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#53 パサジェルカ(1963)

今触れるべきか悩んだが、やはり唐突に、少し触れたくなった。
去年観た旧作の中で一番思い返す。

話は豪華客船で数十年ぶりに母国に帰郷する、かつてアウシュビッツの看守だったリザがガス室へ送られたはずの囚人マルタを船上で見かける。

何年も隠し続けた過去を夫に打ち明けるリザ。
マルタを手厚く看護したり助手にしようとし、恋人との密会を見逃し、ガス室送りからも救おうとした。

戦時下におけるギリギリの善意。
しかしそれらの寛大さは内心見せかけの優しさで支配欲や嫉妬心、昇進を期待したと回想してしまうリザ。
命令を遂行しただけだから罪はないと長年閉じてた傷痕がうずきながら映画は61分、未完に終わる。

この作品がすごく恐ろしい所は現代進行形で何人ものリザとマルタがいて、投げかけられた疑問がずっと救いなく浮遊している点だ。傑作。

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