登山における「ベースレイヤー」の"形状"の種類と使い方
ベースレイヤーは、生地の素材や厚さなどが注目されがちですが、実は形状によっても機能性は大きく変わってきます。形状とは、袖の長さやネックの構造、前身頃のデザインなどを指します。
それぞれの形状にはメリットとデメリットがありますので、自分の好みや使うシーンに合わせて選ぶことが大切です。
1. 袖の長さ
袖の長さは、主に日焼け対策や熱調節に影響します。袖が長いほど日焼け対策に有利ですが、熱がこもりやすくなります。袖が短いほど涼しく感じますが、日焼け止めやアームカバーなどの対策が必要になります。袖の長さには以下の4種類があります。
ロングスリーブ
袖が手首まで届くものがロングスリーブです。手首までウェアで覆うことで、日焼け止めを塗らずに腕全体の日焼け対策が可能です。手の甲は別途日焼け止めを塗るか、サングローブを着用することで対策をすることが多いです。
ロングスリーブは、ウェアが手首の先まであるため、空気の出入りがしづらいです。熱がこもりやすく、暑く感じる場合があります。その場合は袖をまくって、腕を外気に晒す方法があります。
そのため袖の太さと腕の太さのバランスを考えてウェアの選択をするのが大切です。腕とウェアの間に十分なすき間があれば、熱が外に逃げやすくなり、かつ袖をめくるのも容易です。袖をまくることができない場合はウェアを水で濡らすことで気化熱により熱を逃がすこともできます。
ロングスリーブは通常の登山者に好まれる袖タイプの一つです。
ショートスリーブ
袖が二の腕の長さ程度のものがショートスリーブです。ロングスリーブと比較して空気の出入りがしやすく、熱がこもりにくいです。
一方で両腕は日光にさらされるので、日焼け対策が必要です。日焼け止めを塗るか、アームカバーを着用します。日焼け止めの場合は定期的に塗りおなすことが必要です。アームカバーの場合は袖との間にすき間が発生しないように着用することが大切です。レディースのショートスリーブは袖が短いことが多いので特に気をつけるべきです。
ショートスリーブは通常の登山者で好まれる袖タイプの一つです。
ノースリーブ
袖がなく、脇が露出しているものがノースリーブです。そのためスリーブのあるウェアに比べてさらに効率的に熱が逃がせるので涼しいです。一方で両腕がさらに日焼けがしやすくなるので日焼け対策が必要です。ノースリーブの場合は、アームカバーを装着しても、肌は一部露出してしまうので要注意です。
ノースリーブはトレイルランニングなど運動量の多い登山で、パフォーマンスを追求する場合に好まれる袖タイプです。通常の登山者ではあまり使用されない袖タイプです。
タンクトップ
袖元もざっくり開かれていて、肩が露出しているものがタンクトップです。ノースリーブよりもさらに熱を効率的に逃がすことができます。
タンクトップは登山ではめったに使われません。肩が露出しているので、ザックを背負った時に、ショルダーストラップが直接肩に擦れるためです。そのため、ザックを背負わない、運動量の多いアクティビティで好まれます。例えばマラソンやランニングです。
2. ネックの構造
ネックの構造は、主に首元の日焼け対策や熱調節に影響します。
ネックが高いほど日焼け対策に有利ですが、熱がこもりやすくなります。ネックが低いほど涼しく感じますが、首裏や後頭部などの日焼け対策が必要になります。
ネックの構造には以下の4種類があります。
クルーネック
いわゆる丸首です。首裏が露出しているので、首裏の日焼け対策が必要です。
しかしながら手ぬぐいを首に巻いたり、つばの広い帽子を被っても、首裏にすき間が発生してその部位が焼けてしまうことがあるので要注意です。
クルーネックは首元をウェアで覆われていない分だけ涼しく感じます。
カラーネック
首を覆うようなネック構造がカラーネックです。首裏の全体を覆うわけではないので、引き続き首裏の日焼け対策は必要です。しかしながらクルーネックとは異なり、首裏にすき間が発生しにくいのがメリットです。
首元をウェアが覆っているので、クルーネックと比較して上半身の熱が逃げにくい点が気になってきます。そのためカラーネックのウェアは前身頃がジップになっていることが多いです。前身頃が開閉できることで、首の一部をウェアが覆っても熱がこもりにくくなります。
前身頃がジップのカラーネックは日焼け対策と熱調節のバランスを取りやすいということになります。
シャツ
いわゆる襟です。カラーネックと同様に首を一部をウェアが覆うことで、首元の日焼け対策に貢献します。カラーネットとは異なり襟を立てることで、さらに首元を日焼けから守ることができます。前身頃がボタンダウンになっていることが多いです。前身頃が開閉できることで、首の一部をウェアが覆っても熱がこもりにくくなります。
