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【解説】24年ぶり 円買い介入

政府は9/22夕、1998年以来、24年ぶりとなる円買い介入に踏み切りました。介入直前には1㌦=146円近くまで円安が進み、政府はもはや見過ごすことはできない「急変動」と判断しました。介入直後には一気に140円台に円高が進みましたが、その後も乱高下が続きます。介入の「そもそも」や背景、今後の展開をわかりやすく解説します。

まずはチャートから。

この1日はいろいろイベントがありました。

①【AM3:00】FOMCが0.75%利上げ

3会合連続の0.75%利上げ。さらに今後も大幅利上げを続ける構えを示しました。市場の予想よりも利上げに積極的な内容で、ドル買いが強まりました。

②【正午前】日銀が金融緩和維持

円安進行を受け、市場では「日銀が円安に配慮して、将来の金融緩和修正の可能性を示唆するのではないか」との思惑がありました。しかし、正午の結果はゼロ回答。金融緩和の維持を決め、声明の主要な文言は前回と同じでした。じわりと円安が進みます。

③【14:00前】「為替介入、スタンバイ」
神田財務官が円買い介入について「スタンバイの状態と考えていい。いつでもやる用意がある」と語りました。従来より踏み込んだ発言でしたが、市場では「介入のハードルは高い」との見方が多く、円安に歯止めはかからず

④【15:30~】黒田総裁「金融緩和、続ける」
黒田総裁は円安について「一方的な動きで、投機的な要因も影響している」とけん制しましたが、「金融緩和を当面続けるということには全く変わりない」とも強調。会見が進むとともに、円売りが増え、一時145円90銭程度まで円安が進みました。

⑤【17:00ごろ】円買い介入

財務省が介入を決断。直前に145円台後半だったレートは140円台に。数十分で5円ほど円高に動きました。

というわけでもう一度チャートです。ここから円買い介入の意味合いや今後のポイントを説明していきます。

◆ そもそも介入って?

為替介入の実施を判断するのは財務大臣です。為替変動が急激な場合、経済への悪影響を抑えるため、円売り介入や円買い介入を実施できます。円買い介入の場合、財務省が所管する外為特会のドル資金を売って、円を買います。

介入の実務は日銀が担います。財務省の指示に沿って、日銀が三菱UFJ銀行など国内外の銀行に一斉に円買い注文を出します。日銀は普段から銀行との取引が多いため、民間銀行への注文を代行するイメージです。介入の是非の判断には日銀はかかわりません

◆ アメリカの理解が重要

財務大臣の判断といいましたが、為替介入は相手国があります。円買い・ドル売りならアメリカの存在を無視できません。

ところがアメリカはいま、強烈なインフレが社会問題となっています。ドル高はアメリカにとっての輸入品のインフレを抑えてくれるわけで、インフレ退治の点でドル高は好都合。日本の円買い介入は煙たい存在ともいえます。

アメリカの意向を完全に無視して、介入することは「ありえない」(榊原英資・元財務官)とされ、内々にある程度の了承はえていたとみられます。仮にアメリカが極めて協力的で、アメリカ当局も介入に加われば効果は大きくなりますが、そこまでの協力をえるのは難しいとの見方が根強くあります。

11/8には米中間選挙を控えます。インフレはバイデン大統領の支持率低下の主因とされ、民主党の苦戦が予想されています。選挙を前に日本の円買い介入を積極的に歓迎するというのは想定しづらい状況です。

◆ そもそも金利差が…

円買い介入が実施されても、円安の大きな流れは覆らないとの見方も多くあります。

ことしの円安の最大の背景は金利差です。下記は今後2年間の金融政策に左右される2年物国債の利回りの国際比較。昨年末から直近でどう動いたかです。

一目瞭然で日本だけほぼ不動。海外はアメリカを筆頭に金利が大きく上がりました。投資家は高い利回りの通貨を好む傾向があり、ゼロ金利の円は魅力が落ちてしまいました。

為替介入を実施してもこの構図はかわりません。介入は一時的、投機的な動きには強い効果を発揮しますが、上記のような構造要因は円売り圧力も巨大で根強く、介入が「焼け石に水」となる可能性もあります。

その点、この1日でFRBが大幅利上げ路線を強調し、日銀が金融緩和継続を強調したのは重い事実です。

この1-2カ月の円安は短期的に極端な動きだったのかもしれませんが、ファンダメンタルズ(経済の実態)に沿った面もあるのです。実際、2000年代の円高時には何度か円売り介入がありましたが、一時的な歯止めとはなってもトレンドを転換させるほどの効果はありませんでした。

対ドルだけではない

外国通貨はドルだけではありません。ユーロもポンドも人民元もあります。

下記は今年に入ってからの円の下落率(21日夕時点)です。

対ドルで円買い介入しても、他の通貨への円安圧力はなかなかかわりません。かといって、対ユーロでも対人民元でも一斉に円買い介入をするというのは現実的ではありません。つまり円安トレンドを反転させられるか、いろんな意味で効果は不透明なのです。

介入の規模は?アメリカの出方は?

今後の注目点は介入の規模来週以降も続けていくのかという点です。さらにアメリカ当局の出方も重要です。くしくも日本はあす祝日で、東京の為替ディーラーはお休みです。この間に情勢がまた一変する可能性も否めません。実際、介入直後に140円台まで円高に振れたあと、すぐに143円台となるなど、レートは非常に不安定です。

根本的には、円安・ドル高が収まるかはアメリカ次第と言えます。仮にインフレがピークアウトし、利上げも打ち止めが濃厚となれば、米長期金利上昇が落ち着き、ドル買いも和らぎます。その点、今後のFRBのスタンスのほか、米インフレや米景気をとりまく様々な情報をしっかりみていく必要があります。

今後の動向は読みづらく、いろんなニュースも出てくるはずです。引き続きTwitterやnoteで丁寧にカバーしてまいります。

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