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noteにおける欧文イタリック表示の試み。

やり方さえわかればいいという方は直接結論をお読みください。


noteにはいくつかの文字装飾機能が用意されているが、2023年8月現在、イタリックは実装されていない。これはある意味で日本発祥のサービスだからこそかもしれない。和文でイタリックを使う機会は多くない。なくても困らないだろう。

しかし、欧文であれば、イタリックに出会うことは珍しくない。一番多用されている強調方法と言ってもいいかもしれない。例えば、Saussure の Cours de linguistique générale(書名もイタリックにしたいところだ)の p. 100 から。有名な一節「言語記号は恣意的である」と書かれている部分は原著ではこうなっている:

Saussure, Cours de linguistique générale, p. 100

unissant が unisssant になっているのはさておき、この箇所を note に引用するとしたら最終行はどうすべきだろうか。例えば太字を使って:

Le lien unissant le signifiant au signifié est arbitraire, ou encore, puisque nous entendons par signe le total résultant de l’association d’un signifiant à un signifié, nous pouvons dire plus simplement : le signe linguistique est arbitraire.

これが最も単純かつ簡便な方法ではある。しかし、しばしば引用文への注意書きとして「強調(傍点)は引用者による」などと書かれている通り、原文に何らかの改変を加えているなら、その旨を注記するのが適当であり、この場合もイタリックを太字に変えた旨を注意すべきようにも思う。しかし、いちいち断り書きを入れるのも面倒だし、そもそも、欧文でだってイタリックとは別に太字を使うこともあるのだ。

Postface par Calvet, Saussure, Cours de linguistique générale, p. 510

イタリックへの道1

そういうわけでイタリックはイタリックらしく表現したい。さて、Unicodeには数学用英数字記号というものが用意されている。要するに、イタリックとかボールドといった装飾情報も含めた文字を、通常のラテン文字(ABC…, abc…)とは別に用意してしまおうという贅沢な割り当て方針である。最近、某所で話題になった 𝕏 もその一つである。これを用いて、先ほどの文は例えば次のように表示できる:

𝑙𝑒 𝑠𝑖𝑔𝑛𝑒 𝑙𝑖𝑛𝑔𝑢𝑖𝑠𝑡𝑖𝑞𝑢𝑒 𝑒𝑠𝑡 𝑎𝑟𝑏𝑖𝑡𝑟𝑎𝑖𝑟𝑒
𝘭𝘦 𝘴𝘪𝘨𝘯𝘦 𝘭𝘪𝘯𝘨𝘶𝘪𝘴𝘵𝘪𝘲𝘶𝘦 𝘦𝘴𝘵 𝘢𝘳𝘣𝘪𝘵𝘳𝘢𝘪𝘳𝘦

なかなかよい。とは言っても、これは今私がこの記事を書いている環境でよく見えているだけで、これを読んでいる人にとってもそうであるとは限らない。上に書いた通り、本来のラテン文字とは別の文字コードを割り当てているのだから、それに対応したフォントがない環境では表示されない。あるいは表示されたとして、それが読みやすいとは限らない。(念のため画像で説明すると上の文は次のように表示されている)

これでよいとしよう。英語ならこれでもいいかもしれない。しかし例えば、Cours de linguistique générale というフランス語の書名をイタリックにしたい時どうすればいいだろうか。先ほどの「数学用英数字記号」の表を見てもらえればわかるが、アクサン付きの文字は用意されていないのだ。結論から言えば、やってやれないことはない。すなわち:

𝐶𝑜𝑢𝑟𝑠 𝑑𝑒 𝑙𝑖𝑛𝑔𝑢𝑖𝑠𝑡𝑖𝑞𝑢𝑒 𝑔𝑒́𝑛𝑒́𝑟𝑎𝑙𝑒
𝘊𝘰𝘶𝘳𝘴 𝘥𝘦 𝘭𝘪𝘯𝘨𝘶𝘪𝘴𝘵𝘪𝘲𝘶𝘦 𝘨𝘦́𝘯𝘦́𝘳𝘢𝘭𝘦

種明かしをすれば、これは「合成可能なダイアクリティカルマーク」との合わせ技である。しかし、いよいよ環境依存の度合いが高くなってくる気がする。これは皆さんの環境でうまく表示されているのだろうか。(私の環境では次のように表示されている)