シャツは他の形状とは異なりカジュアルな雰囲気を演出できるネック構造です。登山以外でも普段着として使えます。
フーディ
頭をすっぽり覆うようなフードがついているウェアをフーディと呼びます。頭部の日焼け対策として通常はキャップが好まれますが、頭部まわりのすっきりさが求められるクライミングやトレイルランニングではキャップよりも、ウェアに一体化されたフードは手軽に使えるために愛用される傾向にあります。
フードが一体化されていると上半身の熱が頭まで登ってくるため、熱がこもって暑く感じる場合があります。頭の大きさや首の長さによって、フードが頭にフィットするかどうか大きく変わってきますので、自分にあったウェアを見つけるのは難しいです。
3. 前身頃のデザイン
前身頃のデザインは、主に熱調節や着心地に影響します。前身頃が開閉できるものは、空気の出入り口を広げたり狭めたりすることで、衣服内の熱のこもりを調整できます。
前身頃が開閉できないものは、空気の出入り口が限られていますが、開閉部分による肌への刺激や重量増加を避けられます。
前身頃のデザインには以下の2種類があります。
ボタンダウン
前身頃がボタンで開閉できるタイプです。ネックの構造がシャツになっていることが多いためボタンダウンシャツと呼ばれることが多く、特に山で使う場合には山シャツと呼ばれることも多いです。
ボタンダウンシャツは、ボタンを開閉することで、空気の出入り口を広げることができるので、衣服内の熱のこもりを調整できるのがメリットです。ボタンを閉じた状態でも、ある程度のすき間があるので涼しく感じるのも特徴の一つです。
ボタンダウンシャツは前身頃だけでなく袖の部分もボタンで開閉できることが多いです。袖口側の熱のこもりを調整できるだけでなく、袖まくりしやすくなります。
この特徴を活かすためにはボタンダウンシャツを素肌に直接着ることがおすすめです。しかし日本の登山シーンではあまり見られません。登山者の多くはベースレイヤーの上に、ウインドシェル用途に着用していることが多いです。
おそらくボタンのすき間から素肌をのぞかせる点が気になっているのかもしれません。たしかに男性の場合は気にしないかもしれませんが、女性の場合は他人からの視線が気になる可能性があり、ベースレイヤーとしての着用は難しそうです。
最近の山シャツはボタンがスナップ方式が人気です。通常のボタンと比較して開閉がスムーズで、ボタンが目立たないのがメリットです。
ボタンダウンシャツはボタンで開閉できる機能ゆえに通常のウェアよりも高価なことが多いです。またウェアの重量自体も大きくなりがちです。
ジップ
前身頃がジッパーで開閉できるものです。ベースレイヤーの場合、前身頃全体ではなく首から胸元のみジッパーで開閉になっているハーフジップのものが多いです。
ジップは、ボタンダウンと比較してファスナーは開閉が比にならないくらい容易で、開きぐあいの細かい調整もできるのがメリットです。
ジップはファスナー部品が直接肌に接触して、感触が気になる場合があるので、ジップのベースレイヤーを選択するときには試着したほうがよいです。
こちらもやはり女性の場合は、胸元をひらくことで他人の視線が気になる場合があるので要注意です。
ジップはその機能ゆえに、通常のウェアよりも高価なことが多いです。またウェアの重量自体もわずかに重くなることが多いです。
結局どの形状がよいのか?
形状にはそれぞれ理由があるため、個人の価値観や使うシーンで適切な形状は変わってきます。
私の個人的な価値観および登山での使い方では、以下の形状が気に入っています。
袖の長さ:ロングスリーブ
(理由) 登山後にもっとも困るのがお風呂のときに腕が日焼けでヒリヒリすること。外見的にもよろしくはない。日焼け止めはベタベタするし、定期的塗り直しが面倒なので避けている。アームカバーは腕への装着のずり上げ・すり下げが面倒。そのためロングスリーブを好んでいる。
ネックの構造:カラーネック
(理由) 登山後にもっとも困るのがお風呂のときに首裏が日焼けでヒリヒリすること。首裏の日焼け対策には万全を期したいので、カラーネックを好んでいる。
前身頃のデザイン:ジップ
(理由)登山でもっとも大変なのが、樹林帯での急登。標高が低いと外気温は高く、周りの木々によって無風の状態。急登のため体から排出される熱も大きい。体内の熱をできるだけ効率的に排出できるジップを愛用。
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