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短観でみる 記録的 人手不足

きのう日銀短観(3月調査)が発表されました。短観は3か月に一度、全国1万社の会社へアンケート調査したものです。いつも報道で「景況感」が伝えられますが、きょうは人手不足にフォーカスを当てたいと思います。

というのも…

ご覧のように、大企業・中小企業とも、かなり下の方にきています。数値は「人手が足りない」と答えた企業の割合から「人手が余っている」と答えた企業の割合を引いた値。つまり、下に行くほど人手不足です。

特に👇の非製造業が顕著です。

大企業非製造業は1992年以来の低い記録です。コロナ前の2010年代後半も人手不足が強まっていましたが、それを超えてきています。

日本の労働者の8割以上の勤務先は非製造業です。上場企業では製造業が目立ちますが、中小・零細企業も含めた雇用でみると、流通、医療・福祉、建設、外食、教育など、非製造業の方がはるかに大きな存在です。

なかでも、動きが激しいのはコロナの影響を受けやすい業種です。👇は目立つ業種をいくつかピックアップしました。

(注)「宿泊・飲食」などの集計は2004年~

宿泊・飲食は顕著ですね。コロナで様々な規制がかかった「宿泊飲食」は2020年に急上昇しましたが、この1年ほどで急低下。今回の2023年3月調査では「-67」という著しい人手不足となっています。

コロナの各種規制が緩和され、会食観光が急回復しています。最近、観光地に訪れた方はレストランやホテルの従業員不足を感じられたことも多いのではないでしょうか。

もともと少子化で労働力人口が細るなか、この10年ほどで構造的に人手不足が進んでいました。2020-22年はコロナという特殊要因でよくもわるくも人手不足が一時的に後退しました。しかし、ここへきてその影響が薄らいでいます。日本の個人消費には底堅さもあり、外国人観光客の需要もあいまって、人手不足が一気に表面化してきました。

◆ 人手不足=賃金に直結

賃上げを左右するのは何でしょうか。いろいろありますが、①企業の利益、②物価、③人手不足感――が大きな3つだと思います。

1つめはわかりやすいですよね。会社が儲かっていれば、従業員の給料も上がりやすくなります。

2つめは物価。食品や電気代など生活必需品が値上がりすると、従業員の生活が苦しくなります。労働組合の賃金交渉も物価の動きは大事な論点となります。2022年後半ごろからは急激なインフレに対応した一時金を支給する企業も増えました。

そして3つめが人手不足感です。人手が余っていれば企業は無理に賃上げしなくても、採用を確保できます。ところが記録的な人手不足下では賃金を上げないと人手を確保できません。

最近は20-30代を中心に転職や副業が増えてます。一つの会社に縛られない価値観が広がれば、なおさら企業は従業員にとって魅力的な賃金や労働環境を提供しないと、人材を確保できない時代に入っています。

連合の集計では今年の春闘の賃上げ率は3.8%と、29年ぶりに3%台を記録しました。収益面で余裕のある大企業の方が賃上げに積極的とみられますが、人手不足は中小企業のほうが深刻です。(👇もう一度、短観のグラフ)

今年の賃上げは、昨年以降の記録的な値上げに対応した面もあり、「一時的ではないか」との見方もあります。ただ、人手不足という構造要因や、転職の広がりという価値観の変化が大きなうねりとなれば、賃上げが持続していく可能性もありそうです。

◆ 賃金は物価と密接に関連

さきほど「物価が上がれば、賃金も上がる」と説明しましたが、両者は鶏と卵の関係です。賃金が上がれば、懐に余裕ができて、値上げしても販売は落ちにくくなります。このため、企業やお店も値上げにちゅうちょしなくなります。

これまで政府や日銀は賃上げと値上げがうまく循環することをねらってきましたが、なかなか実現しませんでした。ところが、人手不足や雇用流動化が進むなか、海外初の値上げショックを起点に状況はかわりつつあります。

こうした状況が続けば、日銀の金融緩和も今後、徐々に修正に向かう可能性もあります。

給料、転職、物価…などなど身近な経済の話題はいろんなところでつながっており、それが金融政策も株価も左右します。こんな視点でどんどん物事をつなげていくと、ニュースはおもしろく、深みを増します

また新たな動きがありましたら、経済指標やマーケット・政策の動きもまじえ、解説していきます。

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