無目的ビーム ①

 どうも体の一部が光っているんじゃないかと思って、どこが明るいかと探すために部屋の電気を消したら、どうやら指先が光っている。右手の人差し指の指先。その光は青白く、手前味噌だが、まばゆく神々しかった。僕の指先を中心に優しく光っている。ずっと指先を眺めていた。自分の中のどろりとした嫌なものが消えていくような気がする。
 いやいや見惚れてる場合じゃないと気付いた。おかしなことが起こっている。僕の指先が光っている。しかも、まばゆく神々しく。まさか僕の指先がまばゆく神々しく光るなんて。僕の人間性なんて神々しさとはかけ離れているはずだ。悲しいことだけど、自分でよくわかっている。僕はそんな人間じゃない。もっとくだらない人間だ。僕のどこの部分が関係していて、こんな光が輝いているのか。
 しばらくの間、この光と関係ありそうな自分の良い場所を考えて、いや考えるべきことはそこじゃないと気付く。僕の指先の光がどうしてこんなに神々しいのか、じゃない。考えるべきはなぜ指先が光っているか、だ。何故だ。全然わからない。
 真っ暗な部屋の中で、僕の指先だけが光っている。何故光っているのかわからないのだから、不気味なはずなのに、その神々しさに見惚れてしまう。何故光っているのか、僕のなにがこの神々しさを生み出しているのか、知りたくてじっと光を観察してみても、全然わからない。体の異変や、指先が光るようなことを最近したかなと考えてみても全然心当たりがない。いつも通りの生活を送っていた。いつものつまらない代り映えのない退屈な生活を。
 僕の指先はずっと光り続けている。僕はその光をずっと見続けている。自分との関連を考えていたけれど、結局は無関係だと結論づけた。だから、自分の右手の人差し指の指先に関わらず、まるで他人の指先、それもとても尊ぶべき人の指先、が光っているものだとして、この青白い光を、綺麗だなとかありがたいものだなとか、楽しむという方向性で眺めることができた。
 それでも時間が経ってくると、この神秘的な現象にも飽きてくる。嫌気がさしてくる。勝手に光りやがって。勝手に光るな。自分の体なのに、意思と関係なく、光る、という現象が起こっていることが腹立たしい。この怒りをどこにぶつけていいのかもわからないから、これもストレス。一体悪いのは誰だ。わからないフリをしているけど、なんとなく僕なんだろうなと思っている。知らず知らずのうちに指先が光るようなことをしていたのだろう。でも、怒りの矛先を絶対に自分には向けない。僕は絶対に自分を悪者にはしない。一体悪いのは誰だ。僕をこんな目に会わしたのは誰だ。
 あんなに楽しんでいたのにもう光には嫌悪感すら抱いていた。部屋の電気を点けて明るくする。電気のスイッチを押すために部屋の中を歩いたとき、光も一緒に動く。光が自分にまとわりついてくるみたいで、これにもむかつく。これから一生、僕の指先は光り輝いたままなのかと思うと悲しい気持ちになる。自分の人生を諦めていたはずなのに、そんな人生は嫌だ、と強烈な拒絶感を覚えた。
 部屋が明るくなって、指先の光は目立たなくなった。でも、光っている。どうにかしてこの光が消えないものか。息を吹きかけてみる。ロウソクの火じゃないから、もちろん消えない。
 忌々しい光め、こうしてくれるわ。実際に言った。さっきまで神々しい光と尊んでいたのに、自分の態度が百八十度変わってしまったことが面白くて笑う。笑いながら手を思い切って振ってみた。
 すると、指先から光が、ぴゅっとまっすぐ飛んでいった。
 びっくりした。顔から笑みが消えた。慌てて右手の人差し指の指先を見る。光がなくなっている。さっきのまっすぐ飛んでいった光は、僕の右手の人差し指の指先から放たれたものだったのだ。
 やったー。実際に言った。やったー。指先が光らなくなったぞ。
 喜んでいたのも束の間、指先を見ていたらまた光り始めた。最初は弱々しかった光だったのが、だんだんと強くなってくる。
 なんだよ、ちくしょう。実際に言った。また光り始めたじゃないか。さっきの指先から光が放たれたのを思い出して、試してみようと思った。また電気を消す。僕の指先を中心に部屋が青白くなる。目立たなかった光が、暗闇の中で存在感を示す。
 手を振る。思い切り振る。指先から青白い光線がぴゅっと放たれる。光は壁にあたると消えてしまった。
 部屋が暗くなる。また指先が光るのを待つ。指先が青白く光ると、また手を振る。ぴゅっとまた光線が放たれる。はっはっは。面白い。楽しい。何度も指先から光線を放つ。放っては笑って、笑っては放つ。

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