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カスミ! 俺だ! 妥協してくれ!

第一話、鬼怒川カスミ

 絆エピソード第一話から「鬼怒川カスミ」である。そういうタイトル。オタクであればビビっと来るはずだ。このエピソードこそ鬼怒川カスミの本質に迫るものに違いないと。なんとメモロビまでついてるのだから!

 はい。ご存知の通り、そんなことはなかった。アジトに招かれ、いきなりメモロビに入って、なんとなくおしゃべりして、それだけだ。鬼怒川カスミってなんだったんだ?

 第二話。鬼怒川カスミの一言に衝撃が走る。「前のアジトは放棄することになったからな!」

カスミ「前のアジトは放棄することになったからな!」

 仮にも先生は思い出の場所と認識していた拠点が、あっさり捨てられてたのだ。温度感のすれ違い。大切だと思ってたのは私だけだったみたい。名取さなが喚いていてウケた。

そして始まるカスミの大演説。温泉開発部のカスミ部長は、その実温泉より爆破を愛している。目的より過程こそ愛している。大事なのは結果ではなく、道のり。どれだけ困難であってもいい(「困難な」は「風紀委員がブチギレるような」の意。カスミは犯罪者なので)。

カスミ「私は爆破が好きなんだ。この言葉の意味を理解してくれるか?」
カスミ「そこには失敗も含まれているという事だよ」

そして脅迫

カスミ「私の目にはシャーレの建物もしっかりと映っている」

「協力しなければシャーレを爆破するぞ」なんてちゃちな脅しではない
「やるからにはとことんやろう」なのだ。これが。

 振り返れば、第一話での先生は、カスミの言う温泉ポイントを否定して回っただけだった。安全圏からヌルい口出しをする姿勢はまあ褒められたものではないな。これが最後とカスミが提示した場所は、先生の都合に合わせた辺鄙な空き地。そんなの本当に候補にあったのだろうか。これ、先生が乗り気じゃないから会話を打ち切っただけじゃないか。カスミにしてみればクソデカ溜息バッドコミュニケーションだったはずだ

先生(どうにか人通りの少ない場所に誘導しようとするも)

 だから「これらの行動に関与してもらいたいのだ」と言ってみせる。カスミのこの台詞はお見事としか言いようがない。ともすれば意味の不明瞭なこの要求は、先の演説と合わせると、先生の当事者意識の不足を詰る一文になる。お願いの裏返しは問題提起だ。

カスミ「私はこれらの行動に関与してもらいたいのだ」

 そうしてみると、この脅迫は非常に丁寧な話運びだったことがわかる。脅しを含まない形に変換すると「私にとって温泉ポイントの選定は大切なものだったんですよ。お互いの関係を良くするためにも、これからは議論に真剣になりませんか?」だ。それも、安全な地点に誘導しようとする先生の姿勢は容認している。相手を尊重して、歩み寄ろうという態度なのだ。脅迫だけど。

 先生とカスミとでは価値観を違えている。カスミの望む波乱万丈は人の迷惑に直結するのに対して、先生は人に迷惑をかけない場所に誘導したい。板挟みになっているのは先生の方だ。カスミの自分語りを経た今、もはや先生はその在り方を否定できないのだから。

 そこにカスミの要求がスッと効く。お互いの立場を尊重して双方の納得できる温泉ポイントを議論しようなんて、正直言って助け舟だ。妥協点を探るという営みであれば、先生は矛盾をきたすことなく爆破テロに加担できる。しなければならない(脅迫されたので)。

カスミ「私のために、そして先生のために」
カスミ「これから一緒に、次の温泉ポイントを議論してほしい」
先生「やるからには、とことんやろう」

 かくして先生はテロリストに屈して、再び爆破候補地の選定に付き合うことになる。第一話との違いは、先生が真剣になったことだけ。しかしこれで一晩中議論に熱中して無防備な寝顔まで晒すのだから、カスミにとって過程とはいかに尊いものか。$${\textit{Perfect Communication…}}$$

 ところで、先生は爆破テロに加担する羽目にはなったものの、志を共にしたとまではいえないだろう。むしろ、結局利害関係の上では対立するままなのだ。脅迫されて仕方なく取り組んだともとれるのに、なぜカスミは先生に信頼を置くことができたのか? この疑問の答えは、今改めて温泉開発部に目を向けると見えてくるかもしれない。

 カスミは温泉開発が趣味だというが、絆エピソードを読む限りでは関心があるのは爆破までのようにも見える。しかし『出張!百夜堂海の家FC計画』で登場した折には、温泉が湧き上がるや見事な温泉郷が建つ。カスミ個人の話か、温泉開発部としての活動か。つまりイベントで見てきた普段の活動は、温泉開発性の異なる部員との折衝を経た「妥協の産物」と考えていい。

温泉郷

 妥協を許さないなら孤高になればいい。それを実践しているのが七囚人だ。しかしあえて200人規模の組織を率いているのだから、むしろカスミにとって譲れない部分と考えるべきだ。カスミにとって妥協もまた愛すべき道のりなのだ。妥協といえば悪い印象があるかもしれないが、妥協ほど高度な知的営みはない。互いに互いを尊重して合意に至らなければ成立しないのだから

 絆エピソードに立ち返ると、カスミは自身の価値観を開示し、温泉ポイントの選定に真剣になるよう迫り、そうしない道は塞いでいた。ここまでは脅迫。その先で議論を妥協点に着地させるには、繰り返しになるが互いを尊重することが不可欠なのだ。ようやく双方の納得できる場所を見つけたとき、それは信頼関係を確認できた瞬間に違いない。

ようやく納得できる場所を見つけたカスミは、地図の上で満足気な寝顔を見せた

 カスミの絆エピソードはこれまでイベントストーリーで見てきた要素を補完し、パーソナリティを深掘りできる満足度の高いものだった。引こう! ガチャ!


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