空き箱夢想
「ここに神殿を作ろう」
アイスクリームケーキを取り出した後、私は箱を見て、目を輝かせた。
私は箱が好きだ。木箱には宝物、化粧箱には画材、クッキー缶にはケーブルや充電器を詰め、大なり小なり、引き出しの中は箱だらけ。実用性がある、というのが箱を好きな理由の一つ。
もう一つ、手ごろな工作の材料として好きだ。夏休みの自由工作にはダンボール、思い付きのミニチュアマンションにはジュースのギフト箱、トイレの模型には開いた牛乳パックを使った。当時は、保管場所がなかったのと、いつでも作れると思っていたから、写真に残すという発想がなかった。跡形もなく捨ててしまったものが多い。すべて、小学生の時の事だ。
使っているもの、作ったものは記憶に残りやすい。しかし今日は、そのどちらでもない、忘れられない箱を語ろう。
それは、白い発泡スチロール製の丸い箱だった。ホールのアイスクリームケーキを買えば、誰だって手に入れられる物。有名なアイスクリームショップのロゴマークと赤い帯が、外からの目を引くぐらいだ。使わぬ箱は捨てるもの。中身を食べた後の、入れ物の処分方法に思いを巡らせていた。
しかし、蓋を開け、中身を取り出した途端、内部に目がいった。内部の側面と底面を補強する様に、L字形の出っ張りが8つ在った。そして、冒頭に戻る。
「ここに神殿を作ろう」
アイスクリームケーキを取り出した後、私は箱を見て、目を輝かせた。
……ほんの一瞬で、想像力を掻き立てられてしまった。「神殿の大広間を上から見ているようだ」と。
L字の短辺の上に、座るライオンの像を置きたい。サモトラケのニケのような人型の像でもいい。L字の長辺はパルテノン神殿のような石の柱だ。この瞬間、私は大理石の神殿に立って、ブルームーンに照らされた石像を見上げていた。
そっと意識を戻し、この白い箱に向き合う。他に何が出来るだろうか? 想像の正解は一つではないから、一つではもったいないから、いつもの癖で別パターンを考え始める。
「とある組織の幹部の会議室かな」
L字を8つの椅子に見立て、個性豊かな亜人を座らせる。烈車戦隊トッキュウジャーの敵役、シャドーラインみたいな人々がいい。椅子の合間の壁には、重たい緋色のカーテンと燭台。ぽっかり開いた広間に、円卓を置いて完成。
まだまだアイデアが出てきそうだ。視点を変えたらどうなる? 箱の向きを変えたらどうなる? 夢中になっていると、
「そろそろ食べるで」
と、家族の誰かが言った。アイスクリームケーキが溶けてしまう。私は箱を床に置き、空想を詰め込んで蓋をした。
成長期を終えて数年たった、ある年の12月22日の思い出。 終
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※この記事は盛岡デミタス様の、アドベントカレンダー企画に寄せたものです。お時間がある方は、下記のリンクにまとめられている、他の執筆者様の記事をぜひ、お読みください。最後に、文章を書くきっかけを下さった、盛岡デミタス様への感謝をこめて。
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