しかし、そもそも論として、入力をどうするんだ、という問題がある。これらの「シンボル」はキーボードから直接入力できない(もしかしたら数学者向けに入力しやすくしたIME的なものがあるのかもしれないが)。ネット上で変換してくれるサービスもある(実は今までの例でもそうしたものを使っている)が、いちいち変換しては貼り付けるのも現実的ではない。しかも、上の例ではそんなに気にならなかったが、あくまで数学用の「シンボル」なので、文字の並びによってはなんだか不恰好になってしまう:

𝑎𝑏𝑐𝑑𝑒𝑓𝑔ℎ𝑖𝑗𝑘𝑙𝑚𝑛𝑜𝑝𝑞𝑟𝑠𝑡𝑢𝑣𝑤𝑥𝑦𝑧
𝘢𝘣𝘤𝘥𝘦𝘧𝘨𝘩𝘪𝘫𝘬𝘭𝘮𝘯𝘰𝘱𝘲𝘳𝘴𝘵𝘶𝘷𝘸𝘹𝘺𝘻
𝑑𝑖𝑓𝑓𝑖𝑐𝑖𝑙𝑒
𝑐𝑎ℎ𝑖𝑒𝑟

イタリックへの道2

もうちょっと、note内部で完結できないものか。というわけで、やっと本題なのだが、noteには、先ほどの数学用英数字に置き換えてくれる機能がある。「数式記法」と呼ばれるものである。その名の通り、これは「数式」を表示させるためのものである。が、その際、ラテン文字は自動で「数学用英数字」に置き換えられるため、イタリックっぽい表示になる。インラインでの記述も可能なので、文中の任意の箇所だけイタリックにすることも可能だ。

Il y a en effet deux points au moins dans le $${Mémoire}$$ 
qui annoncent le $${Cours}$$.

のように入力すると、次のように表示される:

Il y a en effet deux points au moins dans le $${Mémoire}$$ qui annoncent le $${Cours}$$.

一応、それっぽくはなっている。しかし、ピリオドの前にスペースが入ったりしているのが気になる。しかし、問題はそれだけではない。

例えば冒頭の一文をイタリックにしようとして、次のように入力したとしよう。

$${le signe linguistique est arbitraire}$$.

すると表示は次のようになってしまう:

$${le signe linguistique est arbitraire}$$.

そう、{ } の中のスペースは無視されてしまうのだ。$$ の後は勝手にスペースを入れるクセに!
…というわけで、そのスペースの仕様を逆手にとって、こう表記してみよう:

$${le}$$$${signe}$$$${linguistique}$$$${est}$$$${arbitraire.}$$

するとこうなる:

$${le}$$$${signe}$$$${linguistique}$$$${est}$$$${arbitraire.}$$

だいぶマシになった。しかし、編集時の可読性は悪いし、入力の手間を考えると本末転倒なのではという気もする。しかも、あくまで「数式」なので、やっぱり、文字の並びによっては不恰好になることがある。

$${difficulté}$$

$${difficulté}$$

あるいは次のような書名にハイフンが含まれている場合:

Son $${Abrégé}$$$${de}$$$${grammaire}$$$${comparée}$$$${des}$$
$${langues}$$$${indo-germaniques}$$

と入力すると、下記のようにハイフンが引き算に変換されてしまう:

Son $${Abrégé}$$$${de}$$$${grammaire}$$$${comparée}$$$${des}$$$${langues}$$$${indo-germaniques}$$

