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【植田日銀展望】キーパーソン内田副総裁

「日銀総裁に植田和男氏、副総裁に内田真一氏 & 氷見野良三氏」と相次いで報じられました。2/14に政府が国会に人事案を提示し、その後、国会の同意を正式に決まりますが、実現は確実な情勢です。

新体制の金融政策がどうなっていくか、今後さまざまな角度から解説していきますが、きょうは金融政策のキーパーソンとなる内田副総裁に焦点を当てて、今後の日銀を展望します。

◆ 日銀のエース 金融政策参謀

内田さんは1986年(昭和61年)に日銀に入りました。新日銀法施行(1998年)以降の25年間の大半で、金融政策立案・運営で重要な役割を担ってきました。

日銀副総裁候補の内田氏

総裁候補だった雨宮さんは7年先輩。「この25年の金融政策は雨宮さんがつくってきた」といわれますが、内田さんも政策参謀として歴代総裁や雨宮さんを補佐し、制度設計では雨宮さんよりも重要な役割を果たしたことも数多くあります。

◆ 黒田総裁から厚い信頼

数多くいる日銀幹部のなかでも、黒田総裁からの信頼がひときわ高かったといわれます。

内田さんは与えられた命題のなかで適切な解を生み出す秀才です。たとえば、「2%目標を達成する」という目標を提示された場合、たとえ困難であっても、現時点でできる最大限の手法を日銀内のあらゆるリソースを駆使し、構築してきました。

2016年にイールドカーブコントロールを導入したときには企画局長として、制度設計の詳細を担い、マイナス金利政策の導入の際には三層構造(専門的なので説明は省きます)など細部の詰めを中堅幹部らと築きました。

短期間で政策パッケージを仕上げる抜きんでた能力は黒田総裁はもとより、日銀の中堅・若手を含め、否定する人はいないと思います。

◆ しかし、白川前総裁からも信頼

では内田さんの政策スタンスはリフレ派寄りなのかといわれるとそうではありません

え、黒田さんに信頼され、政策もつくってきたんでしょ?と思われるかもしれませんが、ここが日銀役職員の奥深いところです。

まずわかりやすくいうと、内田さんは黒田総裁からも白川前総裁(2008-2013年)からも福井元総裁(2003-2008年)からも厚い信頼を得てきました。

白川さんといえば、金融緩和に慎重な総裁として、黒田さんと対照的に語られます。その白川総裁時、内田さんは年功序列の慣例を破って、企画局長に抜擢された経緯があります。そして、黒田体制下でも3年以上、企画局長を続けました。

つまり、内田さんは金融緩和に慎重だった白川体制でも、金融政策参謀として日銀を支えたわけです。福井時代も中堅幹部として政策立案に携わってきました。

◆ 能吏の本音はどこに

このように話すと、「上司によってコロコロとスタンスを変える人」のようにもみえますが、官僚としてはむしろそれこそが職務とも言えます。

金融政策の方向性を決めるのは総裁をはじめ、政府・国会に選ばれた9人のボードメンバーです。内田さんら日銀執行部の役割はボードの議論・決定を支え、きちんと回していくことです。決定方針に口出しする立場ではありません。

つまりこれまでは、時々の総裁のもとで与えられた課題の中で最適解を見出す「能吏」でした。本人の腹の中にある政策スタンスが必ずしも黒田さん寄りとは言えませんし、逆に白川さん寄りとも言えないわけです。

日銀職員の間ですら「内田さんが金融政策の主導権を握った場合、どういう思想になるのか、読めない」との声もよく聞かれます。

◆ 副総裁は違う

「副総裁」となるとステージが変わります。内田さんもこれからは金融政策を決める9票のうち1票をにぎることになります。日銀出身者の代表として立案・執行にかかわるだけでなく、1人のボードメンバーとして自身の判断を発信していくことになります。

とはいえ、総裁を支えるという点ではかわりません。また、政府から任命を受けるわけですから、政府に対立する政策運営をすることも現実的ではありません。総裁や政府の意向を踏まえつつ、内田さん自身がもつ「あるべき政策論」もにじみでてくるかたちになるとみられます。

そして、黒田体制では、投票権はなかったとはいえ、政策立案の中枢にかかわってきたわけです。総裁や政府が、黒田体制からの決別を表明でもしない限り、内田さん自身としても従来の政策からの継続性には十分に留意するはずです。

◆ 物価目標の目指し方 金融緩和の副作用は?

黒田体制は大づかみでいうと、「物価目標を全力で目指す」「金融緩和の副作用は軽視」というスタンスでした。しかし、この10年で日銀が目指す目標は果たせず、副作用は累積しました。

日銀内部でも、やみくもに物価目標を追うのではなく、この10年の経験を踏まえ、政策運営の基本方針を見直すべきだとの声も増えています。この流れに内田さんがどれほどの重きを置いてくるかは、新体制の金融政策を占ううえで極めて重要です。

4/27-28が新体制で初の金融政策決定会合となります。

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