まだ何も知らないで
毒々しい、という言葉が似合う夕焼けを見た。
自分の書く文章は一人称を離れられない、とひとの文章を眺めて思った。あなたが、君が、そんな言葉を使ったことがない。
彼、彼女も出てこない。誰か、という不特定な他者は出てきても、あなたや彼のように顔の見えるひとは出てこない。自分中心で、自分出発の自分が終点。いま悶々と問いあぐねているのは、自分に関わる全てに対してであって、それ以外のどれでもない。あなたも、彼も、彼女もいない。自分と切れた途端に、思っているほど寄り添いはなくなるのかも知れない。
この身体の中にいる、傲慢さ、嫉妬、欲望、羨望、希望、絶望、悲しみ、孤独、虚無感、能天気さ、無邪気さ、不器用さ、無力感、と頑固さ。
どれもこれもが混ざって色も形も何もかも分からなくなったような、かすかに毒々しい、そんな夕焼けを山の向こうに見た。
(追記 –翌日に読み返して−)
まだ本当の意味で、自分の人生の中に他人が入り込んでいないのだろう。孤独や虚無感はそんなところから滲んでいるのかもしれない。