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アークナイツの魅力を知るには国々から

 舞台はテラと呼ばれる大陸。文明は源石(オリジニウム)という鉱石のもたらすエネルギーによって高度に発展している。しかし源石には致命的なリスクがあった。それが鉱石病(オリパシー)だ。致死性の感染症という事実、身体に石が生える特徴的な症状のせいで、感染者は迫害の対象となっている。ロドス・アイランド製薬は感染者の治療だけでなく、感染者差別といった諸問題の解決に取り組んでいる。

 ……というのを土台に、様々なシナリオを展開しているのがアークナイツ。感染者問題は中心的な話題だが、実は鉱石病が関係しないイベントも少なくない。テラには問題が山積みなのだ。それは種族の対立であったり、国際情勢の緊張であったり、人知の及ばない怪物であったりする。

 それらの問題を描くため、アークナイツでは複数のキャンペーンシナリオが同時並行して進行している。それぞれ一つの国家にスポットライトを当て、その国の抱えている事情が何度かのイベントに渡って掘り下げられる。対応関係がシンプルなので国家=問題=キャンペーンだと考えれば把握しやすい。

 ブルーアーカイブで喩えると、テラはキヴォトス、国々は学校に相当する。各国のキャンペーンシナリオがパヴァーヌやエデン条約編にあたるといえば伝わるか。

 そこでこの記事ではアークナイツの魅力をお伝えするため、主要な国家からいくつかピックアップして、どういう話をしているかを簡単に紹介してみたい。下に目次を貼っておくので、サブタイトルなどを見つつ気になった国から見ていって欲しい。固有名詞の暗記は必要ない。雰囲気を感じてくれ。


カジミエーシュ - 商業主義の光と闇

 カジミエーシュは華々しく伝統のある騎士制度と高層ビル立ち並ぶ商業都市が同居する現代的な国家だ。現実世界のポーランドをモチーフにしている。

『マリア・二アール』から始まる一連のシナリオでは首都「大騎士領」カヴァレリエルキを舞台に、腐敗した商業主義の落とす暗い影、そして陰謀に翻弄されながらも信念を抱え懸命に戦う人々の姿が描かれる。アークナイツでも特にヒロイックなシナリオであり、解決編となる『ニアーライト』を好きなイベントとして挙げるプレイヤーも多い。直截的に感染者問題が描かれるシナリオの一つでもある。

騎士競技

 カジミエーシュを熱狂させる国民的スポーツが騎士競技。並外れた身体能力と戦闘技能を備えた騎士同士の戦いはカジミエーシュの重要な観光資源となっている。数年に一度の開催のメジャー大会で活躍できれば国民的スターだ。

 ニアール家の次女マリア・ニアールは姉のような騎士への憧憬を胸に騎士競技の世界に飛び込むが、そこではカジミエーシュの現実に直面することになる。騎士制度は競技の名の下に形骸化し、騎士はスポンサーの奴隷に成り下がって時には八百長さえ指示される。

感染者騎士

 差別と迫害の対象すらカジミエーシュは商品化した。”特別な方法”によって騎士資格を得た感染者騎士は近年メジャー参戦が認められたばかりで、騎士と感染者騎士が同じリングで戦うのはスリリングな見世物という扱い。一方で活躍する感染者騎士も少数存在し、現チャンピオン「血騎士」ディカイオポリスは感染者のみならず非感染者からも尊敬を集めている。

「焔尾騎士」ソーナは感染者騎士の自力救済と待遇改善を求めてレッドパイン騎士団を組織したが、カジミエーシュで感染者の権利を叫ぶことは容易ではなく、刺客に命を狙われることになる。

商業連合会

 カジミエーシュの全ては商業連合会によって操られている。貪欲に利益を追求する資本家たちの思惑は複雑に絡み合い、そこでの”決定”とはカジミエーシュの意思そのものだ。代弁者を通じて伝えられる彼らの指示には、どれだけ不条理であっても従うしかない。

 戦闘に長じた騎士であっても、商業連合会の差し向ける暗殺者集団無冑盟からは逃げ切れない。その無冑盟もまた商業連合会に振り回される立場だ。中間管理職の「プラチナ」に情けと休暇は無い。さもなくば先代のようにビルに縫い留められるだろう。

クルビア - 行き過ぎた科学と探究心

 クルビアは広大な開拓地ハイテク企業に牽引された産業が特徴の新興国家。ピンと来た読者もいるだろうが、現実世界でいうアメリカだ。フロンティア精神と進歩主義の下開拓者を集い、感染者の受け皿となっているものの、その実態は人道的とは言い難い。人々は科学技術の発展が暮らしを改善してくれるだろうと期待している。

 クルビアを舞台とする物語の中心にあるのがライン生命だ。テラにおける科学技術のあり方、倫理と知的探求の相反をテーマにSF色の強いシナリオが展開される。中でも『孤星』はこれまでのアークナイツを総括してこれからの道筋を示す、アークナイツ版最終編というべき壮大なイベント。

