないかなと思っているんです。
まだ解明されていないですけど「準静電界」というのが、いわゆる「気配」のひとつかもって仮説もあるんですよね。ググってもそんなに出てこない内容なのですけど、あるサメの持っている器官にそれが発見されていて、海底で40cmぐらい下に潜っているヒラメとかをそれで捉えたりしているんですね。

齋藤:
電流みたいなのを感知するんですか?

小笠原:
そうです、波ですね。それが気配って言われるものなんじゃないかと言われていて。
いわゆる覇気のようなものをそういうもので感じているんじゃないかという話があるんです。逆をいうと、そういった覇気のようなもので威圧されて対面では喋りにくかった人、つまり準静電界とかの感知能力が高すぎる人って本当にいると思うんですよ。人と一緒だとちょっとしんどいみたいな。そういう人って、ネット世界になってだいぶ楽になったと思うんですよね。

齋藤:
デザイナー界隈はそういう面倒くさい系の人多いですよ。(笑)

小笠原:
ソーシャルで目立とうとしているくせに、リアルで人に会うと全然ダメとかめちゃ多いですからね。

西村:
リアルだと準静電界みたいなのが強すぎる一方で、完全リモートでバラバラにやっていると密着的なチームを作るのが難しくなるんですね。そういった意味でいうとツール選定の重要ポイントって、気配みたいなのをカーソルでリアルタイムで見て程よい距離感を演出できるかどうかというところになりそうですね。

齋藤:
ブレストとかやってても、リアルで付箋書いてブレストしてもそこに忖度あるんですよね。あの人が書いたあれというような印象で。でもオンラインの場でこういうふうに書いていると、文字もみんな一緒だし、文字の大きさも一緒なんですよ。確実に僕らとしてはオンラインでやった方が付箋の数って出るって思っているんですよね。覇気に負けてしまっていた人たちが、ちゃんと輝ける世界というか。僕も基本的にはコミュ障なんですけど、そういう人たちもいけるぞっていうのが成り立ち始めた気がします。

小笠原:
ネットでは伝わらないもののもう一つとしては、僕は臭いが苦手なことが多いので、それがないっていうのがものすごく捗るんですよね。苦手な臭いを感知する時って、大事な仕事でも本当にやめたくなるくらいなんです。こういうオンラインの良さもありますよ、っていうことだけ伝わればいいかなって、いつも思いながら感謝しています。

齋藤:
決してデジタルだから冷たいみたいな話ではなくて、むしろワシらよく泣くようになったぜっていう気すらする感じはありますね。

西村:
それすごいですよね。先ほど、たけおあずささんが「ジョインして今が一番楽しいです」と言っていたところに本質が詰まっている気がするんですが、たけおさんはマイクオンにして直接お話しいただくことはできますか?

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たけおさん:
そうですね、ジョインする前も京都と東京で仕事してたんですけど、当時は仕事を発注されてZoomでミーティングしていたんですね。その時はDiscordがなかったので、過程を共有することもなく、出来上がったものを全部渡す感じでした。でもGoodpatch Anywhereに入ってDiscordがあることで、さっき恵太さんが言ってたみたいに「これってこれでいいのかな」とか毎日気軽に聞けるのは、すごく楽しいです。同僚がクラウド上にいる感じがします。週末何やったとか他愛もない会話から始ますのですが、前はフルリモートで全然話してなくて機械的だったのに、今はみんなすごく喋るし笑うことが増えましたね。

小笠原:
そういうのすごく大事ですよね。納品物だけ確認されるって、何かを作る機械のように扱われている気がしません? そこだけ評価されていると。

齋藤:
その納品物は一発OKもらうための努力っていうので、めちゃくちゃ無駄な労力使うんですよ。

小笠原:
ちょっとずれるんですけど、今「アル」っていうスタートアップがいるんですけど。

西村:
僕も全く同じこと発想してました。プロセスエコノミーですよね。

小笠原:
そうそう。アルは僕の投資先なのでよく話すんですけど、最近アルが始めたのが、クリエイターの制作のプロセスを垂れ流すサービスなんですよ。00:00Studio(フォーゼロスタジオ)といって、UIはもう何年前のデザインだよ、ネット黎明期かよって感じですけど。これはギターのCGを作ってる様子を配信していますね。

