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「逆イールド」 景気後退のシグナル

noteでのはじめての経済解説です。

今朝、YouTubeで配信しましたが、「動画は面倒」という方向けにnoteで編集しなおしました。

■ 景気後退のシグナル

景気後退のシグナルといわれる「逆イールド」がアメリカで発生し、金融市場で話題です。経済の時事教養のキーワードともいえます。

まずはこのグラフ。「2年債とはなにか」はあとで説明します。大事なのは赤い線(米2年債)青い線(米10年債)を上回ったことです。これが「逆イールド」。極めて珍しい事態です。もっと長い期間でみてみましょう

手書きで緑の〇が逆イールドです。縦のグレーラインは景気後退期です。逆イールドのあとに景気後退が起きやすい傾向がわかります。今回、久々にこれがは発生。「景気後退」への警戒がにわかに高まっています。

■ そもそも2年債、10年債って?

個人がお金を借りる時もカードローンや自動車ローン、住宅ローンで、期間が異なります。政府の借金も同様。3カ月債という短い債券もあれば、30年債もあります

主な年限の国債金利を線でつないだものをイールドカーブと呼びます。青は2021年のはじめのイールドカーブ。2年まではほぼゼロ金利で、期間が長い債券ほど金利が上がっています。この右肩上がりのかたちは「順イールド」と呼ばれます。

ところが直近(4/1)時点の赤い線は2年から30年がほぼ横ばい。2年債は10年債の金利を上回り、小幅ながら右肩下がりになっています。これが珍しい「逆イールド」です。なぜこうなったのでしょうか

■ 年限によっていろいろ
年限によって金利の決まり方は様々。下記はざっくりまとめたものです。

3カ月物国債の金利は、アメリカの中央銀行であるFRBの政策金利でほぼ決まります。FRBの政策金利の対象は銀行間の貸し借りの金利ですが、国債とほぼ連動します。たとえば銀行間金利が2%、短期国債の金利が3%だと、どちらに貸したくなりますか?多くのお金は国債に集まり、結局国債金利は2%に近づきます。短期国債が1%になれば今度は買い手が付かず、いずれ2%に近づきます。このため3カ月国債は多少経済情勢が変わろうとも金利は政策金利前後であまり動きません

2年債は今後2年間の政策金利がどうなりそうか、その予想の平均値に近い水準になります。つまり、「FRBがこれから急いで利上げをしそうだ」との予想が広がると、2年債金利も急上昇します。

10年債も理屈上は今後10年の政策金利の平均値に近づくはずです。ただ、10年後の景気はほとんど予測不可能です。そのときの金融政策などもっとわかりません。このため期間が長くなると、金融政策よりもアメリカ経済の潜在的な力や財政状態の影響が強くなってきます。

ここでもう一度、最近の2年債と10年債の金利をみてみましょう

右表は少しシンプルにしています。2年債は急速に金利が上昇しています。10年債も上昇していますが、2年債ほどの勢いはありません。今後の利上げ加速を反映したものの、「4-5年先まで急な利上げは続かないだろう」「潜在的な経済は強くはない」という見方が金利上昇をおさえました。この結果、2年債が10年債を上回りました。

■ 歴史的インフレが引き金

①強い需要、②人手不足、③物流混乱、④資源価格の高騰――などが複合的にからみ、アメリカでは記録的なインフレが起こっています。FRBは物価の安定が使命であるため、インフレが強い場合は利上げで景気にブレーキをかけ、インフレを抑える必要が出ているのです。

FRBは「物価の安定」「雇用の最大化」が使命。ただ、インフレを抑えようと利上げをやりすぎると、景気や株価に打撃を与え、「雇用」にも悪影響が及びます。最悪の場合、インフレと景気停滞が同時発生するスタグフレーションにも陥りかねません。FRBはインフレ退治を優先しつつも、景気にも十分目配りせねばならないジレンマに置かれています。

もう一度、このグラフです。2年債はいわばFRBがインフレ退治のために利上げを進めていくことを反映し、急上昇しました。ところが10年債が映すように、経済は利上げに十分耐えられるほどは強くないかもしれません。

過去の逆イールドはFRBの利上げが景気にブレーキをかけるかたちとなり、その後、景気後退が訪れました。景気後退のシグナルというのは偶然の一致ではなく、一定の因果関係もあります。

■ 今後の焦点は
今後の最大の焦点はインフレです。今年の半ば以降はインフレ率は次第に鈍るとの予想は多いものの、FRBが目標とする2%を大きく上回る状況が続くならば、利上げもなかなか止められません。下記は金融市場が予想するFRBの利上げ見通しです。

青い線は昨年末時点の予想で、赤は直近の予想です。毎回の会合で利上げすることが確実視されています。通常の利上げ幅は0.25%ですが、一度に0.50%の利上げをする会合もあるとの予想が増えています。

景気が不透明で株価が不安定ななか、FRBが何度も利上げをする必要性に迫られれば、景気悪化株価調整のリスクも高まります。物価動向とともにFRB幹部の発言には一段と注目が必要です。今後の物価や金融政策の動向はTwitter(https://twitter.com/goto_finance)やYouTube(https://www.youtube.com/channel/UCeLeyHAaZJb4tm0cAMxc60Q)も含め、適宜情報発信していきます。きょうのnoteのご感想コメント大歓迎です!

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2022年4月3日 後藤達也

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