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若者が投資する意義はある?

今週、宮崎公立大と九州大で、金融の講義を担当しました。どの程度、関心をもってもらえるか、直前までわかりませんでしたが、真剣に聞いてくれたかたばかりで、その後のフィードバックもとても充実していました。

2校あわせて150人前後の学生さんとお話ししました。すでに株式投資している人はほぼゼロ。ただ、NISAといった言葉はかなり認知されており、大半の方が「投資について少しは勉強したほうがよさそう」と考えている様子でした。

20歳前後から投資を始める意義はあるのか?賛否があろうかと思いますが、私は少額でも始めるほうがいいと思っています。資産形成という面だけでなく、様々な時事ニュースや、社会におけるおカネの役割、といったビジネスパーソンに必要な教養を学べるからです。

90分授業なので全て再現できませんが、エッセンスをお伝えします。

◆ 日本の投資

まず下記のグラフ。日米ユーロ圏の国民の金融資産の内訳です。

日本の金融資産は約2000兆円。このうち半分強が現預金です。株式&投資信託は長年、10%台で推移してきました。アメリカは比率が逆ですね。ユーロ圏はその中間といったところです。

アメリカ型を礼賛するつもりは全くありません。ただ、日本は欧米と比べても株式投資はかなり少なく、預金大国と言えそうです。

日本の投資に慎重だった理由はいくつか指摘されます。

① 1990年~2010年前半まで、日本株は長く低迷した
 →「やっても損するもの」というイメージに
② 学校でも家庭でも、金融教育が充実していなかった
③ 安定性を重視しやすい →「預金が一番」

◆ この数年で変化

ただ、この数年で状況は少し変わってきました。

① 過去10年、日米株ともにおおむね上昇トレンドだった
 → 「株価は下がるもの」というイメージがやや薄れる
② NISAなど制度の後押しやSNSの普及で、投資に関する情報に触れる機会が増えた。高校では金融教育もスタート
③ 今年大幅に円安が進み、「円の預金だけでいいのか」という不安が強まる

実際、20代の方とお話ししていても、「経済は全然わかりませんが、つみたてNISAはやってます」「S&P500がとりあえず無難と聞きましたけど、本当ですか?」といった声をとてもよく聞くようになりました。あくまで私の肌感覚ではありますが、10年前とはずいぶん雰囲気がかわったように思います。

「なんとなくめんどくさそう」「なんとなく危なさそう」というのが投資の最初のハードルだと思います。授業では株式投資は大学生でも手軽に始められ、つみたてNISAなら月100円~始められることをお伝えしました。

「月100円」はメディアなどでよく伝えられていますが、知らない学生も多く、「やってみようと思った」との反応がたくさんありました。

そのうえで、「若者が少額で株式投資することに意義があるのか」という話もしました。

たしかに学生や新入社員だと、月1万円の積み立ても大変な人が多いと思います。年に10万円投資するとして、仮に株価が20%上がっても、利益は2万円。お小遣いとしてはうれしいですが、将来不安を和らげるにはとても十分な額ではありません。

なので、目先の収益という意味では若者が投資を始めることにはものすごく大きな意味はないと私も思います。

◆ 時事教養に強くなる

ただ、投資を始めると、経済はもとより、政治国際ニュースなどに敏感になります。そして、いろんな出来事が密接に関係していることが次第にわかってきます。

そして投資を通じたお金の流れが、企業の競争創意工夫を促し、世界の経済を成長させているという構図も徐々に浮かび上がってきます。

時事教養は幅広い社会人にとって不可欠です。知識が広がり、つながれば、仕事に活きることは多くありますし、たとえば転職する際にも大きな判断軸となります。学生さんならば就職活動にも役立ちます。

◆ マネーのシビアな企業評価に直面できる

そして株式市場はシビアなマネーが企業をガチンコで評価しています。「すごい経営者」「かっこいい会社」といった漠然としたイメージではなく、世界の投資家が日々、企業の成長性事業環境を精査しています。株価が未来を正確に映しているとは限りませんが、いまの世間の評価の均衡点がわかりやすい数値で現れています。

同じ業種の中でもどの企業の方が将来性があるのか。それはなぜか有名でブランドのある企業だけど、これからも成長し続けるのか。そういった多面的な視点をもつうえで、株価はとても役に立つ道具になります。

◆ 中高年になって活きてくる

仮に全く投資をせぬまま定年を迎え、受け取った退職金を銀行員に勧められるがままに投資するといった例も多くあります。銀行員が勧める投資商品が悪いというわけではありませんし、きちんとリスクやコストは説明しているはずです。しかし、投資経験がないと、いくらリスクやコストを説明されても、それが本当に自分にとって適切な投資商品か判断が難しくなります。

少額であっても20代のうちから投資をはじめていれば、上記のような経済リテラシーが身につくとともに、投資のイロハを肌で学んでいくことになります。

40代や50代になって資産が増えてきたときも、投資経験がゼロの人と、20年の人では大きな差が生まれます。

◆ もちろんリスクも

株価も投資信託も価格が下落するリスクはもちろんあります。ただ、株式投資は数十年といった長い目でみれば、経済の成長にあわせ上昇することが多いとされています。

「円の預金」だけだと、円安やインフレが進んだ時に、モノが買いにくくなります。やみくもにリスクをとった投資は危険ですが、資産の一部をほかの通貨や株などの資産に分散しておくことは、自らの金融資産を守るうえで重要だと思います。

◆ 学生の反応

やはり今年の円安は学生にとっても関心事項でした。iPhoneの値上がりなど、身近な話題をだしてみると、円の資産だけを持っていることのリスクについての理解もすぐに得られました。

「シビアなマネーの評価」も、AppleAmazonといったわかりやすい企業の株価の動きをみせて説明すると、関心もかきたてられ、スッと頭に入っていくようでした。

不安わからないことはまだまだありつつも、「投資を始めてみようと思った」と話す学生さんがたくさんいました。

金融教育や投資教育といってもテーマは実に広く、奥深いものです。それゆえ、短時間で全体像を示すのは無理でしょう。まずは、入り口として、わかりやすく、フェアに案内することが大切だと思います。そこから自分自身で無理なく、楽しみながら学んでいけるようになれば、各々の金融リテラシーは自動運転のように高まっていくと思っています。

◆ 試行錯誤 と すりあわせ

とはいえ、今年訪れた学校はまだ5つ。来年はもっといろんな地域の学校を訪れ、若者の目線で何を伝えるべきかをよく考えていきたいと思います。

最近は金融教育を巡って、中央官庁自治体学校と意見交換させていただく機会も増えています。12/10(土)には知るぽると(政府・日銀・自治体などが参加する金融広報組織)が主催する教育関係者向けのセミナーに出てきます。

私がいろんな若者と触れ、なにか思い至ったとしても、その考えもまた偏っているかもしれません。教育に携わる様々な方と意見交換することで、私の理念である「国民の健全な金融リテラシーの向上」を探っていければと思っています。

進展はまた追々noteで報告していきます。みなさんの応援やご意見も大きな推進力になっています。たくさんコメントいただけると幸いです。

👇宮崎公立大学での授業をNHKのローカルニュースで取り上げてもらいました(前の記事で紹介したリンクと同じです)

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