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小笠原:
自分の仕事って、見せられるものは誰かに見せたらいいと思うんですよね。こういうプロセスを共有していくと、いろんな人の興味・関心も増えるような気がしていて。最初にどうやったらいいかわからないからやらないって人、多いじゃないですか。そういうときってこうやればできるってのをみるって大事だし。

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齋藤:
前に、事業計画作るのも意外と簡単じゃんみたいな話もしましたよね。

小笠原:
僕はゼミで仮想の事業計画作るんですよね、最初は僕が学生の前で。勝手にその時に思いついた、こういう店舗をこうやるとこういう売り上げが立って...…ってやっていると、なんとなくみんな事業計画を作れるようになるんですよ。数値だけの事業計画って実は足し算、引き算、掛け算、割り算しか使わないので簡単なものなんですけど、「事業計画」っていうだけで難しく感じちゃうので、目の前で作ってみるんです。そういうことをしていくだけで、なにか伝染していくような、広がっていく感覚はあります。

齋藤:
怖くないよってね。

小笠原:
そうそう。そういうことを伝え合うのが、チームっていう気がするので。

西村:
いまの話すごく面白いと思いました。僕がやっている小さな30人くらいのオンラインサロンがあるのですが、そこに某大手企業の部長をやっている人がメンバーとして参加してくれていて。彼がまさに、フルリモートでのチームを作りをマネジメントしていまして。彼は西野亮廣さんのオンラインサロンに入っていて、人は成果物よりもプロセスに興味を持つことに気づいたそうなんです。
それをマネジメントに置き換えると、まさに事業計画とか役員会議にあげるような資料を作っている場を、リアルタイムで共有しながらみんなにフィードバックをもらったりしていたんですよ。実際にみんなに作ってもらったりするのをやってみたら、すごくエンゲージメントが上がって、みんなが自走するチームに変わったそうなんです。まさにプロセスエコノミーをマネジメントに転用してみたっていう話が学びになったんですけど。今の小笠原さんの話を聞いてまさにそれを思いましたね。

小笠原:
西野さんもけんすうもよくそういう話をよくしているからっていうだけの話なんですけどね。3人とも同じこと喋ってる。

齋藤:
僕らのデザインも基本Figma上で一緒にいじっていったりとか、こうやってStrapとかでやっていたりするんですが、すごくいいチームになってくると、最終的にクライアント側が自分でデザインし始めるんですよね。これとこれ組み合わせてこうでいいんじゃないですか、みたいな。

小笠原:
すごくわかります。あとは信頼感ですね。さっきの「遠隔で密着する共創組織」ってまさにそんな話だと思っていて。クライアント目線でいうと、受け手側も、やっぱり共創組織でいたいんですよ。だからこそチームで背中を預けられて、一緒にやりたいとかやれる人たちとプロセスを共有するって、すごく大事だと思います。
例えばクライアントワークっていうと、システム開発だと「○○システム開発、項目A:10人/月、項目B:3人/月」とかって見積もりがあるじゃないですか。そしてそういう見積もりに対して「本当に一人/月に対して一人張り付けてくれてるの?」ってだいたい言われるんです。人月ってそういうものじゃないんですけど。
でもこういうようなことがないようにしようと思うと、お互いがプロセスを共有して、共感することって大切になってきますよね。絶対に見せられないものはあるかもしれないけど、共有しにくかった昔とは違う価値付けだったり、エコノミーみたいなものができると思うんですよ。

齋藤:
それ見つけたいなあ。結局いまぼくたちの最適解としては、受託ビジネスから準委任契約にして、逆に人月性で貼り付けるっていうことになってるんですよね。その枠の中でできることは極力全部対応します、柔軟にしますという形にしているんですけど。でもベストではないと、ずっと思っています。

小笠原:
そうですよね、「なんか違う」ってなってしまうんですよね。Goodpatchは準委任にできているからいいと思うんですけど。お金の流れが透明ならそんな問題はないと思いますし。Goodpatchは上場しているから、そこの辺は見えるわけですから。これだけの仕事してくれていたら、それだけの利益率出てもいいよねって思われるのはいいと思うんですよね。でもまだもう一歩あるんだよなっていう気はしていますね。

西村:
ベストじゃないっていう感じですね、まだまだ。

小笠原:
まだベターですね。

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第二章は「遠隔組織を作るポイント」についてのトークをご紹介します。