見出し画像

パラレルワールドアムネシア


ー春が咲いていた。
あるのは光と痛みの記憶。
幼少期、母は優しかった。
父と母、兄と私、なんて事ない平和な家庭。
最初世界は優しくて柔らかかった。
これが続くと思ってた。
ある日父がいなくなって世界は変わった。
母はよく泣いて怒るようになった。
どうしてなのか私には分からなかった。
兄は家にあまり帰ってこなくなった。
わたしは1人の時間が多くなった。
悲しい事ばかりじゃなかった。
おばあちゃんもいたし、友達もいた。
でもずっと寂しかった。
ある日怪我をしたら母が心配してくれた。
怪我をしたら母に構ってもらえる事が分かった。
リストカットってものがある事を知った。
よく分からないけどなんとなく切ってみた。
血が出た。赤かった。少し痛かったけど少しスッキリした。
母に見せたら心配してくれた。嬉しかった。
それから腕は汚くなって。
母は心配しなくなった。

ー夏が鳴いていた。
夜が好きになって、身体は大人になった。
バイトをはじめて1人暮らしを始めた。
少し気が楽になった。
寂しさに負ける夜もあった。
生きようとしてないのに今日まで生きてる事には驚いてた。
でも終わっても良かった。
眠って夢を見てそのまま閉じちゃえばいいのにと思ってた。
絵を描いていた。昔から絵は好きだった。
角が折れたユニコーン、足が生えたマーメイド、羽が千切れた天使
私をわたしは描いていた。
世界はあんまり好きじゃなかった。
ずっと息苦しいから。
間違って産まれた所為だと思ってた。
みんななんで当たり前みたいな顔して生きてるのか分からなかった。
愛って言葉もみんなよく使うけどよく分からなかった。
なんだか綺麗で素敵らしい事は分かった。
私も欲しいと思った。
でも汚いから似合わないかもとも思った。
でもそしたら綺麗になる気がした。
自分を大事にしたかった。
腕はまだ汚かった。
私は私が嫌いだった。

ー秋が沈んでいた。
絵はまだ描いていた。
夢は描けないが絵は描いていたいから、美大にいけたらと思った。
予備校は高かったが特にお金を使うあてもないしと思い、行く事にした。
そこである人と出会った。
彼は足りなかった部分を埋めるピースの様だった。
一緒の時を過ごした。
これまでの日々が嘘のようなそんな時間だった。
2人の間には許しがあった。
幼少期の記憶。最初の幸せの記憶。
そんな時間だった。
これが愛なら確かに綺麗で素敵だと思った。
抱きしめ合うと世界は平和に包まれていた。
世界はいつしか2人だけになった。
その時2人の間に愛しかなかった。
腕は少し綺麗になって。
予備校はあまり行かなくなった。

ー冬を抱いていた。
日々は続いていた。
私は怖くなった。
わたしはまだ私だった。
幸福であればあるほど怖かった。
始まれば終わるから。
ならもう2人で終わりにしたいとさえ思った。
ここから逃げ出してしまえたらと思った。
此処から。
不確かである事が何より怖かった。
ここに愛が無くなることが何より怖かった。
今はここにしかないのに。
分からない事だらけだった。
抱きしめられたときその温もりだけは確かだった。
それだけが確かだった。
不確かなものが怖かった。
壊れない愛が欲しかった。
私はずっと怖かった。
彼は少し冷たくなった。
疲れた顔をよくする様になっていた。
私はまた怖くなって。
腕は少し汚くなった。

ーーー春が咲いていた。
腕は綺麗になって傷跡には花が咲いていた。
その花は蜜を出して、蜜は蝶々を集めた。
春が咲いていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?