流石にこれは目立つのでどうにかならないか。ところで、このnoteの「数式記法」は基本的にはTeXをベースにしており、解説ページにある通りKaTeX がサポートしているものがおおよそ使える。そして使えそうなものを見つけた:

このフォントの指定を使って次のように記述すれば:

Son $${Abrégé}$$$${de}$$$${grammaire}$$$${comparée}$$$${des}$$
$${langues}$$$${indo\text{-}germaniques}$$

このようにハイフンが勝手に変換されることもない:

Son $${Abrégé}$$$${de}$$$${grammaire}$$$${comparée}$$$${des}$$$${langues}$$$${indo\text{-}germaniques}$$

いや、待てよ?
フォントが指定できるのならこれをそのまま使えばよいのでは?

イタリックへの道3

というわけで、とりあえず普通のイタリックに関係していそうな次の三つ:
\mathit{Ab0}
\textit{Ab0}
\it Ab0
を試してみよう。それぞれを用いて次のように入力してみる(一番上はフォントを指定しない場合):

Son $${Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}$$ (1861)
$${difficulté}$$

Son $${\mathit{Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}}$$ (1861)
$${\mathit{difficulté}}$$

Son $${\textit{Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}}$$ (1861)
$${\textit{difficulté}}$$

Son $${\it Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}$$ (1861)
$${\it difficulté}$$

結果は次のようになる:

Son $${Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}$$ (1861)
$${difficulté}$$

Son $${\mathit{Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}}$$ (1861)
$${\mathit{difficulté}}$$

Son $${\textit{Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}}$$ (1861)
$${\textit{difficulté}}$$

Son $${\it Abrégé de grammaire comparée des langues indo-germaniques}$$ (1861)
$${\it difficulté}$$

3つ目、つまり \textit を用いた記法は、スペースもそのまま反映されるし、ハイフンはマイナスに変換されないし、$${\textit{f}}$$のイタリックも妙に幅をとったりしていない。これで全て解決なのでは?

イタリックへの道:結論

note上でイタリックを使いたい時は次の数式記法を用いましょう:

$${\textit{   }}$$

(うまくいかない事例があれば教えてください)

まあ note がイタリックを実装してくれればそれで全て解決なんですが。

追記(懸案事項)

「数式記法」では「一つの数式は一行で表す」、換言すれば「途中で改行しない」という制約が働くらしく、例えば次のようにある程度長さのある文を一つの数式に入れると、後ろが表示範囲からはみ出てしまう。その意味では、「可読性が悪い」とした、一語ずつイタリックにしていく方法の方にメリットがある:

$${\textit{il faut se placer de prime abord sur le terrain de la langue 
et la prendre pour norme de toutes les autres manifestations du langage.}}$$

$${il}$$$${faut}$$$${se}$$$${placer}$$$${de}$$$${prime}$$$${abord}$$
$${sur}$$$${le}$$$${terrain}$$$${de}$$$${la}$$$${langue}$$$${et}$$
$${la}$$$${prendre}$$$${pour}$$$${norme}$$$${de}$$$${toutes}$$
$${les}$$$${autres}$$$${manifestations}$$$${du}$$$${langage.}$$

$${\textit{il faut se placer de prime abord sur le terrain de la langue et la prendre pour norme de toutes les autres manifestations du langage.}}$$

$${il}$$$${faut}$$$${se}$$$${placer}$$$${de}$$$${prime}$$$${abord}$$$${sur}$$$${le}$$$${terrain}$$$${de}$$$${la}$$$${langue}$$$${et}$$$${la}$$$${prendre}$$$${pour}$$$${norme}$$$${de}$$$${toutes}$$$${les}$$$${autres}$$$${manifestations}$$$${du}$$$${langage.}$$

面倒でなければ一語ずつ、現実的にはある程度の長さで区切ってそこで改行を促すあたりが、具体的な対応策となろうか。

まあ note がイタリックを実装してくれればそれで全て解決なんですが。

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