ライン生命

 ライン生命はトリマウンツに本社を置く、最先端テクノロジーなら何でも扱う巨大企業。テラのテクノロジーといえば源石技術だが、ライン生命の関心は源石だけに留まらず、知的好奇心のままあらゆる分野に手を広げている。テラ北方の極限地帯を調査している探検隊が良い例だ。

 五つある科学研究課の一癖も二癖もある主任たちはいずれも傑出した研究者だが、天才という言葉はライン生命の統括クリステン・ライト唯一人を指すべきだろう。彼女の視座はテラの水準を遥かに逸脱している。

 あまりに先進的な研究は人類の価値観を踏み越え、しばしば非倫理的な研究・実験が繰り返されている。クリステンと共にライン生命を立ち上げたサリアは非道な人体実験を契機に古巣を見限り、現在はロドスの一員として問題の解決に取り組んでいる。

被検体

 源石技術と人体実験の組み合わせは鉱石病に直結する。サリアの離反のきっかけとなった炎魔事件は代表例だ。後天的に種族が変容するほどの劇的な実験によってイフリータは重い鉱石病を患い、神経痛や幻覚に苛まれている。その源石融合率19%という数字はロドスで治療を受けているオペレーターの中でも一際高い。

 ロスモンティスを産み出したローキャン水槽の実験資料は破棄、事故の真相は秘匿され、ローキャンはクルビアの監獄に囚われている。全ての記憶を封印したロスモンティスはロドスの制服を纏って人生を歩み直している。イフリータとは気が合うようだ。

炎国 - 十二に分かたれた歳獣

 炎国はテラの東方に位置する国。唐代の中国をモチーフとし、雰囲気としては璃月(原神)や羅浮(崩壊スターレイル)などを想像すれば近いだろう。

 十二、歳といった字から連想する通り、旧正月を祝う年次イベントで展開される気の長いキャンペーン。歳獣を巡るストーリーを中心に据えた、毎年趣向を変えながらの炎国の旅はプレイヤーの楽しみの一つ。難読な漢字への抵抗感さえ乗り越えてしまえばドラマと異国情緒を存分に味わえるだろう。

歳獣

 かつての皇帝は巨獣と手を結んで炎国を平定し、その巨獣は今は十二に分割されている。歳獣とも呼ばれる十二人の代理人たちは源石とは由来の異なる超常的な力を操る。一所に集まりすぎれば一柱のに戻ってしまうとされ、司歳台が代理人たちを管理下において破局を防いでいる。宗師と呼ばれ慕われる長兄チョンユエのように炎国と良好な関係を築けてきた代理人もいるが、近年は厳重に隔離されていた次兄が行方をくらまし不穏な空気が漂う。

 代理人たちもまた恐れている。いつ歳に戻るか知れず、その日が来れば彼らの自我など消え失せるだろう。いち早くロドスに接触していたニェンは兄弟姉妹を訪ねて根本解決のための協力を呼びかけている。

 司歳台は時に味方であり、時に敵である。若いズオ・ラウはまだ経験が浅く、仕事への熱意が空回りしてしまうことも多いかわいいやつだ。成長を見守るプレイヤーの心境は親心といったところ。なにせストーリー進行が年一だからね。

イベリア - 海より来る怪物

 名の通りイベリア半島がモチーフ。イベリアの黄金時代は崩れ去り、今や滅亡の危機に瀕している。他の国々の住人は知る由もないが、この死に体の国家がテラの最後の砦だ。

 イベリアを舞台とする物語最大のキーポイントは、海を満たし急速に進化を続ける大群の存在だ。一世代でさえ劇的に変質を遂げるそれを生物学の枠組みで捉えるのは難しい。確かなのは大群に統一された意思があり、地上に版図を広げる機会を伺っているということ。人語を理解する上位個体シーボーンを使者と崇める深海協会の暗躍もあり、海の怪物はテラで最も差し迫った脅威といって過言でない。

アビサルハンター

 海底国家エーギルが大群へ対抗するため作り上げたアビサルハンターの特徴は色素のない肌と髪。そして卓越した身体能力。彼らにとってシーボーンすら狩りの対象に過ぎない。無論、力には代償がつきまとう。

 海神Ishar-mla討伐の際には多くが命を落とした。イベリアの物語に登場するアビサルハンターたちはその生き残りだ。スカジはIshar-mlaとの接触の際に不吉なものを感じていた。スカジは海に呼ばれている。

滅亡if

 スカジは海に迎え入れられた。新たなIshar-mlaは大群を率いて地上を襲う。人類は絶望的な撤退戦を敷いている。混濁するシーボーンの意識に一人の姿が浮かぶ。ドクター。ドクターに会わなくては。

