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探求 第2章(文脈の決定不可能性(1))

ある人物Aの身長を考えてみよう。

Aの身長が「高い」か「低い」かと言うのは、明らかに状況によって変化する。Aの身長が170cmでBの身長が160cmならば、AとBの背を比べる状況において、Aの身長はBよりも高いと言われる。

しかし一方で、Cの身長が180cmで、AとCを比べる状況ならば、Aの身長はCよりも低い。したがってAの身長は、それだけで、Aの背そのものの属性として、高い/低いを含んでいるわけではない。もしも含んでいるならば、比較相手の身長がどうであれ、Aの身長は高い(または低い)と言われねばならない。

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さて、この例からAの背が「高い」と言われる状況を一般化してみたい。もしも身長の高さの判定が状況依存ならば、彼がその状況にいる時、かつその時にだけ高いと言われ、また高いとしか言われないような特定の状況が得られなくてはならない。もしそのような条件が存在しないのであれば、人はただランダムに、適当に、身長を比べて高い・低いと言っていることになってしまう。

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いま、その求めている状況を「背高状況」と呼ぼう。

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明らかに、Aの背が何cmであるかは背高状況と関係がない。Aの背が170cmでなく171cmであっても、Bに比べて高いと言われるからである。また、背を比べる実際の場面の多くは、お互いの身長が何cmであるかを正確に知らない。それなのに人はAの方が相手よりも高い、と言う。

cmといった数値は、求めている背高状況の構成要素ではない。170cmならば確かにBより背が高いと言うが、170cmの時に限り言うわけではない。また、たとえ170cmの時に限りそう言うとして、そうすると背が高い-低いを言う人は、相手の身長を数字で精確に知っていなくてはならないが、われわれは往々にして相手の身長を数値で知ってはいない。

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両者の身長をその場で測るか、それぞれに聞くかして、AがBより数値が大きい時にAの「背が高い」と言うような特定化は、間違っていないが不十分だ。

数値の大きい(小さい)は、背の「高い」「低い」とは無関係に、さしあたり明確化できるだろう。1から順に1づつ数値を増やして、先に出現したほうが「小さい」数である。対応表を見比べ、より表の下に書かれているほうが「小さい」数である、など。これらのどれにも前提として、「高い」「低い」概念は現われない。

しかしすべての状況で身長をcmという単位で知ることができるわけではない。にもかかわらず背の高さを判断できるのは、少なくともある場合には、cmとは関係のない仕方で背の高さを決めているからだ。

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