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【3分解説】米債務上限問題

米債務上限を巡るニュース。日本でも取り上げられる機会が増えてきました。金融市場やアメリカ経済が混乱状態に陥るリスクも意識されています。いったい何が起きているのか。市場に与えるリスクの大きさも含め、サクッと解説します。

◆ 政府も同じ

政府とて、おカネがなければ行政サービスができません。

そして、政府も身の丈以上の借金をすると、個人や企業と同じように危険です。「この国は借金を返せそうにない」とみなされると、低い金利でおカネを借りられなくなり、財政が行き詰まります。通貨が売られ、インフレが加速する恐れもあります。

そうした事態は新興国では近年もいくつか起こっています。アメリカはそうならないよう、「債務上限」というルールをもうけています。政府が国債をむやみに発行したり、無駄遣いをしたりしないための規律です。

ところが、政府債務がこの上限に達してしまったのです。早ければ6月にも米政府の資金繰りが行き詰まるおそれがあります。

◆ グラフでチェック

まず、実際の政府債務残高をみてみましょう。

2020年にコロナが襲ったあと、国民への現金給付などの経済対策で、政府債務は急増しました。その後も増え続け、いまは31兆ドルを超えています。

日本円換算だと4000兆円以上。日本は1000兆円強で借金大国といわれますが、アメリカのほうがずっと多いわけです。

で、このグラフに債務上限も付け足します。

みてのとおり、赤い線は何度も引き上げられています。ところどころで途切れていますが、これは上限の適用を「しばらく停止」する措置です。停止されているので、上限はなく、債務を増やすことができます。実際、赤い線が途切れているところでは債務残高が膨らんでいますね。

つまり、規律はあるものの、議会で合意されれば、引き上げや停止ができるわけです。こうみると、有名無実のようにも思えますが、実態はもう少し複雑です。

◆「大きな政府」vs「小さな政府」

民主党はしっかり財政出動し、国民生活を支えようとする「大きな政府」が基本スタンスです。一方、共和党は政府が介入するのは必要最小限にし、あとは民間の活力にまかせる「小さな政府」の姿勢が軸にあります。

つまりバイデン大統領は上限引き上げを目指しています。しかし、共和党は大規模な歳出削減を求めています。両者の議論は平行線。5/9にはバイデン大統領と、共和党のマッカーシー下院議長らが会談しましたが、進展はありませんでした。

来年の大統領選も意識され始め、双方とも安易な譲歩に動く気配はありません

そして、昨年の中間選挙では、共和党が下院で過半数を獲得しました。つまり、上院は民主党、下院は共和党というねじれが起こっています。債務上限の取り扱いは両院の合意が必要なため、なかなか展望が開けなくなっています。

◆ このままだとどうなる?

資金繰りが行き詰まると、国防など必要不可欠なものを除き、政府機関が閉鎖されます。

この10年では2度、政府閉鎖がありました。オバマ政権、トランプ政権でそれぞれ議会がもめ、政府の支出が一部止まりました。国防や医療などを除き、多くの政府サービスが止まります。自由の女神が休業となったり、金融市場で注目される雇用統計の発表が大幅に遅れたりしたこともあります。

米国債が債務不履行(デフォルト)となるリスクもあります。借金の利払いも滞り、米国債を持つ投資家が被害を受け、売りが売りを呼び、金利が上昇するシナリオも拭えません。

そして、米国債は世界の金融市場の心臓部。銀行間の資金繰りや融資、社債金利などに密接に関係しています。ただでさえ、銀行破綻で金融に不安定さが残る中、仮にデフォルトが起これば、大変です。

2011年には債務不履行の懸念から、米国債が格下げされ、株式市場を含むマーケットが混乱に陥ったことがあります。

イエレン財務長官は「経済と金融の破局を生み出す」と主張。パウエルFRB議長は5/3の会見で「議会と政府が対処するが、債務上限を適切な時に引き上げることが不可欠だ。できなければ、経験したことのない事態に陥る」と述べています。

◆「Xデー」はいつか?

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