 ……という世界線のお話が『ミヅキと紺碧の樹』。海の怪物に呑まれたテラの行く末がマルチエンディングで描写される。残された希望はロドスのドクターとミヅキの二人だけだ。イシャームラの悲劇的な結末は必見。

ラテラーノ - サンクタの狭き楽園

 美しい石造りの街並み、贅沢な甘味、楽しい生活。サンクタたちの故郷ラテラーノは教皇庁が治めるバチカン市国のような小国だ。

 テラには多種多様な種族が暮らしている。国家と種族の分布はある程度結びついており、ラテラーノの場合最多数を占めるのはサンクタ。次いでリーベリが多い。ラテラーノにおいてサンクタとリーベリは平和に共存できている。だがラテラーノ公民の資格があるのはサンクタだけだ。この矛盾を切り口にテラに横たわる種族の分断に踏み込み、国家や宗教のあり方を問うのが『吾れ先導者たらん』。 

サンクタ

 頭上に光輪。背に翼。能天気で甘い物好き。いわゆる天使がサンクタという種族だ。テラでは珍しく銃の扱いに長じた種族でもあり、多くのサンクタが自身の守護銃を携帯している。これらの外見的特徴を覚えておけばサンクタを見分けるのは簡単だろう。角の生えた魔族サルカズとは永年の戦争状態にある。

 サンクタ同士の共感は外見に現れない特徴の一つ。その場に居合わせたサンクタの感情が光輪を通じて伝わってくるというものだ。葬式などの場で同調・増幅しすぎた感情によって”息を詰まらせる”感覚はサンクタなら皆経験がある。この独自のコミュニケーションはしばしば他種族の者に疎外感を与えてしまってもいる。フィアメッタもその一人だ。

教皇庁

 教皇庁はサンクタたちの信教の本拠地にしてラテラーノの行政機関。宗教と行政の分別は明確にできず、サンクタの戒律はラテラーノの一般法とおおむね同義だと思って良い。サンクタ以外の敬虔な信徒も珍しくない。洗練された教義はイベリア国教にも取り入れられている。

 時には他国のサンクタに救いの手を差し伸べることも教皇庁の責務だ。だが楽園は開かれてはいない。敬虔な信徒アンドアインは疑問を抱かずにはいられなかった。ラテラーノの救いはなぜ平等に分け与えられないのか。サンクタは特別なのか。それを問うことは教皇庁への挑戦を意味している。

イェラグ - 大国に塞がれた弱小国

 カジミエーシュ、クルビア、そしてヴィクトリア。大国の緩衝地帯に位置する雪境イェラグは、険しい山脈に閉ざされた立地のおかげで今日までの独立を保っていられた。

 従来イェラグは三家政治のもと閉鎖的・伝統的な暮らしを維持してきた。しかし近年、三家の一つシルバーアッシュ家は急進的な開放政策と工業化を推し進めており、他二家との溝はついに決定的なものとなった。イェラグの未来を賭けた権謀術数と駆け引きが見所の『風雪一過』は筆者イチオシのシナリオ。テラの国際情勢を知る補助線としてもちょうどいい。

イェラガンド

 イェラガンド信仰はイェラグの礎だ。最高峰カランド山を聖地と位置づけ、山中にある曼珠院で経典の解釈や議論、ひいては政治の決定がなされている。巫女エンヤは宗教的指導者であり、形式上三家の権力も彼女から委譲されたものとされる。

 このエンヤ、何を隠そうシルバーアッシュ家頭首エンシオディスとは実の兄妹。事情を知らない者は曼珠院とシルバーアッシュ家の癒着を疑うが、実際は真逆だ。エンヤが山を登った時期を境に、二人の関係は修復不可能なものになっている。

カランド貿易

 留学を経たエンシオディスが経営する企業がカランド貿易。イェラグの対外貿易を一手に担う他、真新しい工場もカランド貿易による。輸入品と産業が住民に恩恵をもたらしたことで、特に領地では歓迎されている。一方でカランド山の麓まで鉄道を敷いたことなどから保守派勢力との軋轢も生まれている。

 シルバーアッシュ家の末妹が感染者であり、治療を受けている。このためテラでは珍しく鉱石病に理解のある会社であり、ロドスと親交が深い。工場労働者の安全のためにドクターに顧問を頼んだのもその縁だ。貫禄の出てきたドクターの立ち回りも注目ポイント。

おわりに

 この記事で紹介した国が全部というわけではない。数多のドクターの涙腺を破壊した『塵影に交わる残響』のリターニアも紹介できていないし、最悪内戦国家ヴィクトリアの話もしたかったのだが、最近忙して…な! サーミローグが…な!

 アークナイツの魅力的な世界、世界の広さという魅力はプレイヤー以外には中々共有されていないように思う。もしこの記事に貼ったPVを見てオッとなったなら、是非アークナイツをインストールしてみてくれると幸い。君もこっち側で手招きしよう。


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