懺悔:何故私は「変わっとらんやないか!」と絶望したのか~2~
前回のあらすじ!服がダサい!お前らそれでも芸能人目指してるのか!?何とかしろアホンダラア!
https://note.mu/gotoofthedead/n/n5f5192e46d4e
「トモダチ!トモダチ!ヤスイヨー!?」
豚骨が不良ナイジェリア人に引っ張られていきました。駄目だ。プレデターの狩場に入った人類だ。
「お!おおおお!?え!?ああ!?うんうん…!クール!クール!」
似合う似合うと言われてニセモノの高い服を勧められている豚骨を奪還した声優専門学校の一団はアメリカ村に入っていきました。
あまりにも服がアレだったので、私とクラスのファッションリーダー笹本が男を5人ほど連れだって買い物に行く事になったのです。
「どんな服が良い?」
「良くわからない」
「じゃあ古着屋に行ってイケそうな服を買うなりしましょう。安いし」
「後藤、それ良いな。じゃあアメ村行くか」
「アメ村!?行った事無い!!」
そんな会話が先日の撮影後に交わされ、次の日に出かけることになったのです。メンバーは
笹本:ファッションリーダー。ヒップホップ好き
後藤:後藤is俺。ギターウルフ好き
豚骨:チンシンザン激似。エンジェリックレイヤー好き
無禄:八神庵の出来損ない。ヴァイスクロイツ好き
論鰤:そこそこかっこいいのだが黒しか着ない。ツイパラヘビーリスナー
ポム巻:アラサー。常識人だが休みの日のお父さんみたい。ルパン好き。
地獄かよ。とりあえず前日に「一番自分がイカスー!って思う服で集合ね」と笹本が言ったから今日は地獄記念日になりました。
豚骨はスラックスとリアルなクマがプリントされたトレーナー
無禄は八神庵っぽい格好。でもカリアゲでダサいメガネ。
論鰤はマトリックスのネオみたいな格好。モデル体系だから似合うっちゃ似合う。
ポム巻は「おや?これから釣りにでも?」と言う感じのポケットが多いベストとチェックシャツとワークマンで売ってそうなパンツ。
なんじゃこの集団は。いや、これこそが声優専門学校の集団です。これが十五年ほど前の、世紀末声優専門学校集団なのです。チェーンソーもV8エンジンもない。あるのは肥大した自意識だけです。
とりあえず私たちはアメ村から少し逃げ、不二家系列のレストランに逃げました。逃げられるならどこでも良かったのです。しかしこれがマズかった。不肖、ポンッチャックマスター痛恨のミス。そりゃ土曜の心斎橋だからオシャレカップルがたくさん居ますよ。そうですよね。それ以降私は動物園の動物を笑えなくなりました。
「とりあえずみんな…どう言う格好が良いの?」
「やっぱり…ガクトか八神庵みたいなのを…」
「黒だな」
「俺!?スーツが良い!」
「いやあ…ファッションは分からないから変じゃなかったら…」
これがエンタメの世界の門を叩くリアルです。そう、エンタメの世界は結構見た目が重要です。昨今の声優を見ていると分かるでしょう。あれは結構事務所の指示です。「声優服」と言う言葉をTwitterで見たのでそのまま使いますけど、マジで声優服なのです。もっと細かく言うと「声優が好きな層が好む服」です。それを纏う事で他意識を纏うのです。自意識を他意で隠す事で「擬態」が完成するのです。全ては売れるためです。実際、声優はスタジオとかではもっとちゃんとした服を着ていますよ。撮影が入るならそれなりに合わせますが。だって、ディレクターとかプロデューサーが好きな服はまた違うんだもん。そっちに好かれる事でダイレクトに仕事が決まったりするので結構周りの大人の好みに合わせます。声優服は戦闘の場で着る鎧では無く展示用の側面もあるのです。
それも今は改善されてきました。いや、よりカオスになってきました。声優に憧れて声優服を着ている声優を見てきた人が声優になるのです。だから声優服を選ぶようになり、それがスタンダードになるのです。結構年齢いってるのにヤバイ服装の声優はそう言う事が多いです。
「ああ…そう…とりあえずプランタンで古着セールしてるっぽいから…行こうか…」
笹本が若干勝負を投げた雰囲気で発言しました。プランタン、大火災があった千日デパートで、今は電気屋のアレです。是非行きましょう。霊感強い人ならぶっ倒れるくらいにヤバいですけど。
プランタンに着き、古着市に行くと私が好む70年代服が大量にありテンションが上がりました。そして各々が適当に上下を選んで集合と言う形になりました。ワンフロア丸々古着、たしか王将があった小道からプランタンに入って、ヴィレバンの近くだった気がします。30代の大阪民なら懐かしさに悶絶する話しをしていますよ私は。それだけ今ロクなことがなくて過去を見てるんですよ。泣きましょう。酒を飲んで泣きましょう。
そして三十分程した頃、私と笹本はあえて何もアドバイスせいずに先ほどアメ村で通り過ぎていった人達を思い出して服を選びなさいとだけ言いみんなをほっぽっていました。私はストライプのシャツを見つけたりしてホクホクしていました。笹本はエコーのニットキャップを買ってた記憶があります。
「選んできたんだけど…どうかな…」
最初に来たのはポム巻でした。彼が選んできた強化外骨格は
初代ルパンみたいな緑ジャケット
淡いブルーのシャツ
黒いスキニー
この3つでした。お、中々ええやんけ。三十も近い男なのでコンサバティブな形がよく似合います。
「良いじゃないですかポム巻さん。それで水堂もヌレヌレですよ」
「マジで?ちょっと感情的になっちゃうよ?」
「いや、良いですよ。緑のジャケット良いですね。ルパン好きなのが伝わってくるし全然変じゃない」
ポム巻はほっとした感じでお会計を済ませました。この三点で8千円位だった事におどろいていました。やはり服は高いと言うイメージがあったみたいです。そりゃそうですよ。服って服屋じゃないと買えないイメージがあります。服が好きなら工夫をしますけど、今まで興味がなかった人からしたら百貨店の古着市とか思いつかないです。責めてはならんのです。これはイニシエーションでクンバカです。未来への、自分への。よーし、アーナンダもうダイレク…やめましょう。このネタはやめましょう。
「選んできたぞ」
論鰤が戻ってきました。180cm近い痩身でのロンゲでダサい眼鏡。眼鏡を取ればかっこよくなるリアル少女漫画世界の住人です。そんな彼が選んで来たのは
黒いバーバリーのニット
赤いトルーパーパンツ
うわあ、黒と赤やんけ。やっぱり黒と赤の呪いは強いのか。
「ちょっと試着してきてよ」
笹本が言いました。論鰤が試着し、フィッティングルームを開くとアラ不思議!そこにはちょっとしたモデルみたいな男が立っていました。
元が良いのでちょっとした変化で化ける。実際この後、論鰤はクラスで超絶モテました。しかし誰とも付き合いませんでした。その原因は拙作「ばあれすく」に書いています。
「良いじゃないか。それで行こう」
すんなりと終わったのですが、核弾頭が二発残っています。八神庵とエンジェリックレイヤーです。どうなるのか。怖い。
「選んで来たで!」
豚骨が戻ってきました。彼は前回私のシャツを来て撮影したのですが、「このシャツ好みじゃない!」と言う理由で撮り直しを申請したのです。でも、その心意気は大切。さて、何を選んで来たのか。
セックスピストルズTシャツ
デニムの短パン
まるでインディープロレス団体のヘボレスラーみたいな物質がそこに転がっていました。うわあ…と、全員がうわあ…となりました。そこそこ普通の見た目の人がそう言うのを選ぶと良いのですが、豚骨はチンシンザンです。そんなの、もう大変な状態になるでしょう。キャラが渋滞しています。
「豚骨、頑張りは分かる。マフィアっぽい格好からの脱却な。でもそれは俺のジャンルだし…似合わない気が…」
「なんでや!?俺だって似合うやん!セックスって書いてるし格好良い!」
ああ、駄目だ。色々ともう駄目だ。豚骨を説き伏せてオレンジ色で数本のラインが入ったポロシャツを買わせ、キレイめなジーパンを持ってきたあ大丈夫と伝えもう無視しました。ピストルズTシャツは買っていました。
「お待たせ」
ニヤニヤして「俺のセンスを見せてやる」そんなテンションで戻ってきました。
スッケスケの乳首が見えそうなシャツ
ヒョウ柄のフェイクレザーパンツ
「お前は美川憲一か!!!!」
キレた。笹本がキレた。無禄は何もわからずオロオロしていました。そう、何が悪いのかわからないと言うのが大抵のミス原因なのです。何をしたら良いのかと言うのは何となく分かるのです。しかし、何をしたら悪いのかと言うのは大打撃か他人からの忠告でしか分かることが出来無いのです。
「もう良いんじゃ無い。彼の好きにさせよう」
私はもう色々と諦めて発言しました。笹本は若干言いたい事があったみたいでいたが「察しろ」と言う私の目を見て止めませんでした。フェイクレザーのヒョウ柄パンツってヤバイですよ。本当にやばい。人を選び過ぎる。カリアゲのダンロップ靴野郎が履いていい訳が無い。いや、履いていいんです。でも、そこから何が起こるかは予測すべきなのです。
そして一週間が経ち撮影でした。前回の失敗から学んだのかみんな続々と撮影を終わらせていきます。ポム巻は担任にも褒められて嬉しそうでした。論鰤は眼鏡を外して撮影に臨んだのですが、マジでモデルみたいにかっこよくて女子がキュンキュンしていました。それに対抗心を燃やして豚骨が撮影したのですが「うーん、まあええんちゃうの?」って感じで大抵は無視でした。そして無禄が、無禄が着替えて教室に入ってきました。
スケスケのシャツ
ヒョウ柄のズボン
それなりのローファー
メガネを外した顔
ちゃんと整えた髪型
ワインが入ったグラス
ええええええええええええええええ!?!?!?
撮影は滞りなく終わりました。何も見なかった事にして。まだ一年生なのでこの写真がプロダクションに渡る事は少ないでしょう。それだけが、それだけが救いでした。
「毎年いるんだ…結局もうどうしようもないのが」
担任が苦虫を噛み潰した顔で呟いたのが忘れられません。
そんな事を思い出しながら私は母校の東京校に来ていました。後輩とやる舞台の告知に来ていたのです。
たまたまその日は午後からプロフィール写真の撮影があるみたいでした。
「後藤さ~ん、懐かしいですね~!」
「ミコちゃんの代も赤と黒多かった?」
「え!?後藤さんの代もそうだったんですか!?」
「一人か二人、もうどうしようもない格好の人居た?」
「…!!!!はい…」
「お待たせしました。では告知して良いですよ」
東京校の担任が私たちに言いました。そして生徒が待つ教室に入りました。みんなジャージとかです。まだフィッティングはしていませんでした。もうあれから十年近くか。まあみんな洗練されているだろう。時代は移り変わり、ファッションも移り変わる。その中で深海魚みたいに留まっている人間はいるはず無い。そうだ。我々、人間の武器は進化なんだ。その進化はこの声優専門学校にもあるはずだ。声優グランプリとかも売れているし、声優が外に出る職業だって言う自覚もあるはずだ。そうだ、後輩は俺達よりもちゃんとしているに決まっている!でも一応聞いてみるか。
「この中で黒と赤を基調とした服を持ってきた人~?」
以上を「何故私は「変わっとらんやないか!」と絶望したのか」の懺悔とさせていただきます。ありがとうございました。
~完~
登場人物、声優専門学校の生活はコチラに9万7千文字程書いています。よろしくお願いします。
ばあれすく~声優の生まれ方~
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5479964
※この記事は投げ銭です。何かポンチャックパワーを感じましたらよろしくお願